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【OAK】メイソン・ミラーの中継ぎ転向は正しい?

 年が明けてしばらく経ちましたが、特に動きもないアスレチックス。選手補強など噂すら出ていません。移転関係のニュースも残念なものばかり。オーナーがケチと強欲を極めるとこうなるのかと、ため息が出てしまいます。

 私はあくまで選手と試合にフォーカスして書いていくつもりなのでこれ以上この話題を深堀りする気はありませんが、チームが悪い状況にあることは悲しいことです。せめて、今いる選手たちが可能な限り最高の環境でプレーできることを願っています。

 さて、今オフの一番大きな動きは、ウィンターミーティング中にフォーストGMの口から聞かれた、期待のエース候補メイソン・ミラーをブルペンに回すという言葉でしょう。私は当然健康ならミラーは先発ローテを回ると思っていたので、この発言には驚きました。

 成績面で見ると失敗したわけではないトッププロスペクトの投手を、先発が飽和しているわけでもないチーム状況でリリーフとして使うというのは珍しいことではないかと思います。今回の記事では、そんなミラーの中継ぎへの配置転換について考えてみましょう。

※本記事内において、データや図表は特に表記のない限りMLBが公開しているStatcastデータを用いて筆者が集計・作成したものです。投球の位置と変化量はすべて捕手視点ですので、日本でよく見る投手視点のものとは左右が逆になっています。


成績を振り返ろう!

 中継ぎ転向について述べる前に、昨シーズンのミラーがどのようなシーズンを送ったかを見ていきましょう。

 ミラーは開幕をAAで迎えると、1試合でAAAに昇格。その後は4試合で12イニングを投げて無失点の好投を見せると、チームの先発陣が開幕から音を立てて崩壊した影響で4月19日に昇格しメジャーデビューを果たしました。

 私の中では本当はもう少し時間をかけてチェンジアップを育てるなど、マイナーでやることはあったという考えではいますが、結果を見れば十分メジャーで通用する状態だったことは間違いありません。

故障離脱まで―評判通りの活躍?

全体

 ミラーはデビュー戦からPitching Ninjaなど複数の有名アカウントに取り上げられるなどその実力を惜しみなく披露。徐々に成績もついてきて、球界注目の若手へと飛躍を遂げました。

 しかし4登板目を終えた後に肘の張りを訴えて故障者リスト入り。そこから4か月もの長期離脱となりました。まずはデビュー後故障で離脱するまでのミラーの投球を振り返ります。

21.1回 防御率3.38 三振率25.9% 四球率8.2%

FanGraphsより

 ホップ量の優れたフォーシームはマイナーでの評判通り。スライダーもおおよそ評判通りです。右打者相手にはフォーシームとスライダーのコンビネーションが効果的で、たまにハードヒットされる以外にはほぼ制圧できており、あまり言うことはありません。

カッター

 ここまで去年から想像された通りだった部分について書いてきましたが、当然違う部分もあります。最も大きなものはカッターです。去年は投げていなかった球種で、どうやら元々投げていたがけが予防などの目的でプロ入り後封印していたのを今年解禁したようです。

 カッターの球速は平均94マイル(151.6km)、最速97マイル(156.4km)と変化球としてはかなり速く、それでいて速球とは変化量で違いがあるという驚くべき球種になっています。

 ミラーはこの球種を主に左打者のインコースに投じており、オープン戦ではこの球でボールゾーンをえぐられて空振り三振を喫したマリナーズのサム・ハガティがびっくりするなど一定の成果を挙げていた印象です。

 しかし、変化が小さいため空振りが取りにくく痛打もされやすい上、難しいコースに集中的に投げ込もうとしている割には微妙な制球は出来ていないため、あまりカッター自体は有効になっていません

捕手目線。枠線はストライクゾーン、両側の縦線は打席の内側の線。

 図からもわかる通り、膝元へのボール球や抜け球も多く、上手く使えば有効かと思いますが現状では課題の残る球種だと思います。

スライダー

 スライダーも、下図からわかるように左打者のインコースを突くことができておらずアウトコースに抜ける球が少なくない状況。チェンジアップも含め、全般的に変化球のコマンドが甘いということが言えそうです。

フォーシーム(ストレート)

 ここまでに挙げた2球種とは対照的に、フォーシームは安定的にゾーン近辺、特に高めに投げ込めており、これがミラーの変化球のコマンドの未熟さを補っているように見えます。

 もちろんフォーシームもピンポイントの制球力で投げられているわけではないのですが、ほかの球種と比べて威力の高い球質である上に投げる場所もまとまっているので問題ないと思います。

 ここまで図を用いていろいろ書いてきましたが、実際数値としてはどうなのでしょうか。

Heart%+Shadow%

 左右ともにスライダーの数値が低いのが目立ちますね。スイーパー系でもなく、縦変化もずば抜けて大きいわけではないのでもう少しストライクゾーン周辺に投げるべきです。

 比較のために2023年シーズンのMLBの右投手全体を見てみると、スライダーミラーが記録した数値より高くなっています。カッターもできれば同じようによりストライクゾーンに近いところに集めるようにしたいところです。

 そして、スイング傾向を見てみると、カッターは左右ともボール球をあまり振ってもらえておらずスライダーも対左打者では同じ傾向です。フォーシームはそもそもゾーン近辺に十分投げられているので問題ないでしょう。

まとめ

  • 課題もあるが期待通りの活躍

  • 100マイル超の速球は評判通り

  • 変化球の制球力とボールゾーンでの奪空振りに課題

復帰後―小さな変化と課題

 ミラーの復帰後、チームはこれ以上の故障を防ぐためにミラーに球数制限をかけてオープナーや中継ぎで起用しました。確かにこれは合理的な動きです。今回の中継ぎ転向はあくまでこれをそのまま継続するものと見ることもできるでしょう。

全体

12回 防御率4.50 三振率29.6% 四球率16.7%

Fangraphsより
各球種の変化量を故障離脱前後で比べたもの。

 そんなミラーですが、離脱前と比べて変化がありました。速球のホップ量安定したほか、スライダーがやや縦変化寄りになっています。どこのメディアでも記事になっていないので、もしかしたら意図して変えたわけではないのかもしれません。

 短いイニングを投げることになったため、右打者ではよりストレートとスライダーの2球種に集中。一方で左打者に対してはカッターが減り、ほかの球種が増えました。カッターの被打球指標が悪かったことを考慮したのかもしれません。

フォーシーム(ストレート)

 なぜホップ量が安定したのかを考えてみたいと思います。可能性としては、1日あたりで投げる球数が少なくなったため疲れによる球質のブレが減ったということが考えられます。

 これを確かめるために、故障離脱するまでの速球の変化量をイニングごとに色分けしたものを見てみます。

 弱いながらも先に言ったような傾向が見られます。ただ、初回からホップ量が少ないものもあるので一概にこの説が正しいとは言い切れません。

 ほかの可能性は考えるのが面倒なので読者の皆さんが考えてください。良いものが思いついたら教えてもらえると嬉しいです。

 また、制球面はやや悪化したと考えています。というのも、故障離脱前には56%あった対左でのZone%が42%にまで下がっているのです。際どいボール球が増えたなら心配はないのですが、後でも述べますが割合として明らかなボール球が増えています

 対左打者では生命線となっていた速球がコントロールできていないのはまずいです。

スライダー

 先にも述べたように、故障から復帰した後のミラーのスライダーは横変化が減り、若干縦変化が大きいものになりました。これと後述する制球面の改善によってスライダーはより有効な球種になりました。

 右打者相手に露骨にボール球のスイング率が上がりました。横変化が減って右打者のスイング率が下がるのは直感に反しますが、おそらく無駄なボール球が減ったことが一番大きいです。

 全体的にストライクゾーン周辺に点がまとまったような印象を受けないでしょうか。画面に向かって右側に変化する球種なので、画面左寄り、すなわち左打者のアウトコースへのボール球が減ったことは特に大きいです。

 さて、なぜスライダーは縦変化になったのでしょうか。それには、リリースポイントの変化が関係している可能性があります。

 若干ですが、復帰後は右側に動いているのがわかります。これは体により近い位置で、上寄りの腕の角度から投げているということです。もしかしたらそのほうが肘への負担が小さいと判断したのかもしれませんね。

カッター

 離脱前とあまり変化がないので割愛します。

なぜ成績悪化?

 成績悪化には、いくつか原因があるように思います。一つ目は四球が増えたこと。

 先述の通りスライダーがゾーン近辺に入る割合が15%ほど上昇。それにもかかわらず四球が大幅に増えたのはどうしてでしょうか。

 理由については様々あるでしょうが、おそらくいくらか速球の数字が下がっていることに原因の一端があると思います。この傾向は、先述の通りストライクゾーンに入った割合を見たときに顕著になります。

 それ以外に四球を増やす要素は今回の調査では見つからなかったため、おそらく最大の原因はこれでしょう。

 二つ目はゴロを打たれることが増えて、このゴロがBABIP.444をマークしたことです。この間のミラーのゴロ打球の打球速度が平均86.8マイルと速い部類で、MLB全体で下位30%に相当する数字でした。ゴロ打球は打球が速い方が内野の間を抜けてヒットになりやすいというイメージは皆さんがお持ちでしょう。

 しかし、この程度の打球速度の差ではBABIPは誤差程度にしか上昇しないため、ミラーの責任とすることには無理があると思います。2023年のメジャー全体でのゴロ打球のBABIPが.243であったことから考えると相当な下振れであるといえるのではないでしょうか。

まとめ

  • やや成績悪化

  • 速球の制球力が低下した

  • スライダーが良くなった

  • 不運だった

で、中継ぎ転向ってどうなん?

 前置きが長くなってしまいましたね。ここまでで4000文字を超えています。

配置転換の理由

 なぜ、成績上は先発で失敗していないミラーが中継ぎに転向するのか。それは、故障を防ぐためです。ミラーのキャリアはアマチュア時代から病気、そして複数の故障に見舞われており、それが選手としての最大の弱点になっています。フォーストGMも中継ぎ転向について語った際に「彼にはまず健康で1年過ごしてほしい」と発言しており、唯一にして最大の理由と言えるでしょう。

本当に負担軽減?

 これを聞いて「中継ぎのほうが負担は大きいのではないか?」と思われた方もいるかもしれません。しかし、ミラーの場合はそうとも言えないのです。

 まず、リリーフは先発よりも投げるイニング数は短いです。先発は5~7日ごとに平均5イニングくらいを投げますが、その間にリリーフはまともに登板管理をされていたら多くても3~4イニングです。リリーフの負担を増やしているのはいつ登板するかわからないという部分と連投です。ミラーはおそらく厳重な登板管理の対象となるのであまり縁のない話でしょう。

 そしてミラーの役割はクローザーかセットアッパーとされており、悲しいことに現在のチーム状況ではあまり登板機会が回ってきません。残念ながら別に試合にわざわざ勝つ必要もないため「どうしてもミラーを投げさせないといけない場面」などというのはないに等しいです。

 以上から、ミラーを中継ぎに回すと負担軽減になるということができるかと思います。

過去の例

 さて、過去に似たような例はあるのでしょうか?

 残念ながら、答えは「ほとんどない」です。先発で成功しているトッププロスペクトを、耐久性への懸念からブルペン送りにした球団なんてほとんどありません。

 わざわざ「ほとんど」と言ったのは、同じではないにせよ似ている事例があるからです。それは、同じアスレチックスで、現在マーリンズのA.J.パクです。パクもまた、投球イニングを減らすために中継ぎに転向しました。

 パクの場合は、メジャーデビュー前の2018年にトミージョン手術を受けて回復の過程でのリリーフ転向でした。2019年に復帰後はリリーフとして投げ、メジャーデビューも果たしました。

 パクはその後先発調整をしていた中で2020年に肩を痛めて、復帰後は2021年シーズンのローテーション争いに敗れたあとリリーフに再転向。22年に左の剛腕リリーフとしてブレイクし、23年のシーズン前にJJ・ブレデイとのトレードでマーリンズへ移籍するまでは先発調整を視野に入れていたようです。

 結局パクはメジャーのレギュラーシーズンで1試合も先発していませんが、ミラーの場合は違います。フォーストGMも、今回の中継ぎ転向はミラーのキャリアがリリーバーとしてのものになるということではない、すなわち最終的には先発に戻すつもりがある旨を話しています。

 元々制球が課題だったパクとは異なり、ミラーは現時点でも確実に先発に残ることができる実力を有しており、今でも間違いなくチームのエース候補筆頭です。フォーストGMを始めとする編成陣の頭には、エース候補だったパクがケガに次ぐケガと制球難で先発をやめたことがあるはず。壊れる前から慎重に扱って、結果的に大成してほしいという思いはきっとファンと一緒でしょう。

まとめ

  • 今回の中継ぎ転向は異例

  • 今回の中継ぎ転向はケガ予防のため

  • A.J. パクの失敗から学ぼうとしている

結論

 私は今回のミラーのリリーフ転向について肯定的に見ています。彼には当然先発してほしいのですが、故障で選手生命を棒に振っては元も子もありません。過去の故障歴や実際一度先発で故障していることを考えると、またケガでの長期離脱をする可能性が高いと考えるのは自然です。

 一度健康で1年間過ごせたら本人にとっても自信になるでしょう。そうして自信を得た先に、先発投手としてサイヤング賞を争うような華々しいキャリアが待っていることを願ってやみません。

 長くなってしまいましたが最後までお読みいただきありがとうございました。よければスキフォローTwitterのフォローもよろしくお願いします。それではまた次回の記事でお会いしましょう。

 


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