🐉衣装歴史学 其の一、坂本龍馬 六十三

六十三、

功山寺の反乱で藩の意志がほぼ統一した長州が所謂“第二次長州征討”へと進む。ほぼ滅亡覚悟、御家取り潰し、幕府にとって危険活動家も負けたら命はない。ただ負けない為の凡ゆる努力は為されていた。後から見る歴史ではなく、同時代性“コンタンポレーヌ”に歴史を見る。故に所謂“薩長同盟”は長州延命の四方八方、手に触れる物ならばなんでも、の中の一策として、そこに土佐の一団の地下活動が見え隠れ、徳川執行部から見れば土佐脱藩者の小さな一団の活動など目に入らなかっただろう。

しかし第二次長州征討の機、長州の執行部の活動のフレキシブルさは特筆物である。時間がある方はざっと長州側の兵力の数を見てみるといい、各部隊10から100の話にならない小兵隊の寄せ集めだ。そして数値的な物から目を離して文章による記録に関心を移せば、執行部内のガタガタさえなければ戦としては問題になり様がない“袋叩き”状態。

確認で留意点として、所謂“薩長同盟”はこの征討戦の後にオフィシャルに成立する。

桂は第一次期及び功山寺期は自国ではなく近隣各国に潜伏していた様子だ。これは恐らく歴史家ははっきり明示し得ないだろう。何処そこにいた、とは見受けられるが恐らく本国にも頻繁に出入りした筈で、“いた”というよりかは一時滞在の記録。まあ桂のみならず高杉、俊輔、各人北九州にいた長崎にいた九州全土を回っていた四国にいた、収集付けようがない。またの恐らくの邪推で本人達も自分が一体何処にいて何をする為に生きてるのか、判らぬままただ無我夢中で“生きていた”のでは？“青春”であるな。

晋作、俊輔の兄弟分は置いて、狂介・桂はちとニュアンスが違うだろう。“青春”では“生きて”いなかったかと。山縣などはこの時期のお膝元の実戦に於いてほぼ前線で指揮を採っている。桂は…

江戸川乱歩の有名な創作アイコン・フィギュール

『明智小五郎』

これは桂小五郎がモデル
こんな事は歴史好事家の方に付言説明する事、烏滸がましく、申し訳ない。

京都の政変・蛤御門の乱後、都内及び周辺に散った同志達を潜伏的に救命行動を採っていた、という。信じ難い勇気と腕力と知力だ。筆者個人的に晋作の方が好きだが、この責任感・使命感・正義感には遥かに桂に軍配が上がる。ほぼ少年マンガの主人公然、ど真ん中の正義感。それをフィクションではなく地でやっていたのだから。まあちょっと穿って、何とか残党を集めて本国に帰還させ幕府との戦いの兵力に当てる、との目論見もあっただろうが。

桂と中岡

故に、中岡慎太郎とは桂の表舞台登場・役職的躍進がなければ所謂“中岡慎太郎”にならなかった、と思うのだ。“故に”、の前が抜けている？では取り付けよう。三条実美と同輩公卿の都落ちに同伴していた中岡。そして純粋尊王攘夷思想の真木と共に戦っていた中岡。桂には“下”から見る視点も養われていた。

人の真の努力と本懐は、その人の背中を見ている人に、言葉ではなく直感で感知される。

その人を助けず、応援もせず、寧ろ反対に凡ゆる意地の悪い遮りをしようとも、そんな輩にすら、うっすらその努力と本懐は無意識下に映像として録られている。

薩長間の秘密裏の闇交易、藩内の動乱、土佐脱藩者側の頭目の近藤の自決、藩の執行部の交代・若手の躍進、その中で聞多もこの密貿易の件に掛ける比重が減ったか？聞多は聞多で七面六臂している。ここに誰かを当てて置かねば薩摩経由の武器が滞る恐れがある…

『中岡君！』

呼び掛けたその背中に、真木、来島、そして…
振り返ったその瞳に、儀助、そして…

“この土佐の男の魂には僕達の同志の魂が宿っている”

一石、公卿随伴から中岡を離したのは実質的に桂だろう。