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玄人素描

玄人素描
 創作意欲あれども、その時の気分の悪さで、才能が尽きてしまう。(正直に、正直に。)誰か僕のモデルになっておくれ。寂寥に負け、つい、他人をあてにしてしまう。それは既に、創作から離れている。模範を見付け、ただ、憧れただけに過ぎない。(騒がしい、世間が騒がしい。)今度は、その億劫と切望の無さを世間の所為にしている。ただ、自分が生き抜いているだけに過ぎない。嫌になる。(歌を唄った。)影響された。声も少し嗄れた。良い歌と思った。(漂流地獄の彼方から、声がする。)「今すぐ、死ぬが良い。そうしなければ、お前は、一生、その監獄から出られなくなるのだ。お前は、自分を、そこに閉じ込めて、外界では、一生、自分を見付けることは出来ない。母親を追う姿に憧れて、母親の所為にしてはいけない。父親を敬う姿に憧れて、父親の所為にしてはいけない。自分を大切にしなさい....。何事にも、ものの順序があり、そのものの順序を御座なりにしてはいけない。しっかり見詰めなさい。お前は、やはり、今も、逃げ続けている。逃げるだけでは”生”は勝ち取れぬ。何の感動も得られていないのに、もう一度、もう一度、と、違う巻のシリーズ映画を観ているようなもので、その内、神経が惨って、お金も尽きてしまう。かきものにしても、先ず、かきかたを覚えること。こつこつやりなさい。外界の声に惑わされて、自分の姿を見失ってはいけない。プライドを持ちなさい。根気を持ちなさい。それは、一人きりのもので良い。きっと、お前自身の役に立つ。お前は、今、実際に生きている。生きる中での喜びを会得しなさい。そのことは、確実には、隣人は教えて呉れぬ。....」(後略)。
 僕は、ものをかいた。空虚だった。だが、時間を過した。詰り、相応の興味は得た。自分なりのかきかたを覚えた気がして、浮ついた。これを、誰かが悪く言おうものなら、罰が下る事を祈る。しかし、自然にそう成るだろう。そこに他人を組ませた覚えはないのだから。プライベイト。
 テレビのニュースで、政治家、小説家(作家)、タレントまでが集まって、何やら問答をしている。勝手な偏見を並べ立てて、さも、それを神の声のように自分で仕立て上げる。どんなに上手く買い被っても、その一つ一つの”仕立て”が、目には見えている。嫌なものだ。そんな番組をするのなら、普通、殴り合いの喧嘩になる筈なのに、皆、最後は、言葉で以て、丸く奇麗に収めようとする。奇麗もの好きなのだ。癌患者が出演して、癌のことについて話すものなら、論の模範もあるのだが、そんなものは、何の価値もない。ただ、セールスマンのように、他人のところまで訪問しに行って、自分の得意の舌で以て、相手を言いくるめるだけである。いい加減にして欲しい。そんな番組は見るだけで目障りだ。(欄にて。)胸がカッカッしてくる。無駄骨を押し売りされたような気分だ。正直な神経の持ち主ならば、そんなふざけた真似はしないで貰いたい。態々、出て行って、他人の神経を逆撫ですることもあるまい。ただ、褒められれば良いのだ。
 ああ、なにか良いものはないものか。この僕をやさしく包んで、あたたかくしてくれ得るものは。外界でそれを見付けても、それは消えてなくなる。白紙にかいた感動言のすべてが、無駄になってしまうのだ。ものかきなど、因果な商売。この世は欲望地獄なのに、その欲望を抑えてまで作品の為に没頭しなければならないのだ。自由とは束縛である。孤独とは、やかましさである。やさしさとは、冷たさである。末永く、その作品を続けたいのならば、それまで続けて来たことを惜しまずにして、別のことをかき始めるのである。こだわりほど、人を空しく素人にしてしまうものは、この上でない。
 ああ、なにか、良いものはかけぬのか。今日、朝に、眠る前に、会った女のことでもかこうかしら。ああ、それも、もう、記憶にはもの薄く、見る陰もない。なるべく、恨み、つらみ言は、避けたい。楽しいこと。かく気力に負けて、それもすべてが無になってしまう。怪訝たる顔で、煙草を吹かす。良いものをかけそうもない。今日はこの辺りで止めにしようかしら。未だ、事終えて、見透す眼力を携えてはおらぬ。....。かくのは、もはや、このくらいでも良い。


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