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積んどくと、ぞくぞく

 本が好きだ。読書は好きではない。こんなことを書くと本好きには怒られそうだ。しかし、本の魅力というのは「読む」だけではないだろう。

 インターネットで興味深い情報を見つけた。買った本を読まないで積んでおくことを指す、「積ん読」という素晴らしい日本語があるが、この積ん読をしておくだけで特殊な電磁波を受けて脳を活性化させる効果があるというのだ。……これはもちろん冗談だと思うが、オンライン会議の相手の背景が立派な本棚なのを見ると、確かに積まれた本というのはその人の素晴らしい脳味噌を象徴してくれるものなのかもしれない。もっとも、よく見るとその背景はバーチャル背景だったけど。

 中国の昔の偉い学者は、本を集めただけではただの本屋で、なんの役にも立ちはしないと言った。しかし、積まれた本というのは仰々しく、見る者をぞくぞくとさせるものである。

 というわけで、私もときどき本がずらりと並んでいるのを無性に見たくなって神保町などを訪ねることがある。そこで気になる本があれば購入して、自室は小さな古本屋くらいになってきた。古本というのは良くない。少し気になれば買ってしまって、また自室の積ん読をうず高くしてしまう。いつだかまとめて買ったマルクス全集などは、たぶん一生読まない。

 積ん読は良いものだが、金をかけて買った本を読まないことには若干の罪悪感を伴う。これは私含め、読書はあまり好きではないが本は好き、というタイプの「愛書家」共通の悩みであるが、最近素晴らしい話を聞いた。多くの著書を持ち、個人蔵書も多い明治大学の齋藤孝先生は、購入した本の三割も読まないそうである。私は、たぶん三割は読んでいると思う。積ん読は、無理して読む必要はないのだ。

 最近では電子書籍も一般化してきた。どこでも読めて、またかさばらず、便利だと思う。しかし、やはり、紙の本なのだ。紙の本が並んでいるのを見ると、ぞくぞくする。出版不況とも言われる時代、今後紙の本は減っていくのだろうか。電子書籍を眺めてもぞくぞくしない。実にもったいないことだ。

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