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56連敗中でも東京大学野球部は魅力に溢れている

こんにちは、シュバルベです(๑╹ω╹๑ )

先日、東京六大学野球についてこちらの記事をアップしました。

大変ありがたいことにTwitterでは120以上のRTと300近いファボをいただき、中でも「東京六大学見に行きます!」等コメントを頂けたのはまさに東京六大学野球ファンを増やしたいと願う私の本望でした。めちゃくちゃ嬉しいです☺️。

実は今回書いた東大の記事の方が順序としては先に書き上がってたのですが、ロバートさんの#ネクストバッターズサークルにて下書きを投稿したところ、やまけんさんより「前段があったほうがより多くの人に見てもらえますよ!」(要約)とアドバイスいただきました。

アドバイスに則って先の記事を書いた結果、先のような想像以上の大きな反響をいただきました。いや、アドバイス凄すぎるでしょ・・・(引き気味

ありがたいことに最近Twitterでは東大野球部の選手の方にもフォローをしていただき、私としてもそろそろ東大野球部についてちゃんと書いていかないとなぁと思っていました。

すでに他の大学については以下の記事で新4年生の注目選手(推し選手)について書いてきたのでいよいよかなと。

そこで今回のnote、「56連敗中でも東大野球部は魅力に溢れていたんだ。」でございます。

昨秋、東京大学は明治大学との2回戦で敗北し春・秋とも未勝利。引き分けを挟んで現在56連敗中です。最後に勝ったのは2017年10月8日の法政大学戦。その試合を観戦していて大いに感動してしまったのですが、その時の先発が私の贔屓であるスワローズが獲得した宮台康平投手でした。

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それから約3年に亘り勝てていませんが、やはりあの勝利・勝ち点獲得の歓喜が忘れられず、昨年も観られる試合は観に行きました。

以下、2020年の東京大学の戦いを少しのデータと写真と動画で振り返っていきたいと思います。

1.チーム成績

昨シーズンはコロナ禍により特殊な年となりました。4月スタートを予定していた春季リーグ戦は真夏の8月に1試合総当たり戦で行われ、その1ヶ月後の9月には秋季リーグ戦が2試合総当たり戦で行われました。春季リーグ戦の結果はこちら。

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0勝5敗の最下位。チーム打率.195、チーム防御率7.27はともにダントツのリーグ最下位でした。

続く秋季リーグ戦の結果はこちら。

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0勝9敗1分でやはり最下位。チーム打率.176、チーム防御率5.65でともに最下位でした。

が、ここまではある意味当然のこと。昨年の六大学野球は早川投手(楽天1位)、入江投手(横浜1位)、鈴木昭投手(ロッテ1位)、木澤投手(ヤクルト1位)のドラ1投手4人を輩出(←普通に異常でしょ)。立教大学からも中川投手がオリックスに4位で指名され東大以外の5大学からプロ野球選手が誕生したのです。

甲子園のスター選手やプロ注目選手がスポーツ推薦で入学しチーム内の選手間で熾烈な競争を繰り広げる他大学と、センター試験・二次試験を受験し合格点に達しない限りまず入学できない東京大学の差はスタート時点で余りにも大きいという事実があります。浪人合格でのプレイヤーに至っては勉強漬けの1年を追加で過ごしており、個々の力は敵うはずもないのです。それでも昨年の試合内容は希望が見えたし、なにより“いい野球”をしていたと思うのです。

以下、投手・野手の選手個人に焦点を当て、昨年の東大野球部がどんな魅力溢れた野球をしてきたか綴っていきます。

2.若い力が台頭した投手陣

野球はピッチャーが投げなければ始まりません。あらゆるプレーのスタートはマウンドに立つ投手から投げ込まれる一球で、好投手のいるチームは総じて強いというのは万国共通でしょう。正直、昨シーズン開始前の私は東大の最大の弱みは投手にありと考えていました。

こちらに書いたように、東大のエースとして君臨し過去10年で最多投球回となる222イニングを4年間で投げた小林大雅選手が抜けた穴は極めて大きいと考えました。19年終了時点で当時の1-3年生で投げたイニングは僅かに44イニング。

私は春季リーグの投手のやりくりについて次のように書いています。

夏に開催予定の東京六大学は1試合総当たりというルールになることを考えると、先発の柱を作るのではなく継投でつないでいくやり繰りになるでしょう。

手前味噌ですがこの予想は当たりました笑。

春季リーグでは、2年生の井澤駿介投手が4試合11イニング投げたのが最多で、7人の投手で5試合43イニングを賄いました。1試合あたりの個人としての最多イニングは井澤投手の慶應戦5イニング。全ての試合で3〜5人の投手の継投を行いました。

春季リーグに登板した各選手の成績はこちら。

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もちろん井手監督としても軸となるエースは欲しかったと思うのですが、東大野球部はコロナ感染拡大の影響で3月27日〜7月20日まで4ヶ月にもわたり活動を自粛していました。これは六大学の中でも最長で、そもそも大学にも入れないという状況でした。ただですら20年は東大球場の改修があり、3月の他大学との練習試合・オープン戦は他校での実施という年。練習時間が取れない中で先発完投するような選手を育てるのは難しく、怪我のリスクも考えられるでしょう。

この練習期間の短さで最も影響を受けるのは投内連携とサインプレーだと思いました。そしてそれは春季リーグ初戦の慶應戦で残酷な形で表れてしまいます。

東大が4-3と(まさかの)1点リードで迎えた9回裏。7回からマウンドに上がり、7・8回は危なげなく抑えていた平山皓太投手は、先頭の渡部遼人選手を四球で歩かせてしまうとその後の二打者続けてバント処理に失敗。前年王者で初戦を落とすわけにはいかない慶大が勢いそのままに、最後は下山選手のサヨナラタイムリーで逆転負けを喫してしまいました。

17日の明治戦では7盗塁、18日の早稲田戦では8盗塁を許し、牽制を含めたバッテリーの連携の脆さを突かれました。バッテリーを含む投内連携は個人での練習だけではどうにもならない部分で、逆に言えば練習さえすればある程度防げる箇所でもあり、その点で私も秋季リーグでどれだけ改善できるか楽しみにしていました。

9月の秋季リーグが開幕すると、東大投手陣は多くの投手がランナーを出すと牽制の素振りをするようになります。ちなみに各投手の成績はこちら。

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一塁には勿論、二塁にも投げるフリだけの牽制を多く取り入れるようになり、8月〜9月1ヶ月余りの練習は確実に成果となっていました。春季リーグでは最後の2試合走られ放題で5試合19盗塁を許しましたが、秋季リーグでは10試合12許盗塁。春に比べて秋は防御率が2点近く改善した要因の一つはこのランナーケアによるものではないかと考えています。

投内連携の危うさはまだありましたが、バントをされたら徹底的に一個のアウトを貰うことを強く意識していることは観ていても伝わってきました。10試合で東大は30犠打を決められていますが、逆に言えば30個ものアウトをバント処理で取っているのです。

前置きが長くなりましたが、感染症の影響を多大に受けた混迷の2020年リーグ、この1年で東大野球部としての最大の収穫は2年生の井澤駿介投手・西山慧投手が台頭したことです。以下、主だった投手4人について書いていきましょう。

2-1.井澤駿介投手

井澤駿介投手は、19年に関していうとフレッシュリーグのみの登板で、公式戦での登板は一度もなかった投手です。2月の練習試合では登板していたとのことですが、まさか20年の春季リーグ開幕戦に出場するとは思いませんでした。

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130km台前半の直球と、100km台のカーブ、110km台のスライダーを低めに制球し打たせてとるピッチングスタイルを持ち味としています。そして、その試合では5回3失点と前年秋の全国制覇チーム慶應大相手に試合を作りました。

春の立教戦では1アウトも取れず6失点という試合もありましたが、20年の春・秋で防御率5.58。とくに春は防御率8.18と打ち込まれましたが、秋は4.60まで改善。20年シーズン最終戦となった明治大学戦では竹田投手と投げ合い、勝てはしませんでしたが見事初完投。卒業した小林投手の穴を最も埋めてくれた選手でしょう。

シーズンで13.1K%は東大投手陣の中では優秀である一方、チーム平均より悪い16.8BB%と与四球が多くなっている点はいただけませんが、40イニングを投げて2本塁打と被弾は少なく、試合を壊してしまうことが少ない比較的安定したピッチングを見せました。

故障等がなければ文句なしに2021年も主戦投手として先発を任されるでしょう。

2-2.西山慧投手

主に先発2番手として起用された西山慧投手も、春の二戦目法政戦で4回4失点、雨で流れてしまった早稲田戦で好投。防御率等の指標を見ての通り打ち込まれた試合もありましたが新たな力の息吹を感じさせました。

奪三振率は井澤投手を上回る14.5K%。動くボールを主体とし、110km台のゆるいシンカー系統のボールで多くの打者のタイミングを狂わせました。ただし被弾が多く、22イニングで3被弾。それでも特異な変化球は今後も武器になると思いますし、あの『野球太郎No.37』ではARAさん(@arai_san_28)も寄稿しています。

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実際、春は9イニングで3三振でしたが秋は13イニングで13三振。変化球が投球の多くを占めますが、現在は130km前半のストレートが130km後半叩くようになればさらに好成績が望めるでしょう。

2-3.小宗創投手

シーズン通して最も貢献した中継ぎ投手が3年生の小宗創投手。2年生の時に比べ腕を下げ左のサイドスロー投手になるとこれがハマります。

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春は5試合中4試合に登板、秋は10試合中9試合に登板とまさにフル回転。秋は回跨ぎも7試合あり、井澤投手とともに東大投手陣を支えた功労者です。一塁側に倒れかけるほど大きくインステップするフォームで、特に左打者からは球筋が見えづらく外角にちゃんと決まるとそうそう打てないボールを投げています。

やはり課題は四球の多さで、秋は15イニングで13四球。クイックは発展途上で、ランナーを出してしまうと走られてしまうケースが多く、特に春は四球→盗塁→ヒットで一点という失点の仕方が目立ちました。もっとも、クイックや牽制の技術は春から秋にかけて大きく向上しており、秋はセカンド牽制も見せてランナーをケアする意識を強く感じさせました。

2-4.奥野雄介投手

小宗投手とともにブルペンを支えたのは奥野雄介投手。春は登板なしに終わりましたが、秋は8試合13イニングに登板しました。

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そのうち5試合で無失点に抑えリリーバーとしていい働きをしました。2年春の私が現地で観ている試合で140kmを計測した、久しぶりに現れた東大の速球派右腕。1年時から登板機会があり、ストレートとスライダーのコンビネーションで抑えるタイプです。

春の慶大戦などは彼がいれば・・・と思う内容でした。13イニングで10三振と高い奪三振能力を有する一方、イニングを上回る14四球とやはり課題は制球力。木製バット+パワー不足で基本的にボールが飛ばない六大学野球においてやはり球速で抑え込める投手は貴重ですし、特に東大は速球派がいないのでアクセントとしてもってこいでしょう。

3.4年生が輝きを放った野手陣

春秋ともにチーム打率1割台に沈んでしまった野手陣。1年生から出場経験のある主将の笠原選手や侍ジャパン大学代表候補合宿に選出された石元選手らつぶぞろいの印象はあったのですが、他大の強力な投手陣の前に抑え込まれてしまいました。

春季リーグの各チームの打撃成績はこちら。

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打率は唯一の1割台で、OPSも唯一の.500台。出塁率については.257で5位法政との差も3分程度ですが、長打率で他チームとは大きく差をつけられてしまいました。1試合あたりの平均得点は2.2点。チーム防御率が7点台だったのでそりゃ勝てんわというのが数字で示されています。

続く秋季リーグはこちら。

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打率は春よりさらに下がり、OPSも.400台に低迷してしまいました。平均得点はなんと1.4点。投手が2点以内に抑えない限り勝ちは難しいという厳しい数字です。

この秋に関しては各チームのドラフト指名組が軒並み恐ろしい成績を残しており、リーグ全体でも打率.229と完全に投高打低のシーズンとなりました。上の表の通り、法政大学ですら平均得点は2.4点。ただですら木製バットの適応に大学生は苦慮しますが、あれだけの投手を相手にすると打者はアピールが難しいですね。

この1年、東大の打者を見ていて共通するのは前傾姿勢でのバッティングフォーム。前屈みに構え、バットを最短距離で出すことで六大学の強力投手陣のストレートに押し負けないようにと考えてのチームとしての統一が図れていました。

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投手・野手拘らず私がフォームの解析や写真の素晴らしさで心から尊敬しているらすかわさん(@suzu_rasu)も次のように評しています。

少なくとも構えの時点での完成度はチームとして高く、その後のスイングスピードやスピードボールへの対応は難があるかもしれませんがチームとしての指導方針は間違っていないように感じます。

以下で各ポジションの2020年の活躍選手を挙げていきます。

3-1.現代野球の技術を会得した捕手陣

20年に正捕手の座を掴んだのは3年生の大音周平選手。21年度のキャプテンにも湘南高校の同級生の笠原選手から指名されました。

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19年秋は当時1年生だった松岡泰希選手にレギュラーを奪われかけましたが、20年シーズンはフレーミングに磨きをかけ投手陣を導きました

こちらの記事でも書いているように、低めに落ちるボールを持ち上げるフレーミングが上手くなり、元々ブロッキングに優れていたため扇の要としてレギュラーの座を掴みました。特に井澤投手とのバッテリーでは低めに制球されたカーブボールのフレーミングには目を見張るものがありました。

打撃面でも春こそ打率.188と不調でしたが、秋は打率.242。秋の規定打席(31打席)に達した東大打者の中では早川選手の打率.300の次に高い数字でした。19年の2年生シーズンでは打率.150ながら2塁打・3塁打・本塁打を各1本ずつ放つなど意外性のあるバッティングを見せていましたが、昨年はコンタクトを重視した安定した打撃を見せました。チームの方針に合わせたバッティングだったのかもしれません。

19年の長打はインコース甘めにスイートスポットを持っており、このような力強い打撃を見せています。

シーズン終了後には新主将になり、自信と同じ湘南高校出身の笠原選手からバトンを渡される形となりました。守備に打撃に心にチームの中心選手となることでしょう。

捕手としては2年生の松岡泰希選手も出場しました。

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19年は秋の開幕戦でスタメン出場を果たすなど、優れたキャッチングを中心に大音選手とレギュラー争いを演じました。

打撃面では難ありでしたが、8月11日の法政戦で嬉しい初ヒットを放ちました。おめでとうございます!

3-2.守備の名手と打撃の軸を擁した内野手陣

守備の要である二遊間はキャプテン笠原健吾選手早川怜志選手の2人がほぼ通年にわたり担いました。

まずは主将の笠原選手。コロナ禍で極めて難しいシーズンの中、キャプテンとしてチームを引っ張っていく苦労は大変なものだったでしょう。

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セカンドとして広い守備範囲を誇り、前にも後ろにも左右にもあらゆる捕球体勢でボールに食らいつく守備は高い安定感を誇りました。

数少ないスイッチヒッターですが、19年春には打率.267をマークするなど打撃でもシュアなバッティングが目立ちました。20年は春・秋ともに1割台で十分に打力を発揮できませんでしたが、全試合で1番打者として出場。セーフティーバントを試みることも多く、ヘッドスライディングなどガッツあふれるプレーも数多く見せチームを鼓舞し続けました。

試合中は笑顔が目立ち、決してチームの士気を下げないように努めている姿は周囲をグッと来させるものがありました。ちなみに、東京六大学公式ブログに掲載されている『僕の野球人生』に寄稿した文章は名文ですので、興味がある方はぜひご一読ください。東大野球部を率いることへの苦悩と、“終わり”が見えた時の達成感がまじまじと感じられます。その一節を引用しましょう。

こうして野球人生を振り返ってみると苦しいことばかりですが、野球をやめたいと思ったことはなく、野球を続けてきたのは良かったなと思っています。自分の力が到底及ばないような相手と対峙することも、はるか遠い目標のため、暗中模索で努力し続ける経験も、勝負の瞬間のヒリつくような緊張感も、足が震え、立っているのがやっとなほどの重圧も、すべてここまで野球を続けなければ得られなかっただろうと思います。そして、今後の人生でも得難いものだろうと思います。

本当にいいキャプテンだったと思います。グラウンドの外から見ている私たちにここで語られている不安や恐怖や憤りは一切感じさせないままチームを率い、引退したのですから。8個も歳が違いますが、笠原選手は私が成りたいと思う“成熟した大人“なのだと思います。

そして遊撃手のレギュラーを掴んだのは冷静なプレーでチームを引き締める早川怜志選手です。

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20年は15試合中14試合で出場、笠原選手とともに広い守備範囲を誇り、一塁送球も正確でした。失策は14試合で2つと少なく、二遊間の守備の安定度という観点では近年で最も高かったと思います。

20年春は7打数0安打でしたが、秋に打撃が開花しチームトップの打率.300。リーグでも打率ランキング7位にランクインしました。バットコントロールに優れ、広角にライナーを打ち分けヒットを量産しました。またバントもうまく、秋だけで5犠打。小技も利く良い二番バッターだったと思います。

一塁手には六大学屈指のイケメン武隈光希選手がレギュラーをガッチリMAX確保。19年はレフトでの出場が多かったですが、4年生となった20年は一塁メインを主戦場にバットでの活躍が期待されました。

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春季リーグでは期待に応え打率.353をマーク。リーグ打率ランキング6位で、しっかりと振り切るバッティングを徹底しライト方向に強い当たりを打ち続けました。

春・秋を通して打点は1と五番打者というポイントゲッターの役割は十分ではなかったかもしれませんが、武隈選手まで回せば何か起きるのではないかという期待感を抱かせてくれる選手でした。なおイケメンは文章を書いてもイケメン。

4年近くこの部で生活していて思うのは本当に幸せな環境で野球ができているということです。相手は甲子園を賑わせたスター達。場所は大学野球の聖地神宮球場。毎試合1万人近く入るお客さん。何点差になっても心から応援し続けてくれる応援部の仲間達。結果を出せばすぐにTwitterで動画が共有される環境。アマチュアスポーツでこれだけ揃っているのは東京六大学野球だけかもしれません。この環境には感謝してもしきれませんし、なによりここにくるまでお世話になった方々への感謝もつきません。(『僕の野球人生』第11回 武隈光希外野手

あだち充さんのような情景描写に始まる書き口は惹き込みますね。ちなみに私めのTwitterをフォローしてくださっている聖人です笑。ありがとうございます!!!!!

三塁は19年冬の侍ジャパン大学代表合宿にも呼ばれた、東大屈指の強打者石元悠一選手

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通算3本塁打を放っており、3年生の時には明治大学のエース森下投手(現・広島カープ)から豪快なライト弾を放ちました。三番サードを定位置とし、2020年シーズンもクラッチぶりを発揮して春に5打点、秋に4打点を挙げました。1−2番で出たランナーを返す役目を担い、甘いボールを確実に弾き返すシュアな打撃はチームの主軸に相応しく、彼がいる間に勝ち星を手にできなかったのは正直痛かったですね。

4年生の最後の試合となった秋の11月1日明治大学戦では、7回まで完全試合ペースだった竹田祐投手から意地のホームラン。先に貼った画像はまさにそのホームランを放ち三塁を回ったところの写真です。打ってくれるのではないか、と思ったところで本当にホームランを打ってくれて驚くとともに感動しました。

3−3.新旧が融合した外野手陣

多くの試合で四番センターのポジションを担ったのは4年生の岡俊希選手です。

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岡選手も石元選手と同じく通算3本塁打を放ったパワーヒッターです。フルスイングを持ち味とし、まさに0か100という打席で4年間での通算79三振は現在の東京六大学連盟で公開される2007年以降の全選手の中で最多です。春の4戦目明治戦で初回の守備の際に負傷し交代してしまい、春は不完全燃焼に終わりましたが、秋は全10試合に出場しどうにか2割越えでフィニッシュしました。

ここまで淡々と書いてみましたが、岡選手の『僕の野球人生』には次のように書いています。

開幕戦では慶應をあと一歩まで追い詰め、法政にも競った試合をし、個人としてもチームとしてもいけるぞと思っていました。しかしその矢先、送球時に右肘からブチっと嫌な音が聞こえ力が入らなくなりました。診断は右肘の靱帯断裂でした。家族やチームメイトには気丈に振る舞っていましたが、もう終わったかも、というのが正直な感想でした。

これを読んで、いや?嘘だろ?と思いました。右肘靭帯断裂。そんな怪我を負って、それから2ヶ月ちょっとの秋の試合に出場し打っていたのは努力がもたらした奇跡以上の何物でもないでしょう。

先の動画のように、このフルスイングは多くのファンを魅了しました。六大学の他大の強力な投手陣を前にも怯まず立ち向かう姿が印象的で、79三振も自分のスイングに徹した証でしょう。ちなみにNPB最多三振記録は1955三振の清原和博氏。三振の多さは強打者の勲章なのです。

外野でこの20年シーズン、シンデレラボーイ的に出現したのが2年生の中井徹哉選手です。

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春・秋ともに2割越え。自身公式戦初出場となった8月10日開幕戦の慶應戦では3打数2安打。秋の慶應戦でも猛打賞と慶應キラーとも言えるような打撃を見せてくれました。足も魅力で、秋は2盗塁。

173cm64kgとかなり細いのですが、見た目によらぬ力強いバッティングで、ファールなどを見ても鋭い引っ張り方向への打球が目立ちます。上の画像でも左脇腹の縮み方などいいフォームで振れているように見えます。

西山投手とは同じ土浦一高の同級生で、ともに神宮の地でプレーしているのは素晴らしいと思います。2021年シーズンの主力候補の1人でしょう。

もう1人、同じ2年生で活躍したのが宮﨑湧選手です。

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明るい性格で、ベンチでも大きな声を出してチームを鼓舞しています。見所は打撃で、20年は春秋通して打率.272。シーズンで4本もの二塁打を放っており、フルスイングで力強い打球を飛ばしています。

中井選手・宮﨑選手の2年生コンビがこの2021年さらに打撃に走塁に進化を遂げると一番・二番がかなり強力に組めそうな予感を孕んでいます。

外野手で忘れてはいけないのは4年生の梅山遼太選手です。2年秋に初出場するとそのシーズンでは13打数6安打と大当たり。3年・4年と苦しいシーズンを過ごしましたが、最後の秋は立教戦で中川颯選手から土壇場9回に値千金の同点タイムリー。

貴重な勝ち点0.5をもぎ取る大事な大事なヒットとなりました。引っ張り方向に強いあたりを打てる持ち味を最後のシーズンで発揮し、引き分けとはいえ久しぶりの勝ち点をもたらしてくれる一打となり、当時会社の昼休みで観戦していた私は静かに涙したのでした。

4.さいごにーー今年は勝ちますよ。

ここまで読んでいただいたあなたは東京大学野球部の立派なファンです笑。

東京六大学野球連盟の中で東大は本当に弱い。

これは紛れもない事実ですが、その一方で、実際に足を運んでいただければ東大野球部員たちがいかに真剣に勝つために野球をやり、その実力差を覆そうとしているか分かります。私自身も弱いからではなく、野球に対して純粋に上手くなりたい・勝ちたいという気持ちが溢れているので東大野球部のことが好きになりました。

そしてやはり四年生がリレーで書く『僕の野球人生』は名文揃いです。選手一人一人がその胸中を手記として記す、辛いことも楽しいことも全て飲み込んで野球という競技に全て懸ける。そんな選手の姿は見ていれば自然と伝わってきます。それこそ野球の魅力なのではないでしょうか。

チームを支える裏方さんたちまで載せているのは憎いですよね。

4年生の玉村主務は次のように書いています。

繰り返しになりますが、自分は東大野球部で勝つためにマネージャーとして入部しました。東大野球部の一員として勝つこと、これが今自分が生きる中で最大で、そして唯一の目指すべきところです。だからマネージャーをするということは、果たすべき使命のための手段でしかないのです。マネージャーをしていると、ありがたいことに多くの方からお褒めの言葉をいただきます。「チームのために偉いね」であったり、「自己犠牲の精神が素晴らしい」であったり、「社会に出て役に立つよ」であったり、様々です。褒めていただけることは本当に嬉しいのですが、でも自分の場合、実はどれも違うのです。自分は東大野球部の一員として、ただただ勝ちたいだけなのです。それが偶然マネージャーという1つのポジションであったに過ぎません。(『僕の野球人生』第21回 玉村直也主務

そして玉村主務と同じく渋幕出身の松田マネージャー。

マネージャーをしていると、文字通り毎日のように、電話やメールで「頑張って」「期待してるよ」「次こそ勝つぞ」といった激励のお言葉をいただきます。こんなにもたくさんの方に応援していただいているのか、と最初は驚きました。本当にありがたいことです。それに対していつも「ありがとうございます。頑張ります」と返しますが、内心では私自身も、そうしたメッセージをくださる方々と同じ感情を選手のみんなに対して持っています。チームの内部の者として責任を持って、やるべき仕事をしっかりやる。そのこととはまた別次元で、チームメイトに対しては、一番近いところにいるファンのような気持ちでいます。(『僕の野球人生』第13回 松田祐香マネージャー

このお二人ともにどこか通底したものを感じてなりません。いうまでもなく、プロ野球も表に立たない多くのスタッフの力で興業として成り立っています。そしてそのチームスタッフは必ずやチームの勝利を信じています。こうして世界は回っている、そう感じさせるのも野球の魅力なのかもしれませんね。

今回の記事では紹介できなかった選手たち、特に4年生の投手陣や控え選手たちも魅力溢れる選手が多く、データや理屈じゃなく純粋に観戦する楽しさを思い出させてくれました。

しかし、勝負事は勝たねば始まりません。

この1年で2年生を中心に下級生が台頭してきました。2021年には彼らは当然(留年しなければ笑)3年生となり、上級生入りをしてチームの中核となるわけです。大音キャプテンをはじめ、今回紹介した選手たちでも小宗選手や奥野投手など新4年生も個性ある面白い選手が多い代となっています。10試合やれば1試合ぐらいジャイアントキリングを起こせるだけのメンバーは揃っていると私は信じています。

その上でやはり私はこう言いたい。

あと一歩、惜しかった。もうその言葉は聞きたくない。今年は勝つところが見たい。

投手の奮起ももちろんですが、それ以上にキーとなるのは打線でしょう。最後に勝ち点を奪取した2017年秋、東大打者のチームOPSは.681でなんと早大・立大を上回りました。秋だけで8本塁打と、楠田選手・田口選手を筆頭に打ち勝つ野球で旋風を起こしたわけです。

それに対して、20年シーズンはチームでの本塁打が1本。もちろん、他大の投手陣は強力ですが、それでも物足りなさは感じさせました。

これからのヒントの一つは、秋季シーズン前に行われた社会人対抗戦でのNTT東日本との対戦です。この試合で都市対抗準優勝チームであるNTT東日本と5−5の引き分けという試合を演じました。

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これ、めちゃくちゃ凄くないですか?こんな試合ができるチームが弱いはずないんですよね。

2021年、流石に2020年ほどの好投手が各チームにいるかといえばそうではありません。チャンスはあります。井手監督としても2年目を迎え、チームの把握が進んでいるのは確実です。今年のスローガンは「変革」。その一環として、新たにデータアナリスト部門を設置し学内で分析官を募集しました。中でも齋藤周氏は積極的にnoteでもアウトプットしながらデータを元に分析を進めています。

このデータ分析に関しては東大らしさを遺憾なく発揮できる領域だと思うので、ぜひ活用して欲しいですね。

再びあの歓喜をーー。今年も勝利を信じて応援します。

■出典

写真については全て筆者撮影のもの。

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