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スマホの執念

タイトル:(仮)スマホの執念

▼登場人物
●柴戸 泰(しばと たい):男性。22歳。大学生。杜撰で面倒臭がりの性格。ただ有名になるのが夢。
●尾和瀬(おわせ)ユメル:女性。20代。泰の夢と欲望から生まれた生霊。

▼場所設定
●街中:公園は泰の自宅から最寄りにある市営公園。本編では「公園」と記載。
●泰の自宅:都内にある一般的な都営アパートでOKです。
●OB喫茶:一般的な喫茶店イメージでアルコールも飲めるお洒落な印象。
●泰がスマホを飛ばした山:自宅から最寄りにある標高の低い山。
●スマホが落ちて来る山:泰が想定してた場所から随分離れた場所にある。一般的な山岳のイメージでOKです(本当はスマホは海に落ちていたと言うオチ)。

NAは柴戸 泰でよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたはYouTubeなどで、成層圏まで到達したスマホ…
なんて見出しの動画を見た事がありますか?
少し前から流行っている企画もので、
これは個人でもそれなりに準備をすれば目的が達成されると言うもので、
結構多くの人がその計画を試みたりしてるようですね。
でも、これは全ての企画モノに言える事ですが、
余り計画性の無いプランを実行してしまうと
得てして不思議な現象に遭ったりもするものです。

メインシナリオ〜

ト書き〈公園〉

俺の名前は柴戸 泰(しばと たい)。
今年で22歳になる大学生。
もうすぐ就職だと言うのに俺は今、
自分の或る夢に向かって羽ばたこうとしている。

それは…

泰「はぁ。どうやったら良いんだろうなぁ。このスマホ、成層圏まで飛ばしてみて、それをYouTubeなんかでアップして、ちょっと有名になりたいなんて思ったんだけどなぁ」

そう、俺は新しく買った予備のスマートフォンを気球か何かに取り付けて、
それをそのまま空高くまで飛ばし
対流圏やオゾン層を超えて成層圏まで飛ばす事。

そしてそのスマホの動画で撮った内容をあとで確認し、
自分が管理してるYouTubeのサイトでアップしてみたい。

まぁこんな他愛ない夢だったのだが、
もしこれが成功してそれなりにバズり
人気YouTuberにでもなれたら
初めはそれを副業とするかもしれないが、
やがてそれを本業として自分もネットの世界で活躍してみたい…
そんな仄かな夢を持っていたのだ。

だから今就職活動に走ろうとしているがそれは出来れば副業にして
俺の本業は自分の趣味でする事・好きな事をずっとやり続け、
それで食べていく事、そっちのほうにあったのだ。

でも俺には何の準備も知識もない。
そんな高くまで飛ばす気球も無ければ、
このプランを達成する為に必要な準備の仕方も分からない。
あんまり細かな事を調べるのはどうしても面倒臭く、
昔からの怠慢な性格が祟って
こんな些細な夢も絵に描いた餅状態になってしまう。

ただ衝動的に買ってしまったこのスマホ。
俺は2台のスマホを両手に持ち、
その成層圏まで飛ばす筈だった予備のスマホを見つめながら…

泰「諦めるしかないかなぁやっぱり…」

なんて今日この公園で、
密かにそのプランを断念する決意を仕掛けていた。

ト書き〈出会い〉

でもその時…

ユメル「こんにちは♪ちょっとイイですか?今大学生の方にアンケートを取らせて頂いてるんですけど、将来の夢やなんかについて少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」

そんなふうに声をかけてくる女の人が居た。
「えっ」と思って振り返って見ると結構な美人。
まぁ今日は暇してたので別に断る理由もなく、
とりあえずそのアンケートを取られてやる事にした。

彼女の名前は尾和瀬ユメル。
何か不思議な感じの人で、一緒に居るとどこか落ち着いてくる。
それに喋っていて気がついたのだが、
「昔どこかで会った事がある人?」
のような感覚を漂わせ、その点でも何となく心が解放される。

その延長でか、俺は自分の事を彼女に無性に話したくなってきて、
ついその「将来の夢」にあやかる形で
今追いかけようとして断念しかけているその夢の事を話していたのだ。

そう、成層圏までスマホを飛ばすというその夢。

ユメル「へぇ♪凄いですね!そんなこと考えてらっしゃったんですか?」

泰「え、ええまぁ。でも、やっぱり諦めようかなぁって今思ってんですよ。ただ飛ばすにしてもいろんな準備が要るようだし、僕にはなんだかとても…」

そこから自分なりの悩みを彼女に打ち明けた。

それにもう1つ不思議な事に、
彼女に対しては身内の感じがするからか、
恋愛感情と言うものが全く湧いてこない。
こんなに美人な彼女なのに…
それも何となく不思議だった。

ユメル「でもそんな大きな夢を諦めちゃうなんて勿体ないですよ?実は私、本業で『夢コンサルタント』という、誰かの夢を応援する企画の仕事に就いておりまして、今のあなたのような夢をサポートする為の準備もさせて頂いております」

泰「え?」

ユメル「いかがですか?私が改めてお手伝いさせて頂きますけど、その夢、叶えてみませんか?」

驚いた。
まさか、こんな申し出をしてくるなんて。

泰「いや、ちょっと待って下さいよ。え?ほんとに?」

ユメル「ええ♪もしあなたがその気なら、今すぐにでも準備に取り掛からせて頂けますよ?」

当然そんなこと言われても信じられない。
今初めて会った初対面のこの人なのに、
なんでそんな準備までしてくれるのか?

その疑問は確かに大きかったが、でもこの時…

泰「(もしそれでホントに実験が成功してスマホを成層圏まで飛ばす事ができて、それをYouTube動画にアップして有名になれたら俺は…)」

そんな事を考えながらただ有名になる事を目指してしまい、
その企画を達成できるだけの実力が自分に無いにも関わらず、
俺は彼女の話に乗ってしまった。

そう、あと1つ不思議だったのは、
彼女に何か言われると
その事を信じてしまうというその感覚。

ユメル「そうですか、よかったです♪では改めまして明日(あす)の夜、OB喫茶でお会いしましょうか?あ、OB喫茶ってご存知でしたか?」

泰「あ、はい知ってますけど?」

ユメル「よかったです。ではそこでお会いしましょう。その時にいろいろサポート用のグッズを持参致しますから」

なんかとんとん拍子に話が進み、
俺達は改めて明日の夜会う事になったのだ。

OB喫茶と言うのは普通の喫茶店ながらアルコールも飲める所であって、
俺も友達とよく行ってた喫茶店。
昔で言うカフェの感覚に近いだろうか。

ト書き〈翌日の夜〉

そして翌日の夜。
俺は彼女に言われた通り、その喫茶店に来ていた。

ユメル「あ、こっちです♪」

店に入ると彼女はもう来ており、手招きして俺を呼んだ。
テーブルに近づくと、
そのテーブルの上にはもう彼女が持参したのだろう
いろんなグッズが置かれていた。

泰「うわぁ、凄いですね」

ユメル「どうぞ♪少し説明致しますね」

それから俺はそのグッズの使い方の説明を受けていた。

でも彼女は何を思ったか。

いろいろテーブルに広げていた
7品(しな)から8品のグッズを鞄に仕舞い込み、
残された1つのグッズ、
小さい風船のような物だけを俺に勧めこう言ってきた。

ユメル「あなたのプランはごく簡単なものですから、こちらだけをお持ちすれば良いでしょう。こちらは『爆発水素気球』と言うグッズでありまして、携帯電話ぐらいの軽量の物を取り付けて空に飛ばせば、あっと言う間に対流圏まで到達し、そのまま成層圏まで飛び進む事ができるでしょう」

泰「ば、爆発…!?」

ユメル「フフ、ご安心下さい。爆発はしませんから♪まぁ水素はこの地球で1番軽い気体というのはあなたも知ってるかもしれませんが、その水素を凝縮し、浮上する力を爆裂的に高めた物がこちらのグッズになっております。つまりそれだけあなたの目的が達成するのも早いと言う事♪」

またまた驚かされる。

今俺が手に取っているその気球と言うのは
子供が持つような小さな風船ほどの大きさで、
「こんな物が本当に成層圏まで到達するのか?」
と言う大きな疑問が湧いてくる。

でもやはり彼女は不思議な女性。
ここでも俺は彼女に言われた事をただ信じさせられ、
その気になり、勧められるままその気球を受け取って
本当にそのプランを実行しようとしていたのである。

泰「あ…有難うございます!じゃあこれでちょっと、やってみたいと思います…」

ユメル「あ、最後に1つだけ。お渡ししたそのグッズの性能は確かなものです。ですからあなたはそのプランを達成する為の、他の準備はちゃんとしておいて下さいね。夢を追いかけると言うのはそれなりの準備が必要なもの。その準備をするのはあなた自身で、面倒臭がってちゃいけませんよ?」

まるで子供をあやすようにそう言ってきた彼女。
その表情は安らかで、とても優しく見えて、
俺はつい甘えるようにその彼女の言ってる事を聞き流していた。

ト書き〈数日後〉

それから数日後。
俺はひとけの無い山の中腹まで行き、
そこでスマホの動画をオンにして、
彼女に貰った気球に取り付け、それを…

泰「行ってこぉい!」

で勢い良く飛ばしてやった。

彼女の言ってた事は本当で
スマホを取り付けたその小さな気球は手を離れた瞬間、
猛スピードで空に上っていった。

泰「す…すげぇ…もう見えなくなっちまった…」

気球と言っても、一般に知られている普通の気球から見れば
何十分の1ほどの大きさ。

「下手すりゃ携帯のほうが大きいんじゃねぇか?」
なんて思える程の小さな風船が
猛スピードで空に羽ばたいて行くその絵図。
なんだか不思議な現象を見てるようだった。

でもこれで…

泰「…へへw俺も『成層圏YouTuber』の仲間入りだぁ。ウマくすりゃこれで本当に有名になれるかもw」

なんて邪な夢が更に大きく膨らむ事になり、
俺はもう有名になる事しか考えていなかった。
自分の欲望に向け、狂奔していたのである。

1度は諦めかけた、些細ながらも大きな夢。
その夢に向けて大きく一歩を踏み出した自分を見た時、
俺はそれまで味わった事ない程の充実感を得ていた。

ト書き〈公園〉

そして翌日。
俺は落ちてきた携帯を回収するその前に、
昨日からずっと続いている充実感をもって
また最寄りの公園に来ていた。

成層圏まで辿り着き、
大体、地表から3万メートル上空でその気球は破裂して、
やがて地上に落ちてくる…と予めユメルさんに聞いていたのもあり、
今日その携帯を回収する予定にしていたのだ。
またあのスマホを飛ばした山の中腹まで行こうとしていた俺。

するとそこへ…

ユメル「あら、あなたは?」

ユメルさんが又やってきた。
どうも彼女は昨日のアンケート調査の延長で、
まだこの界隈でアンケートを取ってたようだ。

泰「ユメルさん!あの、有難うございました昨日は!」

俺は早速、彼女にお礼を言い、
本当にスマホを飛ばした事を彼女に伝えた。
まるで科学者が誰かにする報告のような感じだ。

ウキウキしながらそう言ったのだが彼女は…

ユメル「柴戸さん。あなた準備はちゃんとしたんですか?」

シリアスな顔して俺にそう言ってきた。

泰「え?」

ユメル「お話を聞いてると、ただあの気球にスマホを取り付けて空に飛ばしただけ…のように聞こえますが、どこに落ちて来るかとか、その気球と携帯電話が通過する経路が一般に空を飛んでる飛行機の空路と重ならないようにちゃんとしたとか、その辺の準備と言うか下調べはちゃんとしたんですか」

泰「あ…」

何にもしていなかった。
彼女の表情は段々怖いものに見えてきて、
なんだか俺は取り調べを受けているような
そんな感じになってしまった。

ユメル「はぁ、何と言う杜撰な計画。あのですねぇ、実は私の友達にもあなたと同じように夢を追った人が居るんですけど、あなたのように何の計画もせずに飛ばした人は居ませんでしたよ。下手すれば犯罪になりますよ?その携帯がもし飛行機に当たったり、普通に道を歩いてる人の頭に当たったりなんかしたら…」

泰「あ、いや、それは…」

それから彼女は、
俺が携帯を飛ばした地点を改めて細かく聞き出し、
その日と今日の気流の状況を自分なりに調べて確認し、
あの気球がそれによりどこに落ちてくるか?
それを或る程度割り出して俺に教えてくれた。

ユメル「多分この山の中腹に落ちてくると思います。今から急いでこちらへ向かってみて下さい」

俺が思ってた場所とは全然違う山。

ユメル「飛ばした携帯電話がその地点に落ちてくる筈ないでしょう?」

恥ずかしい思いをしながら何とかその場を切り抜け、
俺は彼女に教えて貰ったその場所へ単独行ってみた。
彼女はそれから自分の仕事のアンケート調査があったので
俺達はそこで一旦別れる。

ト書き〈スマホを見つける〉

彼女に言われた地点に行くと…

泰「あ、あった!」

昨日飛ばした俺の予備の携帯電話が
ちゃんと原っぱの上に寝そべっていた。

本当は昨日の内に地表に到達していたらしく、
彼女にその事も指摘され、
「誰かに盗(と)られたらどうするんですか?」
なんて注意されたのも思い出しつつ、俺はその携帯を手に取って
早速自宅へ持ち帰り、その動画内容を確認してみた。

(自宅)

泰「おぉ…おお!凄い!ちゃんと撮れてるじゃねぇかよ!」

なんと壮大な景色だろう。
飛ばした時の俺の顔を映したのをスタート地点とし、
それからグングン空へ舞い上(のぼ)り、
風のきつい対流圏を抜け、やがて何の音もしない穏やかな
無音の成層圏へと辿り着いていた。

泰「はぁぁ…凄い綺麗だなぁ…」

俺は1つ1つの映像に感動しながら釘付け。
これが自分のした事だと知れば尚更感動は大きなもの。

そして途中まで動画を見たあと綺麗に撮れていたので、
最後までは確認せず、そのままパソコンに繋げて
俺の管理するYouTubeサイトにその動画内容の全てをアップした。
そのほうが早いと思ったからだ。

ト書き〈オチ〉

そしてかなりの時間をかけて
YouTubeにその全ての動画をアップする事ができた。
それから改めて動画の最初から最後までを確認する俺。

泰「へっへ〜w♪アップしちゃいましたよ〜ん♪へへへwこの動画、今みんなに見られてるんだろうなぁ♪これからもっともっと視聴者が増えて、チャンネル登録者も多くなるかも♪」

もう心の中は万々歳だ。
すっかり浮かれてその動画を最後まで見た時だった。

泰「ん、あれ?この携帯…どこ向かってんだ?」

俺のスマホは彼女の言った通り、あの山の中腹に落ちてくる筈。
でもYouTubeに上げたその動画の最後辺りを見ていると、
画面の下には山など1つもなく、だだっ広い海が広がってるだけ。

泰「…あれ?どう言う事…」

そして動画の最後では…
「パシャアァン…!」
と少し静かな音を立てて、携帯は海の中へ沈んだようだ。

俺はふと、パソコンの横に置いている携帯を見た。
そして手に取りもう1度、今度は携帯内の動画を確認してみる。
すると…

泰「え…?な、なんだこれ…」

「ザーー」と言ってるだけで何にも映らない。
そして俺の目の前で…

泰「うわっ…」

「ブゥン…!」と言って電源が落ち、
それから何度電源を入れ直してももう点(つ)かなかった。

それから数日後のコメント欄では…

「これ海に落ちたのに、よくアップできたなぁ」
「どうやって回収したんだろ?」
「これも演出かぁ?」

みたいな声が散乱していた。

もちろん携帯には何の防備も付けていなかった。
水に落ちればそれまでの事。

俺は携帯を気球に取り付けてそのまま飛ばしていたから、
たとえ山や原っぱなど地表に無事落ちてきたとしても
その落ちてきた時のショックで普通は携帯も壊れてる?

一般に成層圏まで気球に取り付けたスマホを飛ばす場合、
そのスマホには何重もの防備が用意され、
余程のショックを受けても大丈夫なように設計されているらしい。

それさえ知らなかった俺。

やがてその実情を知ったのか視聴者の内からは、
「まるで携帯の執念が映したような動画だなぁ」
と言う声がそこかしこから上がってきていた。

ト書き〈泰の自宅を外から眺めながら〉

ユメル「ふぅ。全く何の計画性もないんだから。その性格、夢を追う時でさえやっぱり治らなかったわねぇ」

ユメル「私は泰の夢と欲望から生まれた生霊。その願いを叶える為だけに現れたけど、もう少しこれを機会に、ちゃんと将来を自分の足で歩けるようになって欲しかった。本当に危うく犯罪になるところだったのよ…」

ユメル「まぁそれにしても『スマホの執念が撮ってきた映像』か。これはこれで不思議な現象だけど、その神秘の体験を紹介できた事で、曲がりなりにも彼の夢も叶うかしら?まぁそうなれば結果オーライかな」

ユメル「夢を追う気持ちが幾ら一人前でもその計画性がちゃんとしていなければ、こんな霊的な力が働かない限り、その目的は達成できないものよ。ちょっとミステリーが彼の周りに残っちゃったかしらねぇ…」

動画はこちら(^^♪
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