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謎はすべて解けた



エージェント詐欺

「話が全然違う。ひょっとしてこのバスはマナリ行でもないのではないか?」そんなふうに考えていると、バスはつい先ほどまでわたしたちがいた「ISBT」内に入り停車した……。

謎はすべて解けた——。

  1. マナリ行のバスには「HRTC」とプライベートバスの2種類がある。

  2. おそらくプライベートバスのほうが安いが、さっきの買いかたでは確実にぼられているので、正規のプライベートバススタンドを見つける必要があった。

  3. 奴らは敷地外で、売れない座席を高額で売っている。

  4. そして敷地内に入る前のバスに乗せられて本来の場所に戻される。

これは「エージェント詐欺」に該当するだろう。それにしてもこんな商売が正規のバスターミナル内で堂々と行われているのだから、やはりインドは怖い。これは完全にわたしの失態だった。
わたしたちはいったんバスを降りて、もうマックには行けないのでお菓子と水だけ調達し、再びバスに乗り込んだ。


スペイン語はペラペラ

最後部座席——。座席の後ろに荷物が詰まっているせいでわたしの席はほぼリクライニングできない。隣にいる友人の席は少しだけリクライニングが利くようだった。全部で5席あるが、今のところわたしたちふたりと、反対側にもうひとり男性がいるだけのようだ。
反対端に座る男性はドレッドヘアで、同じようにしょぼい席なのに満足そうに見える。きっと男性はこの席を格安で手に入れたのだろう。決まり文句のように「どこ出身?」と訊かれたので日本と応え、またわたしも同じことを質問する。ここまでは決まりごとのようなものなのだが、相手がまさかのアルゼンチン人だったので、「こんなところで南米の人?」とわたしは嬉しくなり、そこからしばらくの間スペイン語で会話をした。

わたしは英語はそれほど得意ではない。あれほど勉強したのに単語は出てこないし発音もおかしい。それに引き換えスペイン語は得意なようだ。そう改めて思った。半年ぶりくらいにスペイン語を喋るのに、相手の言っていることで聴きとれないことがほとんどないのだから不思議なくらいだ。

男性は例外なく素晴らしいライフスタイルを持つアルゼンチン人だった。国内が崩壊していて外に出なくてはやっていけないと言えばそれまでだが、それはそんなに簡単なことではないだろう。しかし彼は2国籍保有者で、ヨーロッパでも働くことができるようだった。それを利用してもう何年も前からデンマークで働いては旅に出てを繰り返していると言う。今後はオーストラリアで働くことも視野に入れているのだとか。
わたしは心底羨ましいと思った。20代のころに今のように海外に出ていたら、また全然違う人生だっただろうな……と。


眠れない夜

まどろみの中で目を開けると、最後部のわたしたちの列まで満席になっていた。左隣に男が座っている、と言うかかなりわたしに寄りかかってきている。
男の席は最後部列のど真ん中。前には先頭まで続く通路があるだけだ。こんな不安定なところでよく眠れるなと思うが、男はわたしより確実に眠れているようだった。その証拠に肩を思いきり押し返しても目を覚ます様子がない。

バスは途中、食事休憩と謎の停車を複数回挟みながら、わたしの予定どおり14時間でマナリに到着した。10時間という話もやっぱり嘘だった。わたしは結局ほとんど眠ることができなかった。

朝食でいただいた激ウマ「エッグブジー」


マナリからヴァシスト

アルゼンチン人の男性と別れ、わたしたちはトゥクトゥクでヴァシストを目指す。
ヴァシストはマナリの中の村という感じで、乗りものに乗れば10分程度で行けるところにある。トゥクトゥクを探したが見つからず、タクシーと料金交渉して乗り込んだ。

ヴァシストには温泉がある。インドの中でも北に位置し、標高は2,000mを超える。少し肌寒いくらいのこの時期のほうが温泉は気持ちいい。わたしは4年前に1度来ていて、もう1度訪れたい場所だったので今回友人にも勧めた。

タクシーから降りると、4年前の記憶をたぐり小さな街の中を進んだ。
寺院があってその先に温泉を見つけた。ここが目的の温泉。公衆浴場であり無料の温泉。地元の人と裸の付きあいができる場所だ。そうするとこの先が宿のはずだが……。宿からここまでは徒歩30秒。前回来たときは裸にタオルだけ巻いて石階段を下りた……。





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