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アル・パチーノのような男

アル・パチーノのような男
 イタリアの街をコートで身を包みながら歩いていた。向こうから来る女に目をやりながら男は、少し灯りの漏れる窓を気にしていた。空の雲ゆきはあやしくなり、雨が降り出しそうだった。女は、その男の横を通り過ぎ、何食わぬ顔で歩き去った。男はプライドの持ち主で、コイン片手に酒場へ入るのだ。ふらりふらりとルーレットは回っていて、嫌気がさすような人の多さとタバコの煙に、酒の瓶は見えない程だった。

 ”外国の街”をいろいろ考えていたが、結局、そこ、今いるところのことしか考えられなくなった。男はさっきの女のことも忘れて、ただゲームに夢中だった。ルーレットは、さっきよりも早く回り出し、客入りもよくなってきている。それは次第とよくなる、だんだんと増えていっているのだ。

 バーボン一杯で酔いが回り始めた、外国の酒に慣れていない男は、タバコの煙も吸わないまま、眠りに堕ちた。さっきからにぎっているコインを使う間もないまま、うつら、うつらする時、少し”どうしようか”迷っていた。このままでいいのだろうか。何も遊ばなくても、今夜このまま終わらせてしまっても..明日になれば、また考え方もかわっている。人間とは、いい加減なもので、さっき言いかけたことも忘れる。頭の回転が遅いんじゃない、口の回転が早くないのだ。そして、結局、コインをにぎりしめたまま、睡魔に堕ちてゆく男はその瞬間、”あの男はアル・パチーノに似た男だ、”と呟き、眠った。

 その夜は急に気忙しくなり、そこの主人も早く店を閉めたいらしく、そのアル・パチノに似た男の話し相手になったまま、カーテンを閉めた。タバコの煙はだんだん薄くなった。

動画はこちら(^^♪
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