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宇猫み植物館 #2 デロニクス・デカリー


(2022年 7月15日、背景は黒のほうが映えそうだが致し方ない)

【2022年 7月15日】 

 デロニクス・デカリー(Delonix decaryi)。珍しい植物である。ネットで調べても情報が少ない。私もこの子を購入するまでは知らなかった。購入経緯については後ほど……

 デロニクス・デカリーも一応、塊根植物に分類されるが、同じデロニクス属のデロニクス・プミラに比べれば塊根の形成は超ゆっくりで、コーデックス(塊根植物)ファンの中でもあまり普及はしていない印象。人気がない、と言ってもいいかもしれない。デロニクス属については以下のサイトが分かりやすい。

 ……マメ科じゃないんだ……(複雑だが、マメ科に入れる分類もある)。もう、そのレベルで驚きが多い。そんな知識のレベルでよく買ったな、と思われそうなので、そろそろこの木を間違って買った経緯を説明したいと思う。

《購入経緯とか》

 私はよく二子玉川のプロトリーフに行くのだが、そちらの店員さんとの会話の中で、週末の6月26日が「夏のサボテン多肉植物ビッグバザール(於 五反田TOCビル、国際多肉植物協会主催)」の開催日であるという情報を得た。
 そこで買われてしまってはプロトリーフさん的には売り上げが落ちるのだが、さすがはプロである。プロとはなりわいにしているという意味だが、豊富な知識を備えて目の前の人にふさわしい対応をするのもやはりプロなのだ。

 珍しい植物が好きな人なら、きっと誰もが知っている(と私は思っている)ビッグバザール。生産者直々の即売会で、店舗にまで回りきらない貴重な植物を比較的安く入手できるチャンスだ。是非行きたいと思い、猛暑の週末意気揚々五反田に向かい、すっからかんになった財布を見て意気消沈、でも良いものが手に入って気分上々で帰宅した。

 この木はそこで入手した一本である。たしか、3500円で譲っていただいた。生産者さんの説明によれば、国内実生4年くらいの株だったと記憶している。少し調べていただければ分かるが、3500円はかなり破格と言える。ただ、生産者さんの話を伺っていると、この金額である事情が少し見えてきた。

① まず、本当にデロニクス・デカリーかどうかが分からない

 国内実生であれば、種子は生産者であれ、基本的に個人輸入することになる。生産者さんは当然「デロニクス・デカリーの種」とされるものを撒いたわけだが、種子の段階ではそれが何の植物か、専門家でも判別が難しい。
 生産者さんもこの木について「正直、デロニクス・デカリーかどうか確信は持てない」とおっしゃった。確信を持てなくても、ビッグバザールでは品種名は明記しないといけない。そんな背景もあって値段は抑えめなのだろう。
 ただ、これは何についても言えることで、例えば高級店で買ったからと言って、確実に商品タグ通りの植物かどうかは分からない。植物を入手するならば前もってその事情は承知しておくべきだと思う。むしろその、育てて何になるのか分からない「ガチャガチャ感」も植物の楽しみの一つだ。

② 幹の太り方が不十分であること

 二つ目に生産者さんがおっしゃっていたのが、幹が思ったように太くなっていないことである。
 この木を見ると、ざっくりと主幹をカットした跡があり、横から刺し木パキラのように枝が伸びている。これは塊根植物らしく、幹を太くするために何度も切り戻した跡だというのだ。売れずに持ち帰ったらまた切り戻しをする、ともおっしゃっていた。
 この話を聞いて私は「ああ、デカリーにしては細い幹ですよね」なんて分かったようなことを言っていた。

(2022年 7月16日)

 「間違って買った」「ああ、デカリーにしては細い幹ですよね」で、察する人は察するだろう。

 私はこの木をオペルクリカリア・デカリーと勘違いして購入したのである。冷静になれば違いは分かるけど、あの会場の熱気(注: 空調はよく効いていました)にやられて正常な判断を失っていたのである。

 植物(動物もそうだが)は、名前が似ていたら近い植物というわけではない。
 例えば、ペペロミオイデスという植物はペペロミア+オイデスで、「オイデス」は似ている、という意味である。だから、ペペロミアとペペロミオイデスは真っ赤な他人。昆虫の「〜モドキ」に近いかもしれない。
 ちょっと小難しいので大泉洋で例えると、「オオイズミ・ヨウ」「オオイズミヨウ・オイデス」「オオイズミヨウモドキ」「ヒライズミ・セイ」は、名前は似てても全て別の生き物ということだ。

 ただ、名前が似ていてやはり近い植物というパターンもあるのが厄介だ。
 例えば、先述のオペルクリカリア・デカリーオペルクリカリア・パキプスはウルシ科オペルクリカリア属のよく似た植物同士である。「オペルクリカリア」は属名、ファミリーネームのようなものである。植物、というより生物は全て学門上 …科>属>種 のように分類する。オペルクリカリア・デカリーとオペルクリカリア・パキプスは種は違うが、属が一致するのでよく似ている、ということだ。

 しかしながら、オペルクリカリア・デカリーデロニクス・デカリーが似ているか、というとやはり大泉洋と平泉成くらい違う。
 「デカリー」というのはレイモンド・デカリー博士Raymond Decary)という人物に由来するネーミングで、ややこしいことにマダガスカルの植物には「〜デカリー」がたくさんいる。ほんとにたくさん。
 だから、「△△△・□□□」という植物と「△△△・〇〇〇」という植物は同じ属ならばよく似ていることが多いが、「△△△・□□□」と「×××・□□□」や「△△△・〇〇〇」と「■■■・〇〇〇」ではほとんど関連がないと考えて良い。
 あまりに小難しくてややこしいので上白石萌音で例えると、「カミシライシ・モネ」「カミシライシ・モカ」は似ているけれど、「カミシライシ・モネ」と「クロード・モネ」、「カミシライシ・モカ」と「ハシモト・モカ」は全く別の生き物ということだ。書いてて余計分からなくなった。

オペルクリカリア・デカリー

 ちなみに、オペルクリカリア・デカリーは上の写真のような植物。本当にデロニクス・デカリーとは大泉洋と平泉成くらい違うのが分かるだろう。

 ちなみに、デロニクス・デカリーはこんなに愛らしい花を咲かせるらしいホウオウボク(鳳凰木 Delonix regia)とは近縁であるため、鳳凰のような燃えるような赤い花を付ける鳳凰木に対して、中華圏(台湾限定?)では「白花鳳凰木」と呼ぶ人もいるようだ。調べても数件しかヒットしないし、中国では使用例すらなかったが、和名らしい和名もないので。これをシロバナホウオウボクとでも読んでおこうか。
 いつになるか分からないけれど、花が咲けばこの子の正体は分かるだろう。そうしたらエバーフレッシュでした、みたいなオチもあるかもしれない。ともかく、成長を見守ろう。

《管理とか》

 さて話の脱線が大きくなってしまったので、シロバナホウホウボク……デロニクス・デカリーの話に戻したいと思う。もうオペルクリカリア・デカリーの話はしないので、以降この記事では「デカリー」とさせてください。シロバナホウオウボクって呼ぶのも僕しかいないから。

 このデカリーは既に一度植え替えを行っている。土は100パーセント赤玉土に。とくに冬季は屋内管理に移行することを見越して、虫が発生しないように有機肥料等も含めていない。元肥としてマグァンプKを適当に混ぜ込んでいる。そして、基本的に雨晒し。特に遮光もしないで放置しているが、グングンと成長している。

 植え替えたばかりなのに、鉢底からひょろっともやしのようなものが伸びていて、もしやもう根鉢状態?と疑ったが、さすがにあれは偶然混ざった別の植物のものだろう。ただ、成長が早いのは事実だ。

(2022年 7月16日)

新芽は赤っぽい色をしている。これが次第に緑へと変わってゆくのだ。新芽の調子も極めて良い。日々変化するのでなかなかに飽きさせない植物である。

(2022年 7月15日)

 マメ科近縁らしく、就眠運動もする。古い芽から新しい芽までぐっすりで、なかなかに愛らしい。
 確かに幹の太りに期待する塊根植物としての魅力はイマイチかもしれないが、なかなかに魅力の多い植物だと思う。

 種から育てたという方もいるようだ。種からの成長は凄まじいから、また別の楽しみ方もできるだろう。

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