【連載】神仙霊妖人 人妖争 0話

僕は気づくと毎日ここにいる。
毎日、家の屋根に登り、遠くを見る。
ここから地面までは10メートルくらいだが、景色は随分と違って見える。
草木が風に弄ばれ、烏や朱鷺が空を飛び交う。
遠くに見える里では、大人から子供までが楽しそうにしている。
その里の向こう側で何かが光った。
それが見えたときにはもう遅く、僕は倒れていた。
「始まる…」

***

今から700年ほど前、この世界中の文明は滅びた。
わけではないか。
滅びてはいないが、ほぼ壊滅状態になった。
原因は第三次世界大戦。世界核兵器大戦と言ったほうが無難かな。
一面焦土となった。草木は枯れ、地上に人間、ましては生物などいなくなった。
各国が核兵器を使い、勝ち負けはつかず、そのまま自然に終わった。
いや、形式上はまだ終わってないけど。

僕がその時代に生きていた訳でもないのに、鮮明に映る戦争の景色。
一面火の海、地上の建造物は溶け、空は煙が覆い尽くし、死の雨が降る。

***

「……ょ…ぶ…」
「だいじ…おぶ?」
「大丈夫?」
ゆっくりと目を開けると見慣れた顔があった。
「あ、うん。大丈夫」
「も~、全く、また屋根に登ったの?」
「ああ…」
僕は思い出した。
屋根から見えたものを。
「澪夜、外から…」
「は???」
全く、僕の親友 望月澪夜 は間抜けな顔をしている。
「外から…何かが、来た」
「え?外からって…結界はどうしたの?」
「わからない。でも、此の目で見た」
僕は徐に立ち上がり、襖を開けた。
「ほら、行くぞ」
「う、うん…」

外に出ると数名の妖怪たちが心配そうにしていた。
まあ、僕も妖怪似たいなやつだけど。
僕は彼らに微笑み、さっき光が見えた方向に歩き出した。

***

僕、天笠付喪は”二つのものの関係を操る”ことができる。
過去と現在・現在と未来・この世とあの世・こちら側と向こう側・現実と幻想、距離や長さ、考えや時間、空間までをも簡単に操る。
だから、さっき光が見えたところまですぐ行くこともできる。
それはしないけど。
此の力は僕の育ての親である天野叢雲がくれた。
叢雲さんは、付喪神で僕の家――の代わりの神社に祀られている。
確か、付喪神って神じゃなくて妖怪の範囲に入るらしいけど。
彼はもうその域を超えてる。

***

まさか…八雲の結界を超えて向こう側のものがこちらに来るとは…
文明とは恐ろしいものだ。
そんな話を澪夜としながら歩いていると、目的地にはすぐついた。

やはり、先客が沢山いた。
まあ、あれだけの光が出たからね。
「あ、付喪さんだ」
そこにいた人たちは僕を見るとさっと道を開けた。
僕はそんな人間だったかなぁ。
あ、僕は今、妖怪の範囲に入ってるのか。
「これ、何なんですかね?」
「まだわからない…でも、外の物には間違いない」
妖怪みたいな僕にもここの人たちは優しくしてくれる。ありがたいことだ。
「八雲を超えるとは元は相当大きかったのね…」
澪夜は誰に言うわけでもなく呟いた。

八雲、それはここの周りにある結界のことである。
『超えようとすると、多くの霧――遠くから見ると雲――に阻まれ、元いた場所に戻される』と言うところから来ているらしい。

「ゴリ押しで超えたか…」
僕も誰に言うわけでもなく呟いた。

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