サイボーグニンジャシェリフ
あの夏の忌まわしき惨劇が10年がたち、無期限閉鎖されたバナナレイクキャンプ場跡は幾人かの人にたらいまわしされた後、最終的に食肉加工業を営むミハイル・スクリャービンなる男が土地の権利を購入した。ミハイルが所有したバナナレイクキャンプ場跡はリノベーションされスクリャービン家のプライベートリゾートとして、スクリャービン家の縁者や無軌道青年がレイヴなどの退廃的な享楽に日夜明け暮れていた。人目もつかない自然豊かな土地で退廃的行為をするにはうってつけの場所であったのだ。
とあるコテージの中では退廃的な生活を送っている無軌道青年2人がいた。
「このプライベートリゾートじゃドラッグもセックスも殺人も無制限で最高だぜ!」
「あぁ、スクリャービンの旦那があらゆる方面に献金して黙らせているかな、ここは治外法権のユートピアっていうわけだ」
無軌道青年2人がドラッグのやりすぎで焦点が合わない女子を侍らせながらアルコールを一気飲みする。ここはミハイル・スクリャービンが金の力で作った解放区、あらゆる行動が無制限である。現に隣の部屋ではハードコアSMプレイの音が漏れ聞こえている。あいつら、やることやっているなと無軌道青年は思った。
「なぁ、ヴィクター……オレたちもそろそろおっぱじめないか、今、拷問室が空室になってるから好きなだけ拷問ができるぜ」
「アンソニー、お前は本当に拷問が好きだな、オレは水責めプレイを楽しみたいぜ」
無軌道青年は危険な性のはけ口を満たすべく女を担ぎながら各々の場所に向かっていた。退廃的リゾートにふさわしく空は鉛色の雲に覆われていた。
「クソッ、忌々しい空だぜ」
アンソニーが吐き捨てる。
「どうしたアンソニー……空がどうかしたのか?」
「なんでも10年前の惨劇の日も空がこんな鉛色の雲に覆われてた日なんだってさ」
「あの殺人鬼はくたばっちまったから杞憂だろ……多分」
その時、アンソニーは何かを踏みバランスを崩し転倒した。ヴィクターは最初は木の枝か何かと思った。しかし、アンソニーが木の枝だと思ったのは人間の足の部分だった。二人は目を見合わせた。
「なんで人間の足の部分がこんなところに?」
その疑問の答えはすぐにわかった。無軌道大学生の死体がすぐそこに転がっていたからだ。
「あいつはトニー、なんで死んでいるんだ?」
疑問はそこそこにトニーの死体のほうに向かうアンソニーとヴィクター、トニーの死体のところに残り数メートルまでに近づいた、その時!
「ウワーッ!」
ヴィクターの悲鳴が響いた!ヴィクターは何者かに仕掛けられたトラップを踏み逆さづりになっていたのだ!
――何かがおかしい。アンソニーは思った。そして視界の隅で素早く動く謎の影が見えた。
「ギャーッ!」
それは一瞬の出来事だった。音速じみたスピードで飛来してきた手裏剣がアンソニーの眉間を貫いたのだ。あまりの早業でアンソニーは驚愕の表情を浮かべゆっくり後ろに倒れた。逆さづりのヴィクターは恐怖した。そしてそいつの姿を見た。黒い忍装束にシェリフのバッジ、覆面で隠れた瞳は機械の瞳! まさにサイボーグニンジャシェリフだ!
「アイエエエ!」
ヴィクターは情けない悲鳴を上げた。
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