見出し画像

日本版オープナーは普及するのか①

1.はじめに

2018年、MLBでタンパ・ベイ・レイズが戦術として用い、その後防御率が改善されたことから広く知られるようになった「オープナー制」。日本でも2019年シーズン開幕前に日本ハムファイターズの栗山監督が取り入れることを示唆し、実際に4月2日に先発した加藤投手は3回を無失点に抑えると、4回からバーベイト投手がさらに3イニングを投げ、開幕早々にオープナー制を実践しました。

そのわずか4日後の4月6日も加藤投手が2回を無失点に抑えると、旧所属のオリックスでは先発ローテーションの中核として活躍した金子投手が登板し、日本ハムはオープナー制をシーズンで運用していくことを実戦でもって示しました。

米版wikipediaでは「オープナー制」について、

普段先発として登板する選手の代わりに、最初の複数アウトを取ることに特化した投手。いつもはリリーフとしての役割を担っている投手がその役を担うこと。

とされています。

最初の複数のアウトを取るためにオープナーを使うことのメリットについて、ベースボール専門メディアfull-CountでDELTA社が寄稿している文章があるので参考にしてもらいたいのですが、そのメリットは2つあると書かれています。

・不安定な立ち上がりにおける上位打線との対戦の回避
・(各投手の)上位打線との対戦回数の減少

同記事の中ではそのメリットの根拠として、「NPBではかなり周回効果(試合中に同じ打者との対戦を繰り返すことで、次第に投手が不利になっていくというもの)が強い」ことを挙げ、オープナー制を導入することで失点を抑え試合の勝利を近づける可能性があると記載しています。

つまり、オープナー制の肝は次の二点だと考えられます。

①(従来の5イニング以上を投げる)先発投手にとって不安定な立ち上がりを中継ぎで主に力を発揮する投手に任せる
②長いイニングを投げる投手が、相手の上位打線との対戦回数を少なくすることで失点を少なくする

2019年シーズンが終わり、すでに各球団20年の戦い方を練っている段階だとおもいます。以下、日本ハムの例を中心に19年のオープナー制の内容とその効果と課題を確認し、私の応援する二球団では導入して効果があるのかどうかを検証してみたいと思います。

2.日本ハムのオープナー事例

2019年に最もオープナー制を運用したのは日本ハムファイターズで、143試合中16試合で運用されました。これは全体の11%に当たり、シーズンに大きな影響を与えた戦術だったと言えます。その意図について、日刊ゲンダイが厚沢ベンチコーチにインタビューを取った記事があります。

興味のある方は上の記事をぜひ読んでもらいたいのですが、厚沢コーチが冒頭で述べているコメントを引用しましょう。

「オープナーと言っても、ウチの場合は(メジャーとは違い)リリーフ専門の投手を起用しているわけではない立ち上がりがいい投手が短いイニングをしっかり抑える、というスタンスです。」

”本家”のMLBレイズでは、セットアッパー、クローザーとして力を発揮してきたリリーフ専門職のセルジオ・ロモ投手が真っ先にオープナーとして起用されましたが、日本ハムはリリーフ専門である必要はないと考えている点が異なりますね。

このため、時に日本ハムの戦術はショートスターターとも呼ばれ、アメリカのオープナーと性質が異なる部分もありますが、混乱を避けるため本稿ではオープナーと括って進めていきます。

以下、日本ハムがオープナーを運用した結果を3つの角度から見ていきましょう。

2-1.オープナー制の実施と勝敗

まずオープナー制が運用された16試合を勝敗の観点から見た結果をまとめてみました。

画像1

勝敗の点から言えば、オープナーありの勝率は日本ハム通年の勝率よりも8%低く、オープナー制がチームの勝利に直結したとは言えません。実際、オープナー制を早々に導入した栗山監督は従来の常識に囚われない新たな取り組みとして多くの紙面で評価されていましたが、シーズン終盤にはチーム成績の悪化も伴って一部の野球評論家やスポーツ紙から批判を受けることもありました。

しかし、単純な勝敗(しかも僅か16試合)だけでオープナー制=悪手とみなすのはさすがに乱暴でしょう。

次の表はオープナー制を運用した16試合の対戦チーム、スコア、先発投手と責任投手をまとめたものです。

画像2

ここでまず重要なのは、オープナーが責任投手となった試合は16試合中3試合に留まっているという点です(表の網掛け行)。勿論、その3試合はすべて敗戦投手になっているのですが、それ以外の7敗についてはオープナーが責任を負わない敗戦試合であることが分かります。

対戦チームは楽天5試合、ソフトバンク4試合、オリックス3試合、西武・ロッテが2試合ずつと、日本ハムは満遍なくオープナー制を運用しています。また、負けが続いた6月末までの6試合は加藤貴之、斎藤佑樹、堀瑞輝、浦野博司の4投手が起用されたテスト段階なのに対し、7月以降の10試合はそのうちの9試合を堀瑞輝、加藤貴之の2人で担う本番段階と考えられます。

7月以降の10試合では戦績も5勝5敗と、日本ハムはオープナーとしての適性を見極めた起用を行うことができ始めているのではないか、と考えます。

2-2.オープナーで初回を抑えることはできたか

先の項目で勝敗について書きましたが、勝敗は言うまでもなく打者やオープナー以外の継投にも大きく左右されます。オープナーは2~3イニングしか投げないので、むしろそれ以外の選手たちの方が勝敗への関与度は高いといっても問題ないでしょう。

オープナー制を導入する目的の一つは、多くの先発投手にとって鬼門となる立ち上がりの失点を減らすことです。日本ハムのシーズン成績を見ても初回失点割合は15%と全イニングの中で最も高い割合となっています。

1試合の中でのイニング別失点が、オープナー制を導入した場合としない場合でどう違うかを見てみましょう。

次の表は、シーズンのイニング別失点と、オープナー制を運用した試合でのイニング別失点をまとめたものです。濃いオレンジが最も失点が多かったイニング、次点は薄いオレンジ。濃い青は最も失点が少なかったイニングとなっています。

画像3

通常時は初回の失点数が9イニングの中で最も高い一方、オープナー運用試合に関しては初回の失点割合は10%で大きく低下しています。

この結果から日本ハムは、オープナー制を運用することで初回の失点を抑えるという目的を果たすことができた、といえるでしょう。

2-3.オープナー制による試合展開の変化

2-2で載せた表をグラフにしてみると以下のようになります。

画像4

シーズン通して見ると、失点が多いのは初回と5回が頭一つ出ているのに対し、オープナー運用時には5回と3回に失点が多くなっています。特に3回の失点割合は15%で、シーズン通した時が10%なのに対し大きく差がついています。

オープナー運用時には、初回を任されたオープナーは意図通り初回の失点を抑えることに成功している一方、通常とは異なる場面で継投が行われることによる影響が生じている可能性があるのではないでしょうか。

オープナーを一番手、次に投げる投手を二番手として、その成績をまとめたみた結果が以下です。

画像6

オープナーよりも二番手投手の方が1.5倍近いイニングを投げ、防御率は約1点悪くなっているという結果になりました。全16試合のため、オープナーは平均2イニング、二番手投手は平均3イニング投げており、最も失点の多い3回を担当していたのは二番手投手であることが分かります。

二番手を担った投手は8人、各成績を以下にまとめてみました。

画像6

複数回登板しているのは、ロドリゲス、金子、バーベイト、玉井の4選手。彼らは防御率も比較的いい数字に収まっている一方で、1度しか登板していない上原、斎藤、西村、田中の4選手は斎藤選手の3回4失点を中心に多くの失点を喫しています。

先に紹介した記事の中でも二番手投手について厚澤コーチは次のように語っています。

キーになるのは試合の中盤。2番手以降です。1番手が3失点までというのはアリだと思っているが、2番手が失点を重ねるとダメージが残る。1番手、2番手にどの投手を使うかなど、改良の余地はある。」

これは4/8の記事なので、日ハムとしては早々にオープナーの後を担う投手で苦心し、前半戦を中心にどう運用するか様々なテストケースを繰り返していたと考えるべきでしょう。

最も登板が多く、イニングも投げているのはロドリゲス投手でした。ロドリゲス投手は、150km近いツーシームが投球の60%を占めるツーシーマー。先発時の成績は奮わず(1勝5敗)、全失点が23点に対し、初回の失点が7点で失点割合では30%近く、まさに立ち上がりが苦手な投手です。

そのロドリゲス投手は、二番手投手としての5度の登板機会で18イニングを投げ3勝を挙げています。登板機会のすべてで左の加藤投手か堀投手がオープナーを務めており、苦手な立ち上がりを回避し、さらに左の軟投派から右の速球派への継投が成功したと言えそうです。

オリックスでは先発投手陣の中核だった金子投手も19年は先発時の初回失点割合が30%を超え(全36失点中12失点が初回)、やはり立ち上がりを苦手としていました。二番手投手としては3度の登板機会で5失点していますが、この5失点は1試合で喫したもの(4月6日西武戦、敗戦投手にもなった)で、残りの2試合は7 2/3イニングを投げ無失点に抑えています。

金子投手も苦手な初回を回避したことで、3回中2回は好結果を残しており、オープナー制はロドリゲス投手、金子投手の2人にとっては有効な戦術だったと考えられるでしょう。(ただし、金子投手は先発として19試合91イニングに登板し8勝を挙げています。先発として失点し敗戦投手になった結果、救援に回されたケースが2回あり、オープナー後の2番手登板は本人が希望しているものではなさそうです。)

オープナー制を運用したとき、あと2つ大きく試合展開を変える事柄があります。それは、1試合の登板投手の人数救援投手の投球回です。

日本ハムではオープナー時の登板人数は平均5.5人。特に8月13日のロッテ戦では、9イニングで終わったにもかかわらず8人の投手が登板しました。

さらに救援投手のイニング数は12球団トップの605イニング。投手が打席に入らないパリーグでは、次に多いのが楽天の504イニングなので、楽天と比べても年間100イニングも多く救援陣が投げています

オープナー制を運用する場合、やはりリリーフ投手陣にとっては負担が大きく、優秀なリリーバーが複数人いないと長期的に考えると行き詰まる可能性が高いと考えられます。

3.オープナー適性のある投手とは

日本ハムがオープナーとして起用した投手は5人。特に加藤選手と堀選手の2人で13試合を占めており、7月以降の運用を見ても加藤・堀の両名がオープナー適性があると首脳陣は考えたのでしょう。

オープナー時の各投手の成績は以下の通りです。

画像7

加藤・堀の2選手に共通しているのは、①軟投派の左腕であることと、②フォアボールが少ないこと、そして③左打者に強いことの3つです。

順番に見ていきましょう。

①フォーシームの平均球速を見ると、加藤選手は138km、堀選手は142kmとフォーシームで押すタイプではありません。加藤選手はフォーク、堀選手はスライダーといったように落ちるボールをマナーピッチとして保有し、制球力と変化球とのコンビネーションで勝負をするタイプです。

②先発時のBB%については、加藤選手が6.2%堀選手が5.7%となっており、日本ハムで唯一規定投球回に到達したエースの有原投手よりも良い数字でした。初回を任されるオープナーにとって、まずランナーを塁に出さないことが求められ、制球力の高く四球の少ない投手が起用されることは納得です。

先の表のとおり、オープナー時の四球は加藤選手が12イニングで1つ、堀選手も12イニングで2つとなっており、無駄なランナーを出していないことが分かります。

③加藤選手・堀選手の、対戦打者の左右での違いを一票にしたものが下になります。

画像9

加藤選手こそ、被打率が右打者を上回っていますが、共に左打者にほとんど本塁打を許していません。堀選手に関しては被打率が右打者に比べて5分も低く、三振も多く取れています。

オープナーに際して、初回迎える一番バッターを抑えることは当然重要な要素となります。パリーグの各球団の一番バッターを見てみましょう。

画像8

このように、ロッテの荻野選手以外の5球団は左打者が最も多くの試合でトップバッターを任されています。西武の秋山選手、楽天の茂木選手ら各チームの中心選手が先頭バッターとして出てくる中で、左打者に強い投手をオープナーとして起用するのは当然の結果でしょう。

4.一旦まとめ

あまりにも長くなってきたので、今回は日本ハムが運用したオープナーについてで、いったん筆をおくことにしました。3月中に続きを書いていこうと思います。

次号は、

・他球団でのオープナー事例
・ヤクルトスワローズでオープナーは成功するのか
・オリックスバファローズでオープナーは成功するのか
・オープナーを評価する
・2020年展望

の章立てを予定しています。

→続き書きました!!以下ご覧くださいませ。

日本ハムは大谷選手の二刀流挑戦を代表として、国内外に先駆けた取り組みを行ってきた球団です。日本でいち早くオープナーを取り入れたのも納得でしょう。特に、オープナーに適任な人選をするために前半戦をテストケースとする戦い方は、中長期的な視点に基づいたアプローチで勇気のある決断だったと思います。

但し、オープナー制を導入することでリリーフへの負担増加の面は拭えず、チームとしても5位に沈んでしまったため2020年の運用については今まさに首脳陣・フロントで考えているところではないでしょうか。

今年も日本ハムの運用から目が離せませんね。

■出典元

データは以下のサイトから引っ張っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?