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ANAの2年間休業制度の何が先進的取り組みと言えるのか?

ANAが令和3年4月から最長2年間の休暇を取得することのできる「サバティカル休暇制度」を導入する動きであることがわかりました。元々、留学や資格取得、治療など様々な理由に対し休暇を与えてきた同社ですが、今回の取り組みはどういった面で先進的と言えるのでしょうか。少し考えてみたいと思います。

もちろんコロナ禍における人件費抑制

申し上げるまでもありませんが、経営陣がまずもってこの制度に期待を寄せている理由は、人件費抑制に他なりません。令和2年早々からコロナウイルス感染拡大を受けて、旅客業は非常に大きなダメージを受けました。皆さんもご存知のとおり、CAさんに限らず空港スタッフの多くは業務量が激減したために、休業を余儀なくされたり、副業解禁などの措置が取られてきております。

そうした中にあって、理由を問わない「サバティカル休暇制度」を設けたのは、これまでの留学や治療等を目的とした休暇とは明らかに一線を画した制度であると言え、すなわち福利厚生的な意味合いは薄くなり、自助努力を促すための仕組みと言えるでしょう。

初年度においては、希望者に対し一律20万円の支給があるようです。用途に関する説明は特に見つけることはできませんでしたが、休暇の目的を踏まえても何に使っても良い自由なお金なのだと思います。

重要なのは「自己都合」

「サバティカル休暇制度」と名を冠しておりますが、その趣旨・目的を照らせば、休業と言えます。実際には、業務の多くがストップしている状況は、工場が動いていないのと同じであり、その責は事業主が負うべきものです。そうすると、会社が休業を指示した場合には、労働基準法上で最低60%の給与補償(休業補償)が義務付けられております。

これが"痛い"ということなのでしょう。

すなわち、ANAの戦略で画期的なところは、あくまで従業員が自由意志によって志願する『サバティカル休暇』である点です。「これまでみたいに、留学とか治療とか理由は問わないよ。何をするのかは自由だけど、休暇だから賃金は発生しないよ。」とまぁ、こういう訳です。

当然、事業主の責に帰す休業ではありませんので、休業補償を行う必要はありません。

しかしどうやら社会保険料は会社が負担してくれるようです。

自己研鑽による自助努力を狙う

会社の人件費を浮かす、という主目的の他には従業員自ら自由に空いた時間を使ってスキルアップしてもらおうという狙いがあるのでしょう。以前の記事でご紹介したように、日本型雇用と呼ばれる"新卒採用一括主義"、"メンバーシップ型"による仕事の仕方、"終身雇用制度"の3つが並立しています。

ここにあって、従業員はそれぞれ会社に自身のキャリアステップを委ねる形となっております。故に、『会社が新卒を育て、一人前にする』図式が出来上がっているのです。

この大前提を覆す意味でもANAの取り組みは先進的であると思われます。要するに丸投げと言ってしまうと、ややひどい言い方にはなりますが、会社から命じられて何かスキルを習得するのではなく、個人の希望や意思によって「自己研鑽してきなさい、その機会を与えましょう」と言っているのです。

確かに仕事がないのですから、無意味に出社することもありませんよね。ましてや研修をしている状況でもないと思いますし、ここはかえって自由にやらせてみようというのも目的の一つなのかもしれません。

実態はどうか?

このように、人件費抑制と自助努力を促す二つの面から見て、ANAの「サバティカル休暇制度」は先進的であると感じました。本当はもっとエグい感じで、退職勧奨一歩手前の手段であったり、アメリカ式のレイオフのようなものではないかと推察しています。

レイオフとは、業績悪化や景気停滞によって人的資源を確保しておくことが難しくなった際に、勤続年数や能力等を鑑み、低い人材を一時的に解雇するのです。その後、景気回復後には優先的に戻すやり方のことを言います。

なんともジョブ型の欧米的な発想ですよね。日本型雇用では絶対にありえないやり方でしょう(笑)

ともあれ、ホンネとタテマエはありつつも、先進的、というか次世代的とも言えるかもしれませんね。今後の動向が気になるニュースでした。

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