大学教員はどこからどこまでが仕事なのか(島根大学残業代未払い労基署勧告)

島根大学で起きた残業代未払いに対する労基署勧告は、2018年に島根大学が教職員に残業代(休日手当と深夜手当)を支給していなかったことから生じた案件です。2018年8月に是正勧告が出され、同年12月には9000万円の支払いを完了しています。

大学側は把握していた

島根大学総務部は健康管理を目的とした学内調査によって、勤務状況は把握していたものの、「職務以外の目的」による勤怠だと捉えていたために残業代を払っていなかったようです。一般的な民間企業にお勤めの方からすると、「???」という印象ではないでしょうか。普通は会社にいて、業務に従事している時間は労働時間と見なされるため、どういう状況なのか理解がしにくいと思います。しかしながら、私も大学の人事の端くれとして、この島根大学の感覚はわからなくないばかりか、同情さえしてしまうほどです。

大学教員の仕事は何か

ずばり、教育と研究です。大学生を過ごした方ならおわかりのとおり、先生方は持ちコマの授業をすること(教育)と自身の研究分野において実績を残すこと(研究)を本分としています。考えてみれば、これこそ大学が最高学府たる所以であると言えるでしょう。すなわち最新の研究を行う大学教員から知恵・知識の教授を受ける場であることを指しています(本来大学とは人生のモラトリアムではないのです)。

ここで難しい問題になってくるのは、わかりやすい例で言うと、ゼミなどの活動です。コマの中で用意されている授業以外にも、軽くお茶をしながら学生の相談に乗ることや研究室での論文添削指導、フィールドワークや、中には合宿を行うところもあるでしょう。こうした取り組みひとつひとつを見ていくと、どこからどこまでがいわゆる"労働"なのか、という線引きは非常に曖昧なものであることがおわかりいただけると思います。

労働基準法上の労働者に馴染まない大学教員

大学教員の多くは労務管理されることを非常に嫌います。サボりたいとか、大学教員はブルーカラーじゃねえんだとかいう低レベルの話ではなく、こうした研究職はそもそも労働基準法上の"労働者"には当てはめにくい性質を持った人たちなのです。労働基準法を遵守するとなると、週の法定労働時間や法定休日、業務に従事する上での管理監督者は誰なのか、といった多変窮屈な状態に陥ってしまいます。

任期付大学教員で過労自死された痛ましいケース(東日本大震災の影響も大きい)を存じ上げておりますが、専任教員で過労にまで至ることは中々ないように思います。

確かに大学教員の業務の両輪である教育と研究の他にも大学内での仕事(学部の仕事や入試等大学横断業務含む)がありますので、忙しいと思います。しかしながら、基本的には朝は授業のコマに間に合えば良く、筆が進まない時に研究の手を少し緩めるなど精神的な余裕を作り出すことも自身の裁量で可能になっています。知的資源を生産する研究職なのですから、我々事務職員と違い、やはり全集中の呼吸をする時とぐだぐだ(言い方悪くてすみません)する時がごちゃ混ぜになってしまうのはある意味仕方のないことであると言えるのです。

今後は労務管理をしていかなくてはならないが…

肌感覚の話で申し訳ないのですが、島根大学のように国公立大学は、割としっかり労務管理をしている印象を受けます。しかし私の所属する大学を含めて、教員の労務管理をしている私立大学というのはほとんどないのが現状です。理由としてはこれまで述べてきた教員という職業の性格の問題もありますが、強力な法人パワーをもって、教員の労務管理をすることが果たしてどれだけ意味のあることなのかを考えた時に、それはほぼ意味がないからです。教員にとってもガチガチに労務管理されたところで、自身の働き方が不便になるだけですし、これだけ自由奔放(良い意味で)な大学教員を法人側もコントロールしようなどとは思いません。

本来労働者を守るための法律である労働基準法の前提として、強い事業主と弱い労働者がありますが、こと学校法人と大学教員の関係性においては、そんな心配はご無用なのです。

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