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偏愛本紹介1月 大河な本

明けましておめでとうございます。
(…まだこの挨拶使っていいですか?)

年末年始はいかがでしたか?
私の年末ジャンボは、9000円購入3900円のリターンというしょっぱい結果でした。22年最後をそんな結末で締め、23年の今もなおWi-Fiのない実家に帰省し、読書と皿洗いから一年を始め、気が付けばもう一月も半ば。
初詣で「今年は●●できますように」と大きな目標を立て心意気も新たにスタートを切った人も多いのではないでしょうか。一年の始まりはなぜか大きなことを考えやすくなりますよね。
そこで今日はスケールの大きな、大河を感じる本をご紹介。

華竜の宮

文庫本上下巻も出ています

上田早夕里著(早川書房)
ホットプルームの活性化による海底隆起で、多くの陸地が水没した25世紀。未曾有の危機と混乱を乗り越えた人類は、再び繁栄を謳歌していた。陸上民は残された土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は海洋域で〈魚舟〉と呼ばれる生物船を駆り生活する。陸の国家連合と海上社会との確執が次第に深まる中、日本政府の外交官・青澄誠司は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく、海上民の女性長(オサ)・ツキソメと会談する。両者はお互いの立場を理解し合うが、政府官僚同士の諍いや各国家連合の思惑が、障壁となってふたりの前に立ち塞がる。同じ頃、IERA〈国際環境研究連合〉はこの星が再度人類に与える過酷な試練の予兆を掴み、極秘計画を発案した――。最新の地球惑星科学をベースに、地球と人類の運命を真正面から描く、黙示録的海洋SF巨篇。

『日本沈没』ならぬ「世界沈没」後の世界を、地球の動向、人間を含めた動植物の変化、紛争と政争等果てしないスケールで描いた日本SF大賞受賞作。
あらすじを見て、「おもしろそー!!!」と思う人と「てんこ盛りで読めるかな…」と思う人に分かれると思います。
前者の人、その直感は間違いないです。いますぐ読むのだ。
後者の人、たしかに内容の充満度がすごいのでさらっと読める本ではありませんし、自身の想像力を極限まで駆使して読む体力のいる作品です。でも読む価値はあります。脳が喜びで爆発するような体験ができますよ。

絶賛の嵐だった作品だけに数多の素晴らしい書評がネットで気軽に読めるので、私からは2つの胸熱ポイントだけご紹介します。

①魚舟の発想がすごい
本書以前に刊行された『魚舟・獣舟』が初登場。本書ではこのように記載されています。

 巨大海洋生物を飼い慣らし、人間はそれに寄生して暮らす――という方法が考え出された。このライフサイクルに適応するために、海上生活に適した身体を持った民族が、科学実験の末に生み出された。(中略)この方法で生まれた人工的な種族を、人々は海上民と名づけた。旧来の人類は陸上民と呼ばれるようになった。海上民の最大の特徴は、自分たちの生活に必要な生物船を「自ら産み出せる」ことだった。
 海上民の乗り物は、魚舟と名づけられた。扁平な頭と二対の鰭、大きな尾鰭を持つ。サンショウウオに似た巨大な魚—―。その全長は、成熟すると二十ないし三十メートルにまで達した。背中には居住殻と呼ばれる大きな空洞があり、海上民はこの内部で暮らした。(中略)
 家であり<朋>でもある魚舟に充分な餌を与えるため、海上民は所属政府の領海だけでなく、公海にまで積極的に進出していった。

さらっと新しい人類形態が登場し、それに伴う新社会が誕生しています。なにをどうしたらこんな発想ができるのでしょう…。
ちなみに生まれ落ちた時に人間と離れ離れになり、野生化した魚舟は物語の要素としても非常に重要なキーです。

②アシスタント知性体
陸上民は5歳くらいになると、アシスタント知性体を親からプレゼントされ、自身の思考補助パートナーとして生涯利用する。
主人公青澄と、彼のアシスタント知性体マキの関係性はバディものの至高にも思えます。

≪アシスタントは、人間というシステムの情報整理を生き甲斐にしている。いや、それを『生き甲斐』として感じるように、プログラミングされている。人間の感じ方とは違うけれども、僕にだって、生きて活動する喜びはあるんだよ。それを、パートナーの意思によらずに破棄されるのは、あまり気持ちのいいものじゃないね≫
「私と一緒にいても、喜びを感じる機会なんてないと思うぞ...…」
≪そんなことはないさ。君は実に興味深いパートナーだ。僕が処理できないほどに、雑多な事柄を受けとめて思考している。人口知性体から見れば、その多くはただのノイズだ。でも、僕はそれを音楽のように聴いている≫
「音楽?」
≪それは決して綺麗な音楽ではない。音程は外れ、リズムは乱れ、しっちゃかめっちゃかで、どうしようもないものだ。理路整然の対極にあるものさ。そういう意味では、数学の一種として成立する音楽とは完全に別物だ。けれども君の中にあるそれは、確かに人間にしか作れない音楽だ。(略)≫

安心してください。クライマックスではありません。このパートでまだ上巻の半分もいっていません。
つまりこんな素敵な文章がずっと続くのです。ほうら、読みたくなるでしょう?


天冥の標シリーズ

合本版

小川一水著(早川書房)
西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープは入植300周年を迎えようとしていた。しかし臨時総督のユレイン三世は、地中深くに眠る植民船シェパード号の発電炉不調を理由に、植民地全域に配電制限などの弾圧を加えつつあった。そんな状況下、セナーセー市の医師カドムは、《海の一統》のアクリラから緊急の要請を受ける。街に謎の疫病が蔓延しているというのだが……小川一水が満を持して放つ全10巻の新シリーズ開幕篇。

日本SF大賞受賞の全10巻17冊の超大作。1000年のスペース・オペラは圧巻としか言いようがなく、巻ごとに独立しながら(5巻くらいまではどこから読んでも大丈夫)脈々と続く物語がある、まさに大河な作品です。
あまりにも毎巻趣が異なるので、ちょっと公式のあらすじを並べてみます。

<2巻>
西暦二〇一X年、謎の疫病発生との報に、国立感染症研究所の児玉と矢来はパラオへと向かう。そこで二人が目にしたのは、肌が赤く爛れ、目の周りに黒斑をもつリゾート客の無残な姿だった。懸命な治療もかなわず、息絶えていく感染者たち。事態は世界的パンデミックへと拡大していく──すべての発端を描く第二巻。

<3巻>
西暦2310年、小惑星帯を中心に太陽系内に広がった人類のなかでも、ノイジーラント大主教国は肉体改造により真空に適応した《酸素いらず》の国だった。
海賊狩りの任にあたる強襲砲艦エスレルの艦長サー・アダムス・アウレーリアは、小惑星エウレカ に暮らす救世群の人々と出会う。
伝説の動力炉ドロテアに繋がる報告書を奪われたと いう彼らの依頼で、アダムスらは海賊の行方を追うことになるが……。

<4巻>
「わたくしたち市民は、次代の社会をになうべき同胞が、社会の一員として敬愛され、かつ、良い環境のなかで心身ともに健やかに成長することをねがうものです。麗しかれかし。潔かるべし」
――純潔(チェイスト)と遵法(ロウフル)が唱和する。
「人を守りなさい、人に従いなさい、人から生きる許しを得なさい。
そして性愛の奉仕をもって人に喜ばれなさい」
――かつて大師父は仰せられた。そして少年が目覚めたとき、すべては始まる。

早川書房HPより

はい、全部同じシリーズです。
1巻でこの舞台世界の大きな謎を提示しつつ、感染症が発症する起点たる2巻、そこから数百年を少しづつ進め、8巻以降は1巻の直後からという構成。
2巻で現れる90%を超える致死率の感染症は、完治しても体内に残り、垂直感染して子々孫々まで感染者となります。この性質により激しい差別の歴史が始まり、1000年の宇宙進出の歴史に影を落とす姿は、ハンセン病やコロナを経てきた今、確かなリアリティを感じ…。

あまりのスケールに、頭がパンクしそうになり、付属の年表を眺め読むことも多かったですが、補って余りある充足感。
種として生き残ること、個として人生を生き抜くこと。読みながら、自分がそんな”大河の一滴”として存在していることを改めて実感します。
善悪を越えて、憎悪を乗り越えて、先の未来を掴みに行く千年史。
ぜひご堪能あれ。


Unnamed Memoryシリーズ

古宮九時著(KADOKAWA)
読者を熱狂させ続ける伝説的webノベル、ついに待望の書籍化!

「俺の望みはお前を妻にして、子を産んでもらうことだ」
「受け付けられません!」
 永い時を生き、絶大な力で災厄を呼ぶ異端――魔女。強国ファルサスの王太子・オスカーは、幼い頃に受けた『子孫を残せない呪い』を解呪するため、世界最強と名高い魔女・ティナーシャのもとを訪れる。“魔女の塔”の試練を乗り越えて契約者となったオスカーだが、彼が望んだのはティナーシャを妻として迎えることで……。

WEBで読んでいた口なので、気が付けば小説が刊行され、大人気になり、23年にはアニメ化もされるようで…と感慨深いです。
1-3巻までがACT1、4-6巻までがACT2、そしてその後の物語として現在2冊が刊行済み。
なぜこの本が「大河」なのかを語るとネタバレになりそうなので、勝手に進退窮まっていますが、本作はまだ続いているシリーズ、作者の容赦のなさが今後どう反映されるか戦々恐々です。

人魚の肉を食べたことで不老不死になってしまう八百比丘尼のお話は、昔話や下敷きにした多くの創作物で耳にしたことがあるかもしれません。
一定の長寿が約束された現代では、不老不死は魅力的な存在ではなく、死ねない呪いとしての側面がより強く人を引き付ける設定かと思いますが、本作でもそうした”時を越えていく”存在が現れます。
本編6作まで読んで、ぜひ人が人として背負い進まなければならない何かへ、思いを馳せてみてください。

と、スケールの大きな書き方をしましたが、本シリーズのもう一つの魅力は比翼連理たる主人公カップルです。こちらもぜひお楽しみに。


終わりに

いかがだったでしょうか?
一年かけて読んでいただいてもよいくらい密で量のある作品群を今回はご紹介してみました。
新たな年が始まり、この一年はどこへ流れていくのでしょうか。
未来から見れば、ある一地点でしかない今日を、精一杯生きようと感じられる、そんな思いを本を通じて共有出来たら嬉しいです。
今年もまた、よい本との出会いがありますように。願わくばその中に弊社の刊行物がありますように…!

ご紹介した作品は、すべてU-NEXTでも販売中していますので、ぜひご確認ください(以下はU-NEXTの作品詳細ページに遷移します)。


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