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わたしは一体ここで何をやってんだろ

マルセイユはお盆になっとたん涼しくなり
夏中うるさいぐらい賑やかだった階下のカフェの人々の声も
本当に最近は静かになってさみしいぐらい。

寝ると体が沈んでしまうほど
くたびれたベッドのマットレスに横たわり
「わたしは一体ここで何をやってんだろ」と
しみじみと思う。

なんで頑張っても、がんばっても
可愛いインテリアに仕上がらない
この町最古の地域の趣もなにもない
ごきぶりアパートにいるんだろう。

3年前にさかのぼれば
わたしは東京の六本木ヒルズで
優秀な人々たちととデスクを並べ働き
カオスとは無縁の生活をしていた。
4LDKの自宅に帰れば
わたしは自分が集めた
お気に入りの物たちに囲まれていた。
そう、日本は快適と安全の国。

唯一変わらないのは
そばには13年前にショッピングモールで出会った
売れ残りのアメショのオッカが
そばにいてくれる事と
そして彼の愛だ!。
ありがとうオッカ、
感謝しかないよ。

フランスにはずっと住んでみたかったけど
たった五ヶ月の準備期間で
猫と移住してしまうとは
このわたしでさえ予想していなかった。

2019年、わたしは離婚して
オーバーローンの自宅売り切り
都内で2回の引っ越しをし
学生ビザをとり
猫のための各種の書類を準備し
いくつもの「お別れ会」を友人にしてもらい
コロナがニュースになりはじめた暮れに
滑り込みでフランスにもぐりこんだ。

わたしは今62才。
今年のはじめから前倒しで
日本政府から年金をもらいはじめた
年金初心者でもある。
毎回振り込みがあるたびに
不労働収入に小さな罪悪感を感じてしまう。

ぶどう畑、オリーブの木、ラベンダーの広がる景色を
夢見ていたのに。

夢見みていたのに。

古くて荒廃した建物、
物乞いをする人々、
溢れ出でているごみ、
粉々に壊されたビール瓶ひろがる通学路、
そして極め付けなのは
どこからか匂うおしっこのにおい。
マルセイユの香り。

わたしはいったいここで何やってんだー!

これは、#アラカン、#フランス移住、 #はじめての年金生活#猫とプロヴァンス などおいしいハッシュタッグがならぶ世にも珍しい物語です。

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