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ヴァシストの秘密

宿はすぐに見つかった。しかし、入口から入っても誰の姿も見あたらない。スタッフもいない。営業はしていると思うのだが……。
ここもコロナの影響で日本人が訪れなくなった場所なのだろうか。4年前に来たときにはかなりの数の日本人がいたはずだが……。
「Hello」としばらくするとオーナーらしき男が現れた。4年前の彼とは違うようだ。こちらも感じのいい男性だった。
彼はすぐに空いている部屋を見せてくれた。というか、ほとんどが空いているようだった。最上階の一番いい部屋に案内してくれた。いいと分かるのは前回わたしが滞在していた部屋よりも綺麗だったからだ。
11月のヴァシストはオフシーズンだ。それは前回来たときから知っていた。敢えてこの時期を狙うのは安いからだ。そして人も馬鹿みたいに多くない。少し肌寒いくらいの今のほうが、温泉に入るにもちょうどいい。
料金を訊くと1部屋600ルピー。桁違いに安い。友人と別々に部屋を借りてもいいくらいだったが、ケチったわけでもなくここまでダブルベッドひとつで過ごしてきてしまったわたしたちには、この部屋ひとつで充分だった。ここに滞在できるのは、たった1泊だ。

ヴァシストにはもうひとつ有名なものがある。知っている人は知っていると思うが「チャラス」だ。
「チャラス」とは大麻樹脂のことで、この付近に産地があるらしく、地元の人にも愛用されていた。しかし前回はそういう人をよく見かけたが、今年はさっぱりだった。何よりこの宿にそういう人たちがいない。「チャラス」を吸いにきている日本人がいないということだ。
声を大にして言える話か微妙だが、本当にここへはそういう人しか集まらないんだな、と思ったのが4年前。それが面白かったので友人をここへ誘ったというのもあった。ちなみにわたしはクッキーを半分食べただけで半日違う世界から戻ってこれないほど苦手だ。
今年はコロナの影響か、はたまたもうそんな風習はなくなってしまったのか、とにかく客はわたしたちと、もうひとり日本人の男の子がいるだけのようだった。

温泉では日本人のおじさんに会った。わたしはインドに入ってから3週間程度になるが、友人以外では初めての日本人との会話だった。
おじさんは40年前からインドに通っていると言う。温泉のあるこの地は日本人には堪らないだろう。わたしもあと30年もしたらやはり言うのだろうか「40年前から通ってるんですよ〜」と。


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