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コロナ3年目の映画界をまとめる(映連データを読み解く2023ver.)

U-NEXT映画部の林です。映連から映画概況データが発表されましたので、昨年に引き続き、この数字から気づいたことを書いていきます。


コロナ3年目、早くも2000億円台に回復

2022年の年間興収は3年ぶりに2000億円台に乗せ、前年比132%の2131億円でした。2020年からの塗炭の苦しみを思えば、この数字、まずは諸手を挙げて喜んでいいのではないでしょうか。何かとネガティブな物言いが好きな映画業界の一部の仲間たちは「もう映画館に人が戻ってくることはないだろう」「2000億規模まで失地回復するには、10年20年はかかるだろう」などと言っていましたが、この結果が出たら出たで「まぁ、アニメが強かったから、これくらいはいくよね」みたいなムードになっているから驚きです。

いやいや。実写だろうがアニメだろうが、まだコロナ禍の最中、お客さんがこれだけ映画館に足を運んでくれたのです。まずはそのことをちゃんと喜びましょう。

ちなみに、コロナ前の10年間(2010-19年)の平均は2163億円。その水準にまで戻ったということです。2022年も1月から3月まで、多くの都道府県でまん延防止等重点措置が実施されていました。その環境下での結果としては、本当に立派なものだと思います。

邦画は歴代2位、洋画は前年から倍増も…

洋邦で分けてみると、邦画の頑張りが目立ちます。『君の名は。』が公開された2016年の1486億円に肉薄する1465億円にまで到達し、歴代2位の好成績を上げました。

一方の洋画も、過去2年から倍増して665億円。5月に公開された『トップガン マーヴェリック』が、実写洋画歴代6位に食い込む135.7億円(※上映中)を上げ、市場を牽引しました。

ただし、コロナ直前の2019年と比べるとわずか56%に留まってしまいます。これには、以前最強を誇っていたディズニー配給作品の苦戦が響いており、2022年の同社作品としては21.6億円の『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』がトップ。2019年に『アナ雪2』『アラジン』『トイ・ストーリー4』がいずれも100億円を超えていたことを思えば、その影響は明白です。

実写邦画の苦戦が明らかに

一旦喜んだ後は、課題にも目を向けなければなりません。ヒット傾向の強烈な偏りは気になる点です。

10億円以上のヒット邦画の興収を実写/アニメ別に見ると、均等だった前年から大きくバランスが崩れて29:71に。アニメの圧倒的な強さに目を見張る結果となりました。冬は『劇場版 呪術廻戦 0』(21年12月公開/138.0億円)、春は『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(4月公開/97.8億円)、夏は『ONE PIECE FILM RED』(8月公開/197.0億円)秋は『すずめの戸締まり』(11月公開/131.5億円※公開中)と、各季節ごとに力強く牽引してくれる特大ヒットが生まれたのは、市場にとって大きな追い風でした。

もちろん、それ自体はポジティブなのですが、2022年の興行トピックのひとつに、実写邦画の苦戦が挙げられます。10億円を突破した実写邦画はわずか12本で、コロナ禍がより厳しい状況だった2020年(14本)、2021年(19本)を下回ってしまいました。

『キングダム2 遥かなる大地へ』      51.6億円
『シン・ウルトラマン』       44.0億円
『99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE』 30.1億円
『余命10年』            30.0億円
『沈黙のパレード』         30.0億円
『コンフィデンスマンJP 英雄編』   28.9億円
『あなたの番です 劇場版』      20.0億円
『映画「おそ松さん」』       16.7億円
『今夜、世界からこの恋が消えても』 15.3億円
『カラダ探し』           11.8億円
『HiGH&LOW THE WORST X』    11.4億円
『死刑にいたる病』         11.0億円

上記の通り、人気作の続編やTVドラマの映画版、若年層をターゲットとしたアイドル出演作品やジャンルムービーは一定の成績を上げましたが、映画オリジナルの企画やヒューマンドラマ系の作品は、軒並み厳しい結果に終わった印象があります。

ヒットの一極集中傾向、強まる

10億円以上のヒット作品が、全興収の何%を稼ぎ出しているのかを調べてみました。2000年以降の推移を見ると、そこまでのアップダウンはありません。2022年は71.9%でした。

続いて、全公開作の何%の作品が10億円を超えるのかを見てみましょう。こちらは大きく減少が続いており、2022年はわずか3.6%に留まります。にもかかわらず、それら作品群だけで全興収の71.9%を占めているわけです。

参考までに、10億円以上の作品の金額シェアを本数シェアで割ってみると、一極集中の度合いが強まっている事実が浮き彫りになります。

公開本数もコロナ前の水準に近づく

公開本数も興収同様、過去2年間の凹みから脱し、1143本とコロナ前の水準に近づきました。公開延期されていた作品群も、2022年までにある程度リリースされ、中でも邦画は634本と、2019年に次ぐ歴代2位の本数でした。

入場者数は前年から3719万人増えるも回復の途上

入場者数は前年比132.4%の1.52億人と大きく回復しましたが、今世紀に入ってからは2010年の1.35億人に続くワースト4の数字です。

スクリーンアベレージも大きく改善

過去十数年間上昇を続けてきた平均入場料金は1402円と、昨年から8円下がったものの高止まりの状況。前年に続いて、単価が低い高年齢層の鑑賞控えに加え、入場料金が高いIMAXやドルビーシネマなどでの集客が理由に挙げられます。配信によっていつでもどこでも容易に映画が観られるようになっただけに、映画館にはよりスペクタクルや非日常、イベント性、アトラクション性が求められているのかもしれません。

スクリーン数は3634と前年からほぼ変わらず。ということでスクリーンアベレージは前年から大きく改善し、1427万円増の5864万円に。最悪の状況からは脱しました。

レビュー評点とヒットの相関はさらに色濃く

日本を代表する映画レビューサイト「Filmarks」における評点とヒットの相関関係を調べてみました。下は興収10億円以上を記録した実写映画における平均評点の推移です。

Filmarksにおいては、5点満点中3.7点以上だと「ある程度安心して観られる良作」、4点以上だと「傑作」というイメージ(あくまで個人の感想です)

コスパに加えタイパがこれだけ重視されるようになった今、「映画館にまで足を運ぶなら、絶対に失敗したくない」という欲求はますます強くなっているように思います。これがまた、前述したヒットの一極集中傾向にも繋がっていると言えるでしょう。

ウィンドウ戦略の変革は続く

劇場公開から配信までの期間をどう設定するかというウィンドウ戦略をめぐっては、国内外の映画各社がベストパターンを探り当てるべく変革の最中ですが、特に洋画での変化が目立ちます。あくまでも下のグラフは興収10億円以上の大作が対象ですが、全体的にはこれ以上に配信タイミングは早まっています。

【まとめ】2023年も興収的にはきっと明るい

以上をまとめてみましょう。

▶コロナ禍中にもかかわらず興収2000億円台にまで回復
▶アニメ邦画の強さが際立つ
▶オリジナル企画の実写邦画は苦戦
▶ウインドウ戦略の中で揺れる洋画市場
▶さらに強まったヒットの一極集中傾向
▶タイパ重視→「絶対失敗したくない」ムード
▶映画館にはよりイベント性が求められている

この流れの中で展望するならば、興収的には2023年も手堅い1年になるでしょう。

まずアニメでは、今年のランキングに入ってくる『THE FIRST SLAM DUNK』が既に100億超え。コナンほかの定番映画シリーズや宮崎駿最新作『君たちはどう生きるか』、洋画からも『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が並び、死角はありません。

一方の実写も、邦画からは『東京リベンジャーズ』『キングダム』『翔んで埼玉』の続編や、TVドラマの劇場版、そして『シン・仮面ライダー』や是枝監督×坂元裕二がタッグを組んだ『怪物』等が控え、洋画からも『ワイルド・スピード』『インディ・ジョーンズ』『ミッション:インポッシブル』の最新作が並びます。

U-NEXTとしての【まとめ】

さて、「既に人気のあるメジャーなものを選びにいく」という世の中のムードはきっと今後も続いていくでしょう。そうした作品がヒットするのも当然喜ばしいことなのですが、一方で、そうではない作品をいかにサバイブさせるか、そして新たな人気作を生み出していくか。私たちは、ここにも真摯に向き合っていきたいと思っています。

(我々の思いは変わらないので、以下、昨年と同様のメッセージを…)

引き続きU-NEXTは、「映画を映画たらしめているのは映画館である」という信念の下、「いきなり見放題配信」ではなく、映画館と共存できるやり方を模索していきます。一部で行われている「いきなり見放題配信」が洋画全体の興収を大幅に引き下げてしまっているのは明らかです。

そして、今回扱ったのは興収10億円以上の映画だけ。本数にすると、10億円に満たない作品が96.4%を占めます。この多様性を保つお手伝いをすることこそまた、配信サービスに課せられている役割です。ここに今まで寄与してきたのは、日本独自に進化した、世界に誇るべきビデオレンタル店の文化です。我々はそのレンタル店の最終進化形でありたいという思いを常に抱きつつ、映画館と一緒になって、2023年の映画界を盛り上げていきたいと考えています。