見出し画像

【前世の記憶】先住民インディアンへの迫害を後悔する息子

アメリカ、アーカンソー州。人口800人ほどの小さい村で暮らすダネットとクレイグには5人の子供がいる。唯一の男の子が末っ子のケンである。

7週間半早く生まれたケンは、悲鳴をあげて泣きつづけた。両親はあらゆる手段を試したが、ケンをまとまった時間眠らせることはできない。医者からは夜驚症だと診断される。極端なレベルの夜驚症なのだと。

ケンは起きると悲鳴をあげて泣き出し、手足をバタバタさせた。そのうち家中を走り回るようになる。母親失格だと感じていたダネットは、そんな息子を見ながら何度夜中に涙したことか。

ケンに何が怖いのかと聞くと、「怖すぎる」と答えるだけで目を背けた。

5歳のケンは言う。

「僕は悪夢を見るんだ。窓の外から覗き込んでる目があって、炎の中で燃えてるんだ。」

子供が怪我をしたり心配事があったりすれば、それを癒すのが親の役割だとダネットは思っていた。しかし今回はどうしてあげることもできない。

ケンには自分の部屋があったが、成長するにつれ、唯一その恐怖を緩和できるとしたら、両親と一緒に寝ることだった。

ダネットは子供たちが寝る時それぞれに" I love you." と言い、子供たちは決まって "I love you, Mommy." と返す。しかしケンからは 一度も"I love you, Mommy."と返ってきた試しはない。彼は"I love you."とだけ返すだけだった。

ある日何故 "I love you, Mommy." と言わないのかと聞いてみると、ケンは答える。

「だってママは僕のママじゃなかったから。今は僕のママだけど。」

彼にはもう1人の母親の記憶があったのだ。

ケンが5歳になり、家族旅行に行った時のこと。目的地の天然橋に着くと閉鎖されていた。そのまま運転を続け探索することにした家族は、ある場所を見つける。

車を降りて歩き出すとすぐにケンの様子が変化し、暗い表情と悲しみに変わった。普段とは全く様子が違っている。彼は家族からはるかに離れた後ろの方にいて、ダネットが引き返したほど。手をつないで小道を歩くと、彼は外に居たくないと泣いた。

ケンは、朝起きるとすぐに外に出て遊ぶようなアウトドア好きの子である。森の中を歩くのが好きな息子の変化に両親は戸惑う。普段なら彼が大喜びするような場所なのだ。

ケンは何かが燃えている匂いがすると言う。アーカンソー州では屋外での焚き火は禁止のため、山火事のリスクはかなり少ないことを説明した。

家族は車に戻る。ケンは制御不可の状態で泣いていた。今まで一度もこんなことはなかった。何故泣いているのか聞く両親に彼は答え始める。

ケンが言うには、彼はかつて軍人で、軍の命令には絶対服従だった。先住民のネイティブアメリカン達は、小さな土地への移動を強いられていた。彼らの形跡を全て燃やすように命じられたケンは、全員殺すことを余儀なくされる。彼らは炎の中で死んでいった。

ケンは自身が行ったことに対して非常に憤りを感じていた。

ネイティブアメリカンの酋長は惨事をとても悲しみ、ケンに対して憎悪の念を抱いていた。ケンは酋長を撃つよう命令される。そこで彼の腕を打つが、さらに「撃ち続けろ」との命令に従い、頭部を撃ったのだと言う。

5歳の息子がなぜ人を殺す話をしているのか。両親は困惑する。

その後もケンは炎の中で命を落とした人達のことを繰り返し話した。泣かずに話し終えることはできなかった。ケンは決してこんなふうに感情的になるような子ではない。彼の恐怖と悲しみは本物だった。

ダネットはこの件と悪夢の件は何か関連があるのではないかと考える。

家族旅行から帰ったケンは倒れるかのようにベッドに横たわった。まるで1日中重労働でもしたかのように。ケンが夜通し寝たのは、後にも先にもこの日だけ。ずっと溜め込んでいたものを吐き出して安堵したかのようだった。

息子に何が起っているのか知りたかったダネットは、地名などの思いつくキーワードで調べるが何も出てこない。そこで家族旅行で行った場所から近いTrail of Tearsで検索してみる。

Trail of Tears(涙の道)とは、1838年にネイティブアメリカンのチェロキー族を、後にオクラホマ州となる地域のインディアン居留地に強制移動させたときのことをいう。「涙の道」という言葉は同じように移動させられた他の種族が体験したときにも使われた。

どの「涙の道」もアーカンソー州を通過していることから、家族旅行で行った場所はネイティブアメリカンの埋葬地だったのかもしれないと考えた。ケンは軍人で、アーカンソー州でも内戦があったと言っていたことから、それが関係しているかもしれないと。

ケンは自分の名前はキットだと言った。ダネットが「あなたの名前はケンよ」と訂正しても、「ノー、僕の名前はキットだよ」と言う。かつて聞いたことの名前だったが、調べ続けているうちにある事実にたどり着く。そして息子の記憶が本物だったことに衝撃を受ける。

ダネットはある軍人の記事に行き着いた。彼の名はキット・カーソン。ケンも自分の名前はキットだと主張していた。

「なんてこと、なんてことなの!」

ダネットは叫んでいた。

キット・カーソンという人物のことは一度も聞いたことはない。息子ももちろん知らないだろう。学校で学ぶようなことではないからだ。

キット・カーソンは、1800年代に荒野のエキスパートだった探検家で、西武開拓者として知られている人物。太平洋までの西部交易路を地図にしたジョン・C・フレモント探検隊のガイドをして英雄となる。彼はアウトドア好きの冒険家、偵察兵、罠猟師でもあった。

ケンもアウトドア好きで、キット・カーソンは開拓者。キット・カーソンは軍人でもあり米墨戦争と南北戦争でも戦った。

キット・カーソンは軍から、許し難いほどの残忍なことをするよう強制される。彼は、ナバホ族を住んでいた土地から荒野へと強制移動させる責任者だった。だが広大な地に隠れる者達もいたため、軍の命令に従い、ナバホ族が住んでいたキャンプを住居ごと燃やしてしまう。炎の中で命を落とす者もいれば、撃たれる者もいた。

ナバホ族には独自の「涙の道」があり、Long Walkと呼ばれる。Long Walkは実際にはアーカンソー州ではなく、ニューメキシコ州で起こっている。「涙の道」から数十年経った1864年、アメリカ政府はナバホ族を強制的に移動させたのだ。

ケンが言っていたことの全てがLong Walkと一致していた。キット・カーソンは、自分がこれまでやってきたことや強制的にさせられたことと、正義感の間で激しく葛藤する。彼は自分の行動が間違っていると自覚していた。かつ、彼は先住民の女性と結婚していたのだ。

ダネットは、ケンが家族旅行で燃えている匂いがすると言ったことと、ナバホ族を燃やしたこととの繋がりを感じる。

5歳のケンは言う。

「炎の中で人が燃えてるのを見たんだ。多分10人くらい、それか13人くらい。100人だったかも。結構大きく積み重なってた。」

バラバラのパズルが一つになりかけていた。これが一致しないなんてあり得ないとダネットは感じていた。

家族旅行から帰ってきた日は一晩中眠ったケンだったが、翌日から彼の悪夢は再開してしまう。クレイグも父としてなんとかしてあげたいと思っていたが、何もできないでいた。ダネットから、ケンが話していたことは真実だったと言われても、にわかには信じ難い。

「そんなこと一切信じられない。自分で体験しない限りね。でも一方で、息子に何かが起こっていたことも理解してた。」

ダネットはケンに、キット・カーソンと言う名前に心当たりはあるかと聞くと、

「うん、それ僕だよ」

と言う。

それを聞いたダネットは、少しだけ安心した。彼の話の手がかりがつかめて、どこから調べるべきか分かったのだから。

ケンは命令されたと言っていたが、罪悪感を感じていることに変わりはない。彼は傷心していた。軍人だったと言うが、ネイティブアメリカン側の立場から見ているように感じられた。

ケンは前世で自分が行なったことへの激しい罪悪感を表現する。キット・カーソンも同じく極端に後悔していた。

ケンの悪夢は続き、何かと葛藤している様だった。ダネットは息子に現在はケンであり、過去にこだわるべきではないことを理解してほしいと思っていた。

いろいろ調べた結果、彼の感情が崩壊した場所での儀式が良い方法だという結論に至る。そこで許しを求め、彼らが経験したことに対し悲しみの気持ちを捧げようと。

両親とケンは家族旅行で訪れた地を再び訪れる。彼がキット・カーソンの話をした場所である。そこで許しを請い、キット・カーソンにさよならを言ってほしいと両親は思っていた。

ダネットにはセージに火をつけるのが効果的だと教えてくれた師匠がいた。負のエネルギーを浄化し気持ちが解放されるので、そこで祈りを捧げるのが良い方法だと。

ケンと両親はセージに火をつける。

「私たちはキット・カーソンが行ったことに対して申し訳なく思っています。でも私達はキット・カーソンとフォー・シーズにさよならを言わなくてはいけません。僕が先に進んで素晴らしいことができるように。」

ダネットの後にケンが復唱する。

儀式の後、ダネットはケンが過去のことを忘れて、前向きに生きていく希望的な空気を感じていた。

実際、その後ケンの悪夢は治まってきたと言う。キット・カーソンのことも、炎の中で燃えたことも話すこともなくなった。

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?