現代サッカー用語辞典 ストーミング

今回はとても面倒なワード「ストーミング」
これは2018年にイギリス人ジャーナリストのサイモン・クーパーがリヴァプールのプレッシングをStormingと表現したものが広がったものである。

要は元々戦術用語でもなんでもなくて、ジャーナリストが「嵐のようだ!」とコメントしただけものではあるのだが…今ではポジショナルプレーと並ぶ戦術用語のような扱いを受けている。

で、このストーミングを行うチームが意図するところとは何かという話。
ここまでの項目で私は如何にフットボールとは判断力が要求されるものかという説明をしてきた。
これに対して逆のアプローチをドイツで始めた人間が複数人いる。その代表格がラルフ・ラングニックであり、件のユルゲン・クロップである。

つまるところ判断力を奪うというアプローチである。
特定の選手に速さと量の両面で過剰な負荷を掛けて判断を崩壊させる。
プラティニの「サッカーはミスのスポーツだ。誰もミスをしなければ0対0のままだろう。」という言葉はこのアプローチを確信を突いている。
狙ってミスを誘発させれば点は取れる。

この手法はしばしば大量点を生み出す。
劣勢であればあるほどミスの確率は上がる。
更に言えば自らのミスによる失点はそのプレイヤーの判断力を大きく奪っていく。

判断力がキモになっているバルセロナがここ数年しばしば大敗でCLを去っていく原因の1つはここだろう。
或いは衝撃的だったミネイロンでブラジルのボランチがポジショニングのエラーを繰り返した理由もそうだ。

ミスを誘発するメカニズムとそこから仕留めるまでのルートが確率されているかどうかが重要になる。プレスの空振りや決定機の逸失を続ければあっという間に消耗してしまう。
それでは格上に走力で対抗しようとする格下のフットボールに過ぎない。
リヴァプールにはサラーマネフィルミーノがいる。
バイエルンにはレヴァンドフスキやミュラーがいる。
いずれも決定的な選手達だ。

クロップはゲーゲンプレスを最も直接的にスコアに関与できる手法だと述べている。
最終ラインがミスを犯せば失点するというフットボールの原則に則ったものである。

近距離の複数人がボールホルダーに同時にプレスを掛けつつもう1つ外にいる味方がパスコースを潰す。
これはある種ボールを基準にした非保持時のポジショナルプレーなのではとも思うのだが…。
ピッチを基準にした位置的優位とボールを基準にした位置的優位。この境界はボールホルダーの判断力次第のように感じる。

ラングニックにしろクロップにしろロジャー・シュミットにしろ彼らの手法はボールが基準であり。それ故に動き回るボールに対して速度が要求されている。

いずれにしても準備をした上での嵐のような能動的な守備によってリヴァプールもバイエルンも欧州を制した。
無論彼らがボールの保有時に崩せないわけではないが、ボールを持ってる相手を崩すことができるのであればより効率的というのは1つの真理だろう。
ドイツ発のBlitzkrieg的な戦術というのは如何にもな気もする。
いずれも両サイドに優秀な後方支援があるというのもポイントかもしれない。

現代サッカーを図解で説明するには選手の配置ではなくベクトルが必要ではないかと思う。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?