児童心理治療施設って何だろう?

こんにちは。淋昌道雄(りんしょうみちお)です。児童心理治療施設で働く心理士です。

私の施設では、公認心理師のたまごである実習生さんを受け入れていて、初回の実習日には施設の機能や目的を紹介しています。施設の年度始めというのは子どもたちや職員の入退所(社)、春の遠足、支援計画やマニュアルの見直しで慌ただしく過ぎ去り、気がつけば実習のご挨拶があって実習スタート…なんてのがザラです。なかなか、施設紹介の準備に回すゆとりがない。

ですので、今回はその準備も兼ねまして、児童心理施設ってどんなところだろう?どんな子どもたちがいて、どんな支援を行っているんだろう?を紹介したいと思います。


法的な立場から

まずは硬いところから。児童心理治療施設は、法的にはどのように位置づけられているのでしょうか。全国児童心理治療施設協議会によると、このように説明されています。

児童心理治療施設とは、児童福祉法に定められた児童福祉施設で、心理的問題を抱え日常生活の多岐にわたり支障をきたしている子どもたちに、医療的な観点から生活支援を基盤とした心理治療を中心に、学校教育との緊密な連携による総合的な治療・支援を行う施設です。

全国児童心理治療施設協議会
https://zenjishin.org/profile.html

何らかの心理的問題を抱え、それゆえに日常生活に支障(補足すると、不登校、ゲーム依存、家庭内暴力など)をきたすようになった子どもたちが入所し、生活支援を基盤とした心理療法を行い、医療・教育と協働しながら治療や支援を行っていく、というところですね。

子どもたちの行動問題の背景に心理的・発達的な要因があるという前提にたっているのがミソです。傷ついた子どもたちの心を受容しながら癒し、生活の枠組みの力を借りながら育ちを支えていきます。

となると、法的にもトラウマインフォームドケアを実践する機関だと位置づけられているように思えます。

入所児童の傾向


統計によると、児童心理治療施設の入所児童の約8割が被虐待児です(全国児童心理治療施設協議会、2023)。虐待によって安心や安全が損なわれ、こころにダメージを負っています。そうなると、「大人なんて誰も信じられないぞ」と不信感や怒りが渦巻いていたり、「自分が我慢していれば家から追い出されることは無かったんだ」という無力感や罪悪感でいっぱいになってしまいます。イライラ・モヤモヤして暴言や暴力を繰り返してしまったり、苦痛を和らげるために自傷やゲームに没頭する子どもだっています。

身体と同じように、こころが怪我をしたのであれば、手当をしなければいけません。しかし、大人への不信感や怒りが渦巻く子どもたちにとって、大人の手を借りて自分を癒そうとは思いがたいでしょうし、そもそも自分のダメージは対処し、軽減できるものだとは到底思えません。そんな子どもたちの入所経緯を聞いていると、大人もこころが張り裂けそうな思いがいたします。

そういったメガトン級の傷つきを負った子どもたちが「大人って、少しは頼ってもいいのかもな。もしかしたら、自分の苦しみって、和らげるのかもしれないし、なりたい大人に近づけるかもしれないな」という未来に目を向けたマインドを持つためには、誰かひとりが頑張れば良いというものではありませんし、もちろん心理士がカウンセリングをしていれば改善されるなんてことはありません。

周囲の大人が一丸となって子どもたちを支えていく必要があります。

みんなで子どもを支える:総合環境療法

大人が一丸となって子どもたちを支えるという支援の根っこの考え方について、協議会では次のようにあります。

施設全体が治療の場であり、施設内で行っている全ての活動が治療であるという「総合環境療法」の立場をとっています。具体的には ①医学・心理治療 ②生活指導 ③学校教育 ④家族との治療協力 ⑤地域の関係機関との連携を治療の柱とし、医師、セラピスト(心理療法士)、児童指導員や保育士、教員など子どもに関わる職員全員が協力して一人ひとりの子どもの治療目標を達成できるよう、本人と家族をを援助していきます。

全国児童心理治療施設協議会
https://zenjishin.org/profile.html

「暮らしそのものが心理治療」です。何回読んでも痺れます。

ここでいう心理治療とは、面接室で話を聞いてもらいながら体験を整理し、心理的成長を目指すカウンセリングだけでなく、もっと広い意味で用いられています。

  • 失敗をしても、怒鳴られたり、暴力を振るわれたりしない

  • 温かい食事やお風呂、清潔な衣服や住環境が提供される

  • 年齢に応じた本やアニメや映画、ゲームが準備されている

  • 大人と楽しく遊べる

こういった安心・安全な環境が提供され、一人の人間として尊重されることそのものが心理治療に結びついています。安心して、人と楽しく遊んだり、お話ができる。まずはそこからです。

ただ、圧倒的な不信感を抱く子どもたちなので、こういった安心安全な環境を居心地悪く感じたり、確かめようとして暴言や暴力をしてみたり、あるいは安全だからこそ怒りを解き放ってしまったりというようなことが頻繁に起こります。こういった子どもたちの破壊性に耐え、めげずに関わりを保つことで、少しずつ子どもたちも変化をしていきます。

「いっつも暴れちゃう自分って、なんなんだろう?」「親は、どうして僕をいじめたんだ?」そんな問が面接室で語られ、私たち心理士はともに考え、悩み、答えを見つけるお手伝いをしていきます。

枠の力で支えること



さて、ここまではトラウマインフォームドに子どもたちを理解し、受容するという面から解説をしました。しかし、受容だけで回復するほど簡単な話ではありません。

暴言、暴力や、器物損壊など他害行動があった時、そうしなければいけなくなった事情は考慮しますが、したことに対して責任を取ってもらうこと、暴力は許さないという一貫した姿勢を持つことが重要です。

そのため、枠組みが必要になります。暴力をしたら一日部屋で頭を冷やしてもらう。物を壊したら修理をしたり、お小遣いから修理費用を預からせてもらう。職員と何があったのか、どうすれば防げたかを一緒に考える、などです。

ただ、取り違えてはいけないのは枠組みとは子どもたちを支配するための方便ではなくて、こう育って欲しいという願いを込め、安心や安全を育み、この場所ではこういう風にやっていくよという見通しになるように用いていくのが肝心です。

職員としても、暴力があると心が痛い。なにせ、自宅でご両親に殴られたり、罵声を浴びせかけられて育てられてきた。小さな刺激であっても自分が攻撃されたように感じて、身を守るために口や手が先に出てしまう。暴力をしちゃうのも、仕方がないのかもしれないな、と思うこともあります。でも、暴力をされた側にとっては、自分が安心・安全に生活する権利を侵害されたことになる。だからこそ、適切に権威を用いることでお互いを守ります。対職員の暴力も同じですね。DVや不仲など親機能が脆弱だったご家庭も多いため、大人同士がサポートし、守りあう。子どもも大人も大切にする。そういう健康的な家庭のモデルを示す側面もあります。

権威性について、河合隼雄先生のこの言葉を引用し、締めくくらせていただきます。

若者は真の権威に対しては反抗しないと言い切れるように思う。彼らは真の権威と偽の権威との差に極めて敏感であり、後者に対しては相当な抵抗を示すといっていいだろう。真の権威と偽の権威の差は、その権威の発してくる根源が、どこまでその人の存在と関わっているかによって区別できるのであろう。地位や名声や金力などに、その権威がよりかかってあるときは、それは偽ものである。環境の変化によって取り去られる可能性のあるもの、それらをすべて取り去ったとしても残る権威、それが本ものである。

大人になることのむずかしさ
河合隼雄
岩波現代文庫

まとめ


 
児童心理治療施設について、法的な立場から始まって、入所児童の傾向、総合環境療法のご紹介をいたしました。簡単に解説するつもりが、3000字を超える内容になってしまいました。それでも、抜けや伝え損ないがあるような気もします。

また、心理職の役割など大事なことも書きそびれていますね。次の機会にお話できればと思います。

お読みいただき、誠にありがとうございます。

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