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2020年ドラフト指名投手を「即戦力投手」の定義に照らして検証する

こんにちは、シュバルベです✌︎('ω'✌︎ )

ドラフト候補について話をするとき、読者の皆様も「即戦力投手」という言葉を数多く耳にするのではないでしょうか。1年目から「即戦力投手」と呼ばれる投手はどこのチームも欲しいですよね?

しかし、この「即戦力投手」という言葉を安易に読み込んでしまうとしばしば悲しい論評にたどり着いてしまいます。「〇〇は即戦力投手との触れ込みだったが、碌に一軍で見る機会すらなかった」、こうしたものは選手にとってもファンにとっても不幸なもので、それなら「即戦力投手」を定義してモノサシを揃えましょうということで以下の記事を書きました。

最終的に、私の中で「即戦力投手」の定義は次のようになりました。

即戦力投手とは、プロ入り1年目に一軍で
・先発:70イニングまたは10登板
・リリーフ:30イニングまたは30登板
を投げられる投手のこと。

さて、この定義に照らした時に2020ドラフト組はどうだったのか。早速みていきたいと思います。


2020ドラフトでは74人が支配下指名され、投手は40人が指名されました。内訳は、社会人7名、大学生19名、高校生12名、独立リーグ2名となります。2015年以降の投手の指名人数は最多が2016年の62名、最少が2019年の37名で、投手の指名人数はやや少ない年だったと言えるでしょう。

1位〜2位では17名の投手が指名され、うち14名が大・社の投手でした。一年目からある程度の戦力としてチームに貢献できる可能性のある投手の指名を各球団が優先して行っていたと考えられます。

さて、先の「即戦力投手」の定義に照らして2020ドラフトはどうだったのか。こちらが該当者です。

2022年ルーキー投手抜粋

6名の投手が「即戦力投手」の定義をクリアした選手となりました。グレーの網掛けになっている大道投手・河村投手は先発・中継ぎ両方の登板を足すと基準に達しますが、どちらか単体では達していない(=配置が定まらなかった)ということで欄外にしています。

2015年以降、定義をクリアした投手の人数は次の通り。

2015年以降の「即戦力投手」定義クリア人数
※()内は投手の指名人数と定義クリア人数割合
2015年:11名(50名・22%)
2016年:14名(62名・23%)
2017年:4名(44名・9%)
2018年:7名(45名・16%)
2019年:6名(37名・16%)
2020年:6名(40名・15%)

こうして割合で見てみると、案外ここ3年のドラフトと変わりがないということが分かります。2015年~16年では基準に達成した投手が2桁いましたが、ここ4年間はそうではありません。

「ルーキーが躍動する豊作年」という見方をされる2020年ドラフト。しかしながら、実際に「即戦力投手」の人数を見てみると実は例年並みだったと言えるのです。

野手でも佐藤輝明選手や牧秀悟選手、中野拓夢選手など1年目から素晴らしい成績を残したこともあり、なんとなく投手においても「即戦力投手」が多かった印象を持ちがちです。

こうして定義に嵌めてみると違った視点で見ることが出来る訳ですが、やや印象と乖離している気がするのは基準を満たした選手の質が影響しています。

2020ドラフト指名投手の中で100イニング以上投げた投手は3人。これは2016年ドラフト(山岡投手149.1イニング、濵口投手123.2イニング、星投手110.1イニング)と並んでこの6年間で最も多い人数となっています。

最もイニングを稼いだのは日本ハムファイターズにドラフト1位で入団した伊藤大海投手の146イニング。東京オリンピック日本代表にもルーキーながら選ばれた右腕は私が「即戦力投手」として定義した70イニングを軽々超え、2桁の10勝をあげて貯金も1つ作りました。

阪神タイガースに2位で入団した伊藤将司投手も140イニングを消化、10勝をあげ貯金3つと社会人出身の即戦力左腕はその期待に大いに応えました。4球団が競合した楽天イーグルス1位の早川隆久投手は137イニングを消化、9勝7敗とこちらもチームに貯金をもたらしています。

さらにリリーフに目を移せば、伊藤大海投手同様ルーキーながら東京オリンピックに出場しクローザーを務めた栗林良吏投手がいます。シーズン37セーブを記録し、防御率は0.86。広島カープのクローザーとして1年間稼働し素晴らしい成果をあげました。

2020ドラフトは極めて質の高い「即戦力投手」がドラフト市場に出た年であると言えるでしょう。



さて、最後にもう一つ別の視点を。

2020年に「即戦力投手」の定義を超えるイニングないし試合数を投げたピッチャーはドラフト指名1位・2位の選手のみでした。2016年はドラフト4位以下でも6人の投手がいずれもリリーバーとして「即戦力投手」であったことを加味すると、その豊作年とはやや事情が違うと考えるべきでしょう。

2016年ドラフトを最後に、「即戦力投手」の基準を満たす投手が下位指名から現れることは極めて稀になっています。

2017年~2020年でドラフト4位以下で1年目から「即戦力投手」の基準を満たした選手は何人いるのか。答えは1人だけです。2018年西武ドラフト6位の森脇亮介投手。彼ただ一人なのです。

これは仮想ドラフトのような遊びに参加すると一層顕著ですが、私たちはなんとなくドラフト下位指名でも大社のリリーフ投手なら1年目から即戦力リリーフとして稼働してくれると希望を持ちます。しかし、現実としてここ4年間、ドラフト4位以下で1年目に「即戦力投手」の定義を満たした投手はたった1人だけというのは多少なりとも衝撃的であると思います。

さて、改めて「即戦力投手」の定義を見直してみましょう。

即戦力投手とは、プロ入り1年目に一軍で
・先発:70イニングまたは10登板
・リリーフ:30イニングまたは30登板
を投げられる投手のこと。

2020ドラフトで惜しくもこの定義に満たなかった2人の投手、広島カープの大道温貴投手と千葉ロッテの河村説人投手についても少し考えてみましょう。

ともに30イニングを超えるイニングを投げていますが、リリーフとして30イニングまたは30登板は満たしていません。シーズン中の配置転換により先発とリリーフ、2つの役割をこなしたのがこの2投手です。

彼らが「即戦力投手」では無いとは数字を見ても断言しづらいものの、配置を固定化できなかったという点では確かに扱いの難しい立ち位置です。

現状私としては「即戦力投手」の定義を変えようとは思わないのですが、多くのチームで下位指名投手が一年目から活躍しづらい現状を鑑みると配置転換による新しい定義づけが近いうちに必要になるかもしれませんね。


「即戦力投手」を定義する、これはちょっとした思考の遊びみたいなものですが、実際にふわっとした言葉に自分なりの定義づけを行い仮説と検証を繰り返すのは勉強になります。

野手の方も何か考えてみたいのですが、ポジションが多く純粋な試合数などで測りにくいので悩ましいですね。投手の場合はイニングを消化している=チーム内での一定のポジションを勝ち得ている(そしてそれだけの成績が付いてきている)ことだと強く感じるのでやりやすいのですが。

また何か思いついたら書いてみたいと思います。直近の2021ドラフト組が何人「即戦力投手」になるのかも楽しみですね。

お読みいただきありがとうございました。


出典

※トップ画は2021年12月9日都市対抗決勝で始球式を務めた栗林良吏投手。筆者撮影。


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