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ユニリーバが歩んできた「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」の10年と、これからの10年

「製品ライフサイクルにおける環境負荷を半減しよう」

――2010年、当時のグローバルCEOの一言で、「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」はスタートしました。

まだSDGsという言葉もない時代。方法論が一切示されていない壮大なミッションに、「社内に不安と戸惑いが広がりました」と、アシスタント コミュニケーション マネジャーの新名司は笑って当時を振り返ります。

この「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」とともに、その後のユニリーバはどんな10年を歩んでいったのでしょうか。そして、どんな成果が生まれたのでしょうか。

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 アシスタントコミュニケーションマネジャー 
新名 司


プレゼンテーション1

始まりは、ひとつの石鹸から

――ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(以下、「USLP」)とはどんなプランですか?

そうですね。USLPの話をする前に、少し遠まわりですが、ユニリーバの歴史の話からさせてください。

今から140年近く前の1884年、ビクトリア時代のイギリスでは、衛生的な習慣がまだ根づいておらず、下痢や肺炎などの病気にかかって命を落としてしまう人がたくさんいました。
それを何とかしたいと考えたウィリアム・リーバ卿は、誰にでも手軽に買える高品質な石鹸を売り出しました。この「サンライト」石鹸が、私たちの最初の製品です。

サンライト石鹸の箱には、「Make Cleanliness Commonplace(衛生を暮らしの“あたりまえ”に)」というフレーズが書かれていました。

衛生を暮らしの“あたりまえ”に
(Make Cleanliness Commonplace)

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そして、「サンライト」石鹸から100年あまりを経て、ユニリーバは新しいパーパス(存在意義・目的)を掲げ、USLPを導入しました。

サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に
(Make Sustainable Living Commonplace)

――サンライト石鹸の「Make Cleanliness Commonplace」の「Cleanliness」が「Sustainable Living」に置き換わったんですね。

そうなんです。なぜかというと、この100年あまりで社会の状況は変わり、衛生面でだけではなく、気候変動、社会の不平等など、社会課題も多岐にわたっています。一方で、ユニリーバのビジネスも、190か国以上で400以上のブランドを展開するまでになりました。それらのブランドの力を使って何ができるのかを考え、パーパスを見直したのです。

この地球上に住む人々にとって、サステナビリティはまだ“あたりまえ”とはいえません。地球の資源を守りながら、衛生的な暮らしを送れる、栄養たっぷりでおいしい食事がとれる、安全な水が手に入る、自分らしく活躍できる――そういった本来誰にとっても“あたりまえ”であるべきことが、まだ“あたりまえ”になっていないのです。

それらの、サステナビリティが“あたりまえ”でない状況を、ブランドの力を使って、“あたりまえ”に変えていきたい。パーパスには、そのような私たちユニリーバの思いが込められています。

「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」とは?

――パーパスには、140年もの歳月にわたって脈々と受け継がれてきたユニリーバのDNAがあるんですね。

ただ、パーパスを掲げただけでは「絵に描いた餅」に終わってしまいます。そこで、2010年に、パーパスを実現するための具体的なビジネスプランを導入しました。それがUSLPです。

USLPは、環境負荷を減らし、社会に貢献しながらビジネスを成長させることをめざすユニリーバの成長戦略です。2020年をめどに50以上の数値目標を設けました。

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その中でも、「大きな約束」と位置づけている、3つの大目標があります。

・10億人以上のすこやかな暮らしに貢献する
・製品ライフサイクルからの環境負荷を1/2にする
・数百万人の経済発展を支援する

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USLPを通じて、ユニリーバは世界への変化を起こそうとし続けてきました。

USLPの10年間で何が達成されたのか?

――そのUSLPを実践するなかで、この10年間でどのようなことが達成されたのでしょうか。

多くの目標が達成されたのですが(笑)、ダイジェストでご紹介しますね。

2020年末までの成果
➀10億人以上のすこやかな暮らしに貢献する

<衛生・健康>13億人以上のすこやかな暮らしに貢献
・石鹸を使った正しい手洗いの啓発:10.7億人
・清潔なトイレへのアクセス:2,900万人
・安全な水へのアクセス:1,210億リットル
・歯磨きの啓発:1億700万人
・自己肯定感の向上:6,900万人
・難民キャンプや避難所への支援:600万人
<栄養>全世界の食品製品の61%が最も高い国際的な栄養基準を満たすよう改良

➁製品ライフサイクルからの環境負荷を1/2にする

・自社工場からの環境負荷の削減:温室効果ガス-75%、水使用量-49%、廃棄物量-96%
・持続可能な調達:製品の原材料として使用する農産物の67%を持続可能に調達
・製品ライフサイクルからの環境負荷の削減:温室効果ガス-10%、水使用量1%、廃棄物量-32%
※工場からの環境負荷は生産量1トンあたり、製品ライフサイクルからの環境負荷は製品使用1回あたり

➂数百万人の経済発展を支援する
・8つの重要な人権課題に焦点を当てて社内外で取り組みを強化
・女性管理職比率:51%
・小規模農家の支援:83万2,000軒

――この10年間で、3つの柱それぞれで大きな成果があったのですね。

これらの取り組みを10年間続けてきて、「社会や環境にとってよいことは、ビジネスにとってもメリットがある」ということを立証できたと思っています。具体的には4つの効果が見られました。

➀成長を加速……サステナブルなブランドは、その他のブランドに比べて77%速く成長
➁信頼の強化……新卒採用をしている55カ国で、消費財で最も働きたい企業に選定
③リスクの低減……製品の原材料を持続可能に調達することで将来の調達リスクを低減
④コストの削減……2008年以来、工場での環境対応や省資源により1,200億円以上のコストを削減

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株価が10%急落!「ユニリーバはNPOにでもなるつもりか?」

――いま多くの企業でSDGsと経営の両立が課題となっている中で、SDGsという言葉が生まれる前から、サステナビリティと経済成長の両立をめざしてきたことがわかりました。

そう言われるとたしかにそうですし、おかげさまで「ユニリーバさんってESG(環境Environment、社会Social、ガバナンスGovernance)の先進企業ですね」と言っていただけることも増えました。
ただ、そう言われるのは少し複雑な心境ですね。私たちも最初からうまくいったわけではなく、いまも試行錯誤の毎日なので……。

――この10年間でどんな苦労があったのですか?

2010年当時は、サステナビリティが今ほど世間的には注目されていませんでした。そういう中で、いきなりサステナビリティを前面に打ち出したUSLPを公表したら、ユニリーバの株価が1日で10%近く落ちました。

――えーっ!10%も!

「ユニリーバはNPOになるつもりか」「利益を無視するのか」……いろいろなお声をいただきましたね。

ただ、2009年にグローバルCEOに就任したポール・ポールマンは、「ユニリーバが他の消費財メーカーと決定的に違うのは『サステナビリティ』だ。この強みを伸ばしていくことが、ユニリーバが生き残る唯一の道だ」と明言し、確固たる信念をもってUSLPを打ち出しました。

でも、社員の側からすると、CEOが唐突に発表しちゃったものだから……社内に驚きと戸惑いが広がりましたね(笑)。

――対外的に公表してしまった以上、引くに引けなくなった。

そうなんです。さらに困ったことに、USLPには「こうやったら目標を達成できる」という具体的なことが書かれていないんです。「製品ライフサイクルからの環境負荷を半分にします」、以上(笑)。

そんな壮大な目標、どうやったら達成できるのか皆目見当もつきません。でも、「とりあえず社会に約束しちゃったから、頑張ってやってみようか……」とスタートしました。

――スタートした当初は、ユニリーバ社内でもサステナビリティが“あたりまえ”ではなかったんですね。

日本にも自社工場があるのですが、USLP導入以前から十分な環境対応をしていました。それをさらに半減となると……「乾いたぞうきんを絞るみたいだよ……」と工場の担当者に聞いたのを覚えています。

でも、いろんな壁にぶつかりながらも、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”にする」ために、できることをとにかく積み重ねていったおかげで、多くの目標が達成できています。たまには大風呂敷を広げて、がむしゃらに頑張るのも大事かもしれませんね(笑)。

サステナビリティという“True North”をめざして

――USLPでは10年間で多くの目標が達成できました。このUSLPを引き継ぐ新しいプランが、2021年から始動しています。

「ユニリーバ・コンパス」を、今年の1月から導入しています。

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USLPでは、環境負荷を軽減させ、社会に貢献しながらビジネスを成長させることをめざしてきました。ユニリーバ・コンパスではさらに目線を上げて、サステナブルなビジネスのグローバルリーダーになることを新たなビジョンとして掲げています。

私たちのビジョンは、サステナブルなビジネスのグローバルリーダーとなることです。私たちは、パーパス主導で未来に適合したビジネスモデルが優れたパフォーマンスを牽引し、業界の上位1/3に入る財務業績を一貫して実現することを実証していきます。

このビジョンを受け、ユニリーバ・コンパスでは、新たな目標の柱を3つ設定しています。

・地球の健康を改善する
・人々の健康、自信、ウェルビーイングを向上させる
・より公正で、より社会的にインクルーシブな世界に貢献する

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――USLPからユニリーバ・コンパスへと関わってきた新名さんからみて、こういった世界共通のパーパスやビジョンを掲げる意義はどこにあると考えますか?

ユニリーバには、全世界で約15万人の社員が働いています。一人ひとりバックグラウンドが違っても、同じ目的を共有することで、その15万人が同じ方向をめざすことができるのが、パーパスとビジョンの持つ大きな意義だと考えています。

海外のユニリーバ社員と協力しながらひとつの製品を開発することもあります。その際も、このパーパスとビジョンが共通言語となり、最終的な判断基準となります。

コンパス(方位磁石)は、いつ、どこにいても常に北を指しますよね。現グローバルCEOのアラン・ジョープは「ユニリーバ・コンパスこそが、私たちにとっての“True North”(本当の北)だ」と言っています。

15万人の社員が常に向かうべき方向“True North”を指し示してくれるもの。それがパーパスとビジョンであり、ユニリーバ・コンパスなんです。