システムエンジニアを目指していた頃の経験談

現在はHTML・CSSでWebサイト制作を行っている私ですが、こんな私も実は一時システム開発を目指していた時期がありました。
特にエンジニア職は派遣(?)が多く、客先に出向して開発に関わる業種です。
いわゆる「客先常駐」や「SES」というヤツです。

結論から申しますと…オススメはしません

その理由は、SESで調べていただければ、わかるとは思いますが、ゼネコン構造で最底辺だとか、中抜きが多いとか、技術力が育たないとかが多く言われていますが、ここでは私の体験に基づいて、別の切り口から説明していきます。

面談が多い

まず、お客様先に常駐して働くからには、ご挨拶をする必要があります。
と言っても、単なるご挨拶で終わればいいのですが、採用面接と同じなので、ここでしくじると、仕事させてもらえません。

面談では、エンジニアとしての経歴を示したスキルシート(履歴書ではない)をお客様に提出して、今までの経歴を語ります。
もちろん、経歴の多さや長さが物を言うので、自分よりも経歴の多い人が同席もしくは別日程の面談に来ていた場合は、絶望的と考えてもよいかもしれません。
客先がよほどの人数を欲している場合か、面談を受ける人間が自分ひとりだけという事を祈るしかないでしょう。
受からなければ、もちろん別の客先でまた面談です。

経験がなければ仕事はない、仕事がなければ経験もない状況なのは確かですが、経験はなくても、若ささえあれば単価が安い場合があるので、それで受かるチャンスもあります。
なるべく早い時期でなければ後れを取るのと、人間に「単価」という金銭的価値を付与するという、下品極まりない行為が必要ではあるのですが、それを足がかりにして、面談に受かりやすい経歴を育てていく必要があります。
そして年齢や経歴を重ねるごとに単価が高くなってくるので、35歳頃になったら潮時と言われています。

また、経験が少ない場合には、経歴を盛られる場合もあるそうです。いわゆる経歴詐称です。

タライ回しにされる

案件は、複数の業者から下請けされてきている場合が多いため、案件に関わっている全ての業者に、タライ回しにされる事もあります。
派遣契約なら、多重派遣になって完全にアウトなのですが、多くは準委任契約から準委任契約で案件が回ってきているため、”多重派遣には”なりません。

もちろん関わっている全ての会社に報酬が配分されるため、エンジニアに入る分はその分が差し引かれます。
これが中抜きが多いと言われる所以です。

自分がどんどん他の担当者に渡されるので、自分自身の人権さえも忘れてしまいかねない状況です。

また、配属になった場合は、関係各社の自分名義の名刺を持たされる場合もあるそうです。

ひとりぼっち

面談に受かれば、実際に客先で働く事になるのですが、基本は現場に放り込まれるだけです。
派遣であれば、客先も指揮命令は可能なのですが、準委任契約ですので客先からの指示は一切ありません。
自ら現在の案件を見つけて、自ら対応していく…全て自主的に行動をしなければなりません。

なら自分が所属する会社の人間から聞けばいいかもしれませんが、残念ながらそれも無理な話です。
例えば自分が所属する会社をA、客先が直接取引している会社をBとします。
客先はB社と契約しているのであって、A社の事は知らないはずです。
なので、入館証が発行されるのは自分自身だけであり、A社の他の社員には発行されないはずです。
もしここで自分以外のA社の人間が客先に入ってきたとしたら、不法侵入という事になるでしょう。

ならB社の人間から指示を仰げばいいのではと思うかもしれませんが、契約が準委任契約だとB社にも指揮命令権はありません。
A社からの派遣でB社に所属し、B社の指揮命令によって客先で働くというのであれば、ギリギリ行けなくは無いでしょう。
しかし、A社からB社からも準委任契約であったり、さらに他のC社という別の会社も挟まっていたらアウトですね。

つまり、何もかも自分ひとりだけで仕事をする覚悟が必要になります。

なぜ、このような事になるのか

明らかにプログラマーに対しては不遇な扱いですが、なぜこのような事が起きているのかと言いますと、人月商売が成り立っているからです。

要は、1人いれば何日で出来上がるみたいな計算方法で、人を集める事が目的になってしまっているのです。
そのためには指揮命令が出来なかろうが、どこから来ていようが関係なく、とにかく人を集める事が当たり前になっています。

もちろん、そのような事は現実的ではないのですが、残念ながらプログラミングが単純作業と思いこまれ、人が大勢いればそれだけ早く仕上がるものと思われているからです。
当然プログラミングは単純作業ではなく、最適な解決策を考えるために、プログラマーの思考が求められます。
経験もあるに越した事はないのですが、それ以上に実際にはパズルを解くような知恵が求められます。

じつは危険な多重下請け構造

多重派遣は派遣法で禁止されています。その理由は中間搾取も理由のひとつですが、責任の所在が曖昧になるからです。
SESは準委任契約であるため、今のところ違法ではないのですが、多重派遣に似たような事が起きているのは確かです。

複数の中間業者が関わっているという時点で、その人がどこの所属なのかが、わからない状況になっているのに加え、面談での経歴詐称や中間業者の名刺を持たされたりもあると、なおさらその人の素性が、わからなくなります。
そしてもし、その人がアプリケーションにバックドアを仕込む役割だったとすれば…

想像もしたくもないような事ですが、もしそのような事が起きても犯人を探す事さえ困難なうえ、偽装請負が発覚する可能性があるため、公には出来ないという事にもなってしまいます。
つまり犯人にとって、これほど都合のいい現場もないでしょう。

本当にオススメは出来ない

かなり怪しい部分が見え隠れし、惨憺たる有様なSES業界ではありますが、それでもこのような状況が続くのは、プログラミングが一種の単純作業と思われているからなのではないかと思います。
単純作業ゆえに、たとえ、どこから来たのかわからない、経歴も査証された、指揮命令もできない人が来ようとも、人数集めて作るものという人月の文化が残っているからではないかなとも思っています。

度重なる面談にも疲れましたし、現場に1人放り込まれるのも疲れましたし、黙認されている実態を知って、この業界でやっていく事にも絶望を感じました。
実際に客先とのトラブルがあり、所属元からも退職する事になったのですが、今考えると、それでよかったと思います。
なにしろ、その1年後ぐらいに所属元の会社が偽装請負で摘発されていたので、もし自分があのまま続けていたら、準委任契約から取引先へ行き、そこからまた準委任契約で客先へ常駐という形になっていたため、私自身も経歴詐称などで取り締まられていた可能性もあったのかもしれません。

このような事もあり、私はエンジニアの道をあきらめたわけですが、HTML・CSS・PHP等の知識を活かせるWebサイト制作の方に舵を取る事にしました。
しかしHTML・CSSもじつに面白いもので、解決策や効率を考えて制作する事が楽しく思える所は、システムエンジニア職と同じなのではとも思えます。
どちらかと言うとシステムというよりも、デザイン寄りなのですが、それゆえか技術に詳しい人が重宝される業界なのではとも思えます。

せっかくプログラミングを学んだのに、業界そのものがこれかと後悔したのでしたら、HTML・CSSを学んでWebコーダーの道に行くのも、いいかもしれません。
HTML・CSSは、なぜかプログラマーにとっては難しいと言われていますが、PHPやJavaScriptを使う局面もあるため、プログラミングのスキルは活かせますし、比較的問題の少ない業界かなと思っています。

システムエンジニア職の全ての求人が、客先常駐でヤバい事をやっているとは限らないのですが、”ほぼ確実”と言えるほどその数が多いのは確かです。
私もこのままでは、新たなエンジニアが育たないどころか、日本のシステム開発そのものが危機に晒されるのではと危惧はしています。


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