【掌編小説】魔性/祈りという愛

 朝焼けをのぞむとき、私たちは。

 苦しまないように、と祈るのが愛だった。
 少なくとも、私にとってはそうだった。ずっと。ずっと。

 花崎ユリカという、魔性に出会うまでは。

 花崎ユリカは魔性だ。
 言葉の意味通り、ヒトを惑わす。すれ違っただけでひとは彼女を好きになり、心酔し、いつの間にやら道を外れている。

 私は彼女を好きにならない。なぜなら、この大学で私だけが彼女の正体を知っているからだ。

 花崎ユリカは魔性である。
 

(中略)


 苦しまないように、と祈るのが愛だった。
 では、花崎ユリカを手にかけようとしながら苦しまないように、と祈るこれも愛なのだろうか。
 いいや。そうではない。
 私だけは彼女を好きにならない。私だけが、彼女を愛さない。

 私だけは、花崎ユリカを愛してはいけない。

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