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読書 この夏の星を見る 辻村深月

『この夏の星を見る』、一言でいうと青春群像劇です。
舞台は2020年冬、コロナ発生当時の日本、東京、茨城、長崎の高校生たちを描いています。
さすがに辻村深月さん、毎度ながら語り部と舞台をコロコロと変えていく手法が光っていました。
おなじことは、『かがみの弧城』でもみられましたが、伏線の回収がお見事です。

今回は『魅力的なおとな』も登場し、現役高校生たちには刺さるものがあるのではないかともおもいました。
現実にはいそうでいない、おとなではあるのですが。。

もしかしたら幸運な子ども時代を過ごしたおとなのなかには、じぶんの恩師や師と仰いだ方を連想されるかもしれませんね。
そしてそのようなひとは、少なくないとおもいます。



子どもから見たおとな、おとなから見た子ども。
新しい生活様式とそれ以前の世界。
地域による格差、さまざまな家庭。
ものがたりのなかにいくつもの《ギャップ》を示しながら
コロナ禍で、話題や問題提起されたことを改めてしめされ、
それは現在にも至る社会問題となっています。
それらをさりげなく、文中にちりばめている。
けっして大げさでなく、違和感もなく語られていることが辻村作品の魅力のひとつだとおもうのです。

というのも
最近の話題になった本のなかに作中にさまざま問題提起や社会問題を盛り込まれ、それはいいとしても、
くどかったり、わざとらしいものがあまりに多くて。
読んでいられない作品が多いと感じているからなのです。

辻村深月さんの作品の登場人物は多くを語りません。
が、情景が浮かび、まるで自分もその場所にいて眺めたり参加しているような臨場感があるので心地よいのです。

青春、と言われる時間をひっそり思い出す機会となりそうな余韻。

コロナ禍で高校時代を過ごされた方、
今進路に悩む高校生たちと親御さんにもおすすめです。

今回は星の観察がメインなので
読めばきっと夜空を見上げたくなる、
五島列島に行ってみたくなる、
そんなおはなしです。