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ロシアのゾンビ経済:なかなか崩壊しない理由

割引あり

戦争がはじまる前


戦争がはじまる前、プーチンは戦争を本当にはじめるということを、側近にも言わずにはじめてしまったと言われている。その根拠としてよく挙げられるのが、ロシアが海外の銀行に預けていた資産、特にキャッシュを全くロシア国内に戻していないこと。

もし本当に戦争を始めるなら、制裁で外国にある資産を凍結されることは、これまで何度も外国に侵略戦争をしてきたロシアなら、分かっているはずなのだが、外国の資産が全く動いていなかった。

アメリカをはじめ西側諸国の国々が、ウクライナの国境にロシア軍が本格侵攻のために兵や機材を動かしていても、2022年2月24日に侵攻を始めるまで戦争がはじまるとは思っていなかった最大の理由がこれだ。ロシアの資産家が持っている外国資産だけでなく、ロシアが国として持っている外国資産すらほとんど動かされていなかった。

プーチンと西側諸国の誤算

プーチンが周りに戦争を始めることを伝えず、充分に準備しないままウクライナに軍を本格侵攻させたのは、『特別軍事作戦』が数日中に目的をはたして完了すると思っていたから。西側諸国はこれまでロシアがチェチェン、ジョージア、シリアへ侵攻した際と同様に、多少制裁を行っても数ヶ月中に戦争を行っていることを忘れて「いつも通りのビジネス」に戻るものと思っていた節がある。

誤算をしたのは西側諸国も一緒だ。ロシア軍が侵攻を開始すると、数日中にキーウが陥落すると皆が思っていた。侵攻開始直後にアメリカがゼレンスキーにキーウからの脱出を助ける申し出をしたが、ゼレンスキーはキーウから脱出することを拒み、アメリカ大使館に「戦いはここで起きている。必要なのは弾丸であり、脱出手段ではない」(The fight is here; I need ammunition, not a ride)と言って脱出を拒んだ。

また西側諸国はソ連崩壊後に西側諸国との貿易で急成長を遂げてきたロシアが、経済制裁を加えれば反戦を訴える声がすぐ出て、ロシア軍が撤退すると思っていた。ところが皆が思っている以上にロシアは色々な意味で巨大で、苦境への耐性が強かった。

制裁とその結果

本格侵攻がはじまると、西側諸国はロシアに対してすぐに制裁を開始した。しかし抜け道は多く、ロシアはプロパガンダのためにも、まるで影響がないかのようにふるまい、物品は中国、トルコ、旧ソ連諸国を通して輸入され続けた。

プロパガンダのためのリブランド

国外製造してロシアに販売していたブランドも、ロシアの輸入業者が輸入して販売し続けた。輸入コストは高くなったものの、西側諸国がロシアに対して販売していないものについても、本格侵攻開始から1年以上経った時点でほとんどのものが売られ続けているのが確認されている。

ロシア国内で西側諸国の企業が生産していたものについても、多くの企業がロシア企業に工場を売却して撤退したが、ロシアはその工場で元の会社が製造していたものとほとんど変わらない製品を作り続けて販売を続けた。

コカ・コーラはクール・コーラ、ファンタはファンシー、スプライトはストリートにブランド名を変えて売り続けられた。

マクドナルドは黄金のアーチを下げて、テーマカラーをオレンジにしてモスバーガーのロゴをパクったようなフクースナ・イ・トーチカ(翻訳すると『単純に美味しい』)に代わった。

KFCはロスティックスに変わった。

ピザハットはピザHに変わった。

スターバックスはスターズ・コーヒーに変わった。

クリスピー・クリーム・ドーナッツはクランチー・ドリームになった。

ダンキン・ドーナッツはドーナットになった。

https://www.reddit.com/r/crappyoffbrands/comments/13613uk/russian_dunkin_donuts/

イケアはイケアと同様の商売をしていたベラルーシ企業スウェード・ハウスが引継きついだ。

スペインの衣料ブランドのザラの店舗はレバノン企業マーグが全て買い取り営業し続けている。

ここまで徹底して国内になくなったブランドを置き換えたのには理由がある。ロシア国民、特にモスクワやサンクトペテルブルクといった都市部に住むエリートたちに、戦争が起きていることを忘れさせるためだ。反戦運動を起こさせないためには、戦争が起きているということを忘れてしまえば良いというわけだ。

化石燃料の輸出

制裁によって最も影響を受けたのが、石油と天然ガスをはじめとする化石燃料の輸出だ。本格侵攻開始前、燃料を中心とするエネルギー関連製品がロシアの輸出の63%を占め、26%が原油、12%が天然ガスだった。

西側諸国はロシアに対し、2022年のウクライナ本格侵攻開始よりもさらに前の2014年のクリミアとドンバスの占領から、ロシアの燃料輸出に対する制裁措置を行ってきた。例えばアメリカはロシアのエネルギー産業の企業6社、EUは3社への投資や貸付を禁止している。2022年以降は、それに加えて制裁措置を段階的に増やしてきた。

石油に関して西側諸国は直接的にロシアからの輸入を規制するのではなく、ロシアの港から運ばれる石油輸送対する保険を規制した。EUはロシアからの石油輸送に対して保険を提供することを禁止し、海上輸送保険の世界最大シェアを誇るイギリスは、保険金額を釣り上げた。

本格侵攻前と比べ、ロシアから輸出される石油への保険料は61%上昇、船へ石油を積み込む作業に対する保険料は400%上昇した。それ以外にもロシアの石油を積んだタンカーが入港したり、運河施設を利用したりすることが高リスクになるため、各種コストが上昇し、スエズマックス(スエズ運河を通航可能な最大サイズ)タンカーでロシアの石油を運ぶコストが1回あたり約20万ドル上昇した。

EUとイギリスが直接的にロシアからの禁輸をしなかったのは、禁輸の場合EUとイギリスへの輸入しか規制できないのに対し、EUとイギリスの保険会社に依存している世界中の石油輸送に影響影響を与えられるからだ。

結果的にロシアは、保険料が上がったことに加えてロシアから石油を輸入しているということが知れ渡ると国内外から批判されるリスクのある国が多いため、輸出する石油の値段を上がったコスト分以上に下げざるを得なくなった。その結果、インド、中国、トルコは、ロシアからの輸入を大幅に増やし、それまでロシアから輸入していなかったパキスタンも輸入をしはじめた。

特に驚くのはOPEC+加盟国まで、自国の石油埋蔵量を減らさずに輸入したほうが安いため、輸入をはじめたということだ。例えば世界最大の石油産出国であるUAEは、2023年3月までに1500万バレルの輸入を行い、サウジアラビアは自国の火力発電所で使う石油のためにロシアの石油を輸入して2023年6月には1日あたり19万3000バレルを輸入している。

天然ガスに関してEUは、2023年までにパイプラインを通した輸入を1/3に減らすという措置をとった。EUはそのため風力、太陽光発電を増やし、ロシア以外の国からの液化天然ガスの輸入を増やして対応している。

ルーブル暴落防止

通貨の価値が下落すれば、インフレが起きるのは当たり前だが、それに加えてロシアは戦時経済に移行して工場を24時間稼働し続け、徴兵を行い始めた。

失業率は下がり続け、2022年には4%を切って、2023年に入る頃にはあからさまな人手不足が目立ち始め、2024年1月には3%を切った。通貨の価値が下落することによる物価上昇と同時に、国民が金を持つことによって起きる物価上昇が同時に進んでいる。前述したルーブル買い集めることによって抑え込んではいるものの、抑え込みきれずに物価は上昇し続けているというのが現状だ。

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