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ハウスキーパー

タイトル:(仮)ハウスキーパー

▼登場人物
●面堂(めんどう)カケル:男性。40歳。独身サラリーマン。面倒臭がり屋。
●幸田(こうだ)ルミ子:女性。30代。カケルの部屋にやって来るハウスキーパー。美人。
●相川愛美(あいかわ まなみ):女性。30~40代。カケルの理想と夢から生まれた生霊。

▼場所設定
●街中:カケルが働いてる会社など一般的なイメージでOKです。
●Bothersome:都内にあるお洒落なカクテルバー。愛美の行きつけ。本編では主に「カクテルバー」と記載。
●カケルの自宅:都内にある一般的なアパートのイメージでお願いします。

▼アイテム
●Motivation in Reality:愛美がカケルに勧める特製の錠剤。これを飲むと生活への覇気が出てそれまでの生活を変えられる。でもこれは実は偽薬に近い。そう思い込むだけ。ただ環境が変わる事で生活が楽しくなり、その延長で心の中に少し油断・隙が生まれる事になる(この辺りはニュアンスで描いてます)。

NAは面堂カケルでよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたの家に、ハウスキーパーさんが来た事はありますか?
まぁ在宅ヘルパーさんと言えば解り易いかもしれませんが、
今の時代、いろんな仕事が流行ってるようです。
今回は、そんな便利な環境に埋もれてしまった
ある男性にまつわる不思議なお話

メインシナリオ〜

ト書き〈カケルの自宅アパート〉

カケル「あ〜面倒くせぇなぁ…。こないだ掃除したばっかなのにもう汚れてやがる…」

俺の名前は面堂カケル。
今年40歳になる独身サラリーマンだが、
俺の性格は極度の面倒くさがりで、
とにかく何をするにも面倒くさい。

仕事をするのも面倒だし、日常生活を普通に送るのだって面倒だし、
家賃を払う事すら面倒くさい。

カケル「ハハwほんと、面倒だから家賃も払わずに済んだらイイんだけどなぁwだったら働かずに済むのに」

俺が今働いてるのは単純に生きる為。
生活の為に働いているのであり、
打ち出の小槌でもあれば俺は今すぐにでも会社を辞めて、
その小槌でカネをどんどん量産して家賃にあて、
俺はこの1人の牙城をずっと守って生きていく。
きっとそうなるだろう。

カケル「小槌打つぐらいだったら、まぁ出来るからなw」

そんな、どうしようもない人間だった。
こんな俺の所に嫁なんて来る訳がない。
まぁ結婚はもう諦めていたが、それでも日々の生活…
この面倒くさい生活を
どうにかして楽なものに変える事はできないか?
そればかりを考える毎日だった。

こんな俺がほんと一般の会社で、
これまでよく続いてきたもんだ。

とは言え、俺は会社を転々としていた。
今回の会社はここ数年で実は7社目。

履歴書には嘘を書き、
直近で働いていた会社の事しか書いていなかった。
それでもまぁ上手くやれば騙し通せるもので、
今の会社の奴らも俺がそんな男だとはおそらく知らないだろう。
会社では、一応体裁を繕っているからね。

ト書き〈カクテルバー〉

そんなある日の会社帰り。
偶々仕事が上手くいって俺は機嫌が良く、
いつもの行きつけの飲み屋街へ行って飲む事にした。
こんな俺の唯一の嗜好品は酒とタバコ。あとコーヒー。

そして通りを歩いていると…

カケル「ん、あれ?こんな店あったのか?ふぅん」

全く見慣れないバーがある。
名前は『Bothersome』。

カケル「へっw面倒臭がり屋の館(やかた)ってわけかwま、今の俺にゃ丁度イイ場所かもなw」

そんな感じで俺は店に入り、
カウンターについていつものように1人飲んでいた。

カケル「はぁ。今のこんな生活、どうにかして華やかなものに変えられないかなぁホント…」

労力を最小限に抑えた上で、
自分の理想的な華やかな生活を求め続ける。

これが俺の人生における第1のモットーで、
次にその華やかさを求める延長で
1つ花を添える女でも適当に見繕えればそれで良い。
そんな事を延々思いつつ、また今日も飲んでいる。

して居るとそこへ…

愛美「こんばんは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」

と1人の女が俺に声をかけてきた。
俺みたいな奴に声をかけてくる女なんて珍しいなぁ…
なんて思いながら振り返って見ると結構な美人。

カケル「あ、どうぞ」

適当な感じで無愛想に席をあけ、その女を迎えてやった。
今となれば、もはや美人を見てもあんまり心は動かされない。
女なんてもし付き合えたとしても、
適当に俺のそばに居た後
必ず皆どこかへ散って行く。今までの教訓だ。

愛美「どうも」

でも、何となくだが彼女だけは少し違った。
今俺の隣に来たこの女の名前は相川愛美さんと言って、
都内でライフコーチやメンタルヒーラーの仕事をしていると言う。

「ふぅん」なんて思いながら聞いていたが、どうもこの女、
今まで出会ってきた女とは全く違ったオーラを持っていた。

「昔どっかで会った事のある人?」
みたいな感覚をまず投げかけてきて、それで心が少し和むのか。
次に自分の事を無性にこいつに話したくなる。

なんでそんな気持ちになるのかホント解らなかったが、
俺は心の通り、その通りに行動していた。
まぁ悩み相談のような形だ。

愛美「へぇ、そうなんですか?」

カケル「ええ。何もかもが面倒くさくなっちまってね。もうこうして生活してるのも何だかやり切れなくて。何か張り合いのつく楽しい事ないかなぁなんて、思ったりする毎日なんですよ〜w」

いつもの適当な口調だったが、俺はなるべくその時
心の中にある正直を彼女にぶつけていた。
そんな事を言えば普通はどんな女も大抵引くのに、
やはりこいつは違う。

俺のそんな愚痴のような話を真剣に聴いており、
馬鹿みたいな正直な態度で一々頷きながら俺の顔を見てくる。

「変な奴だなぁ」なんて思いながら見ていたが、
ここでもう1つ、不思議に気づいた。
普通そんな流れになれば
恋心のようなものが芽生えておかしくないが、
こいつに対しだけは全くそんな気が起きない。

それどころかもっと自分の事を知って欲しいと思うようになり、
俺は更に自分の人生の理想、将来の夢、なんかを
延々こいつに語り聞かせている。
こんな事もこれまでの日常からみれば無かった事だ。

カケル「ハハwなんかアンタって、不思議な人だね?こんな話、聞いてて面白い?なんかあんまり真剣に聞くからさ、俺もついその気になっていろいろ喋っちゃったよwごめんね」

そう言っといたのだが彼女は…

愛美「いえ、私も職業柄、そんな話をちゃんと聞かせて頂けるのは本当に有難いんですよ。自分のこれからの仕事の糧にもなりますし」

そう言ってきた後…

愛美「良いでしょう、分かりました。それでは私が少し、あなたの今の生活を立て直す為の、お力になって差し上げましょうか?もしよろしければですけど?」

と言った。

カケル「…は?いや、別にそんな事しなくてイイですけど?」

とは言ったものの、本当は解決してほしい。

そして彼女は…

愛美「まずこちらのお薬をあなたにお勧めしましょう」

そう言って持っていたバッグから
瓶入りの錠剤を取り出してきて、それを俺に勧めてきた。

愛美「これは『Motivation in Reality』と言う特製のお薬で、これを飲めばきっとあなたの心に生活へのやる気が出てきて、今の何事にも面倒くさがるその性格が少し変えられるでしょう」

愛美「そして、まぁこちらを見て下さい」

そう言って次に同じくバッグから
パンフレットのような物を取り出してきて、
そこに記載されてる内容を俺に見せてきた。

そこには何人かの女性の写真が載っており、
その中から気に入った女をハウスキーパーにしてみたらどうか?
なんて唐突に言ってきやがったのだ。

カケル「ハウスキーパー?なんだそれ?」

愛美「まぁ家政婦さんのようなもので、あなたの家の事を何でもしてくれて、身の周りの世話から日常生活に必要なものを揃えてくれたり、つまりあなたの生活を助ける人の事です。家の事をいろいろしてくれますから、あなたは何もしなくても快適な生活を送る事ができますよ?」

カケル「…いやいいよ、そんな事してくれなくたって。どうせそれって高いんでしょ?こういうの持ちかけてぼったくる業者って沢山あるんですよねぇ?」

俺は始め全く乗り気じゃなかったが、
やっぱりこいつにはどこか不思議なオーラがある。
彼女に言われると何となくその気になってしまい、
別にそういう生活を送ってみても良いかなぁ…
なんて訳も分からず納得させられる。

そして…

愛美「フフ、いえいえ、私をそこら辺のぼったくり業者と一緒にしないで下さい。料金は全て無料で結構です。私どものこういった事業は皆ボランティアでしておりますので、サービス料は元々無料なんです。これはいわゆる生活に疲れ果てている人を対象にした救済活動でして、あなたのような方にはぴったりだと思って今お勧めしております。失礼は承知の上ですがあなた、今こんな、何でもしてくれる人が必要と思ってるんじゃないですか?」

愛美「それに無料なんですから、あなたにとっても別に何も失うものは無く、却って生活にいろいろ刺激を受ける事もでき、その将来を変えるキッカケも掴めるんじゃないでしょうか?とりあえず試してみる価値は、私はあると思いますけど?」

と更に彼女は真面目にこう言ってきた。

カケル「…まぁそこまで言うんでしたら、とりあえず試してみてもイイけど」

ト書き〈数週間後〉

それから数日が経ち、数週間後。
俺の生活は本当に変わっていた。

あれから数日後、本当に俺の家にハウスキーパーが来てくれるようになり、
俺の身の周りの世話や家の事を何でもしてくれるようになった。

掃除や炊事・洗濯を始め、しかも更に嬉しい事に
給料前の財布が乏しい時なんか俺の飲み代まで工面してくれる。
しかもサービス料は本当に無料。

「普通こんな事までしてくれるハウスキーパーが居るのか?」
なんて思っていたが、そこは俺の持ち前の
面倒くさがりの性格が全て良しとしてそれ以上考えない。

「くれるんなら貰っておくぞ」の精神で、
その後、俺の生活はそれなりに豊かになり始めていたのだ。

カケル「ふぅん。まぁやってみて良かったかもな」

もちろんハウスキーパーなんて利用するのは初めての事。
でもけっこう快適な生活だ。

家に来てくれるようになったハウスキーパーの名前は
幸田ルミ子さんと言い、どこか裕福な育ちでありながら、
上品で、余計な事は何にも聞かず性格もできた人。

それにこう言っちゃなんだが、
結構俺のタイプのヤツでもあったのだ。
でもまぁ女と真剣に付き合うのは面倒だから
それ以上シリアスな展開に持ち込むのだけはやめていた。

ト書き〈カクテルバー〉

それから数日後。
俺は又あのカクテルバーへ立ち寄っていた。
するとまた前と同じ席であの愛美さんが飲んでおり、
俺はとりあえず彼女の元へ駆け寄りこの前のお礼を言った。

カケル「いやぁ愛美さん。あの人、紹介してくれて有難うございますねwけっこう今快適な生活を送る事ができてますし、そのぶん他にやりたい事もできるようになって、まぁそれなりのメリハリを生活につける事も出来てるようです」

愛美「そうですか♪それはよかったです」

愛美は俺からそう聞いて自分の事のように喜んでくれた。
今どきホントに珍しい人も居るもんだ…
なんて思いながら聞いてたが、この時、
愛美は1つだけ忠告めいた事を俺に言ってきた。

愛美「今あなたのお家に来られるようになったルミ子さんの事ですが、彼女は仕事で来ておりますので、決して妙な気持ちを起こして彼女に迷惑をかけるような事だけはしないで下さいね?まぁあなたの事ですから大丈夫だとは思いますが、一応念の為」

何かと思ったらそんな事。

カケル「ハッw解ってますよそんな事。女と付き合うなんて、俺は生まれてこのかた1度も真剣に考えた事ないんですよねwだって面倒くさいじゃないですかw付き合えば、次は結婚の事考えなきゃならないんでしょう?俺は独り身の方が性(しょう)に合ってんです。だから心配要りません。彼女にはこれまで通り、身の周りの事をしてくれたらそれで充分ですから」

そう言って簡単に返しておいた。

ト書き〈トラブル〉

しかし、やっぱり人の言う事なんてアテにならない。
状況が変われば心も変わる。

その日、俺は久しぶりに会社で失敗してしまい、
けっこう大事な仕事でミスをしてしまった。

上司からこっぴどく叱られて、周りの奴らからも少し馬鹿にされ、
それが理由で同僚と喧嘩した後、今度は違う店に飲みに行き、
そこでしこたま飲んで家に帰ってきた。

するとルミ子はまだ俺の部屋に居て、
いつも通り家事をてきぱきとこなしている。
そんなルミ子の姿を見ていると、何か少し催してきてしまい…

カケル「…なぁルミ子さん。ちょっと今日はさぁ、心のほうのメンテナンスもしてくれないかなぁ?なぁに金は払うよ。アンタだって別に嫌じゃないだろ?これまでいろんなこと俺にしてきてくれたんだし」

ルミ子はけっこう俺に好意を持ってくれていたようで、
これまで恋愛相談やなんかをしていた時、
ちょっと迫ってくるような、そんなそぶりも見せていた。

だからここぞとばかりに今度は俺のほうから彼女に責め寄り、
なるべく彼女の性格やなんかに従う形で無難に近づき、
彼女の心と体を欲しがってしまった。
別に「いっときの関係でも良いから」と。

でも…

ルミ子「や、やめて!何するんですかあなた!私そんなつもりでここへ来てるんじゃないんですよ!」

と本気で怒り、俺を突き飛ばして部屋から出て行こうとした。

普通に出て行くだけなら俺も見逃していたかもしれないが、
突き飛ばされた拍子に俺も少しよろめき、
バランスを崩した先に丁度テーブルの角があり、
そこに体をぶつけて痛かったので、つい俺も怒ってしまった。

カケル「おいコラ!お前!ハウスキーパーで来てる分際で、俺に何してくれやがるんだこの野郎!」

そう怒鳴るように言って出て行こうとしていた彼女の手を掴み取り、
また部屋に引き戻して押し倒そうとしてやった。

この時は「彼女が好きだから」なんてそんな感情ではなく、
今俺にした事へのツケを払わせる為に押し倒し、
それなりの責任を取らせる為に俺の言う事を聞かせる…
その気持ち1つで彼女に馬乗りになっていた。

ルミ子「やめてえ!寄らないで!このケダモノぉ!」

その時ルミ子はこんな事を言ってきたので更に俺は怒ってしまい…

カケル「ンだとぉこの野郎!てめぇ5体満足でこの部屋から出さねぇからな!覚悟しろやぁ!」

そうして無理やり彼女にキスしようとした。

ト書き〈オチ〉

その直後…

愛美「やっぱりこんな事になっちゃうんですねあなたも?」

いきなり背後から声がして驚いた。
振り返って見るとあの愛美さんがそこに立っている。

カケル「うおわ!?ま、愛美…さん!?」

部屋のドアも開いてないのに、窓も閉まっているのに
一体どうやって今ここへ入ってきてるんだ?
まずこの疑問が湧いてきて、この時、
愛美が普通の人間ではないような気さえした。

カケル「あ…あんた、一体…」

そう言おうとした俺を遮るように彼女は…

愛美「あなたは結局、私との約束を破りました。今からその事の責任を取って貰いましょう」

そう言って怯んだ俺を睨みつけつつ、
床に倒れたままのルミ子の手を引き、立たせ…

愛美「ルミ子さん、もう帰って良いですよ。大丈夫です。あとは私がちゃんとしておきますから」

そう言って部屋からルミ子を帰した。

カケル「ちょ、ちょっとあんた…!」

余りに一方的に事が進んでいたので
俺はやはり怒りのような気持ちを心に宿し、
今度は愛美に対して食ってかかろうとした。

でも愛美は全く冷静に俺に向き直り…

愛美「残念です。あなたの生活を少しでも彩りよく、メリハリのついたものにしてあなたを喜ばせようとしてあげただけなのに。あなたはその幸せを、自ら壊してしまいましたね。今度生まれ変わる事があるなら、もう少しその面倒臭がり屋の性格を何とかして、他人に配慮できる人になれるよう祈る事ですね」

そう言って彼女が指をパチンと鳴らした瞬間、
俺の意識は飛んでしまった。

ト書き〈空気になったカケル〉

そして俺は今、
それまで住み続けてきたこの部屋の中にだけ漂う
空気として生まれ変わっていたようだ。

天井辺りから部屋の中をずっと眺め続け、
この部屋から出る事は一切叶わず、ただそうして生き延びるだけ。
もちろん他人から俺の姿は全く見えない。
そこに居る事すら気づかないのだろう。

やがてこの部屋に新しい住人が入ってきて、
その人の生活を俺はずっと空気になって眺め続ける。

空気だから働く事もなく、衣食住に必要なものを揃える事もなく、
ただ皆が吸って吐く空気としてとりあえず役立っている。
そして空気だから、他人に触れる事もない。

そんな経過で空気になった俺はその時…

空気のカケル「…まぁこんな生活も、悪くないかなぁ…」

と思っていた。

ト書き〈アパートを外から眺めながら〉

愛美「フフ、今日もいろんな人の為に空気となって役立っているわね、カケルも。私はカケルの夢と理想から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに彼の前に現れた」

愛美「まぁ私は優しいほうだから、それでも彼の存在を消す事はせず、今後は空気として彼の居場所を用意してあげたの。私に感謝して貰わなきゃね。いくら面倒臭がり屋でも、他人に配慮する事まで面倒くさがっちゃいけない。それは道徳を破る事に繋がり、やがて犯罪への一線を超えるのを躊躇する事まで面倒くさがる」

愛美「そうなれば善悪の区別さえつかなくなって、面倒臭がり屋どころか常に他人に迷惑をかけ続ける、人災の様な存在になってしまう。道徳を踏み外す事と面倒くさがる事、これは得てして裏で複雑に繋がっているのかも。これからは皆が共有する空気として役に立ち、これまでの自分の生活で犯し続けてきたその罪の償いをしなさいな。そのうちルミ子さんもこの部屋に引っ越して来るかもしれないし…」

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