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【前世の記憶】侍の過去が起こした奇跡

アメリカ、フロリダ州マイアミ。キューバ出身のリズは、マイアミに住む夢が叶い、夫ウイリアムとの間に第一子も授かり、幸せを感じていた。

生まれてきたパウロは静かな赤ちゃんだったが、夜ベビーベッドで1人で寝ることを嫌がり、常に両親のどちらかと一緒に寝ていた。

最初はまだ母親から離れたくないのだろうと思っていたが、成長するにつれその違和感に気が付く。電気を消すと狂ったように泣き、母親の服をつかんで電気をつけるように懇願するのだ。

パウロは夜通し眠ることは一度もなかった。それでも、成長すれば変わるのでは?とリズは思っていた。

2歳半になるとパウロは、不安で落ち着かず常に怒っているように見えた。両親は専門家のヘルプを求めるが、パウロの怒りは変わらない。怒りでじっとしていられずに常に動いていた。

両親は当然パウロを愛していたが、息子の中に感じる黒い怒りには正直、恐怖も感じていた。

その姿はまるで、自分自身を追い込み、常に戦いをしているようにも見えた。成長における一面かとも思ったが、今度は新たな変化に気づく。

パウロは日本について話し始め、話すことの全てが日本と刀についてだった。「僕は刀が好き」と言うが、驚いたのは「カタナ」という日本語を知っていたことである。

両親は日本の話をしたことはない。が、パウロは日本について全てを知っているかのようだった。刀の種類についても全て把握していたのである。

紙や段ボールで刀を作ると、パウロは常に刀で戦っていた。

「僕は戦士なんだ。名誉のために戦う。」

パウロは、死に対して異常な執着も見せた。

父、ウィリアムは、息子の日本に対する執着がどこからくるのか分からなかったが、無害なものと受け止めていた。

パウロが4歳の頃、ある日突然こんなことを口にする。

「パパが僕のパパじゃなくて、ママが僕のママじゃなかった時、日本に住んでたんだ。傷つかないでね。違う両親で日本人なんだ。違う国に住んでたの。僕が嘘ついてると思わないで。」

日本で侍だった頃は、妻と息子がいたと言う。

混乱するリズにウィリアムは、テレビの見過ぎだろうと言った。

これも成長の一環だろう、そのうちに忘れるだろうと思ったものの、パウロはさらに日本について多く語るようになっていく。

日本の花などはじめ日本文化にのめり込み、前世は京都に住んでいたと言う。

パウロは違う両親がいたことに繰り返し触れ、前世では大人で、いくつもの戦いを経験していると言う。まるで目の前に全てが見えているかのようだった。

さらに、花の香りを感じる、風が顔に触れるのを感じるということもあった。戦いの中で人々が唱えている声も聞こえると言う。

自分の息子でありながら、パウロが2つの人生を生きているようにリズは感じていた。

ある日パウロは、死んだ時のことを思い出したと言う。彼は部隊を率いる戦士だったが、戦場で皆死んでしまい真っ暗な場所にいる。何かダークなものを感じ、何かに包まれているように感じた。そして倒れて死んだ。

星も月もなく、周囲は真っ暗な場所で、誰もいないと感じ、孤独の中死んでいったと言う。

それを聞いたリズは胸が張り裂ける思いだった。前世の記憶なのかもしれないと考えるようになったのはこの時だ。

ウィリアムはその話を聞き、身震いがした。妻からは常々「パウロに話をさせてあげて。表現させてあげて。どうなるか様子を見てみましょう。」と言われていたが、彼には限界だった。カトリック教徒として育った彼は、生まれ変わりを信じない。前世という概念の中に入り込みたくなかったのだ。

反対にリズは、息子が前世を覚えているのならその原因を知りたいと思っていた。何故普通の人が覚えていないことを彼が覚えているのか。しかしそれは彼らの生活を引き裂くかもしれないことも意味していた。それほどウィリアムにとっては、タブーな話題だったのだ。

パウロが5歳になると、体重が減少していく。常に疲れていて、何も食べられないのだ。体のいたる所にアザがあり、歯茎や鼻からの出血も度々ある。呼吸にも違和感があり、体は蒼白かった。

おかしいと感じた両親が病院へ連れて行くと、白血病だと告げられる。その瞬間リズは、時間が止まったように感じた。何も聞こえず見えず、動くことができない。ただただ息子を抱きしめた。「この子を失いたくない!」

ウィリアムも、そのときの気持ちを表現する言葉は見つからないと言う。

リズはパウロに「あなたは癌というとても悪い病気に冒されているの」と告げた。彼は何も言わなかった。家に帰るとパウロはバスルームに行ってくるといい、30分以上こもっていた。そしてバスルームから出てくると言った。

何か黒いものを見たんだ。ライトみたいに明るいものも見た。明るい存在は天使だよ。黒い存在が僕に「パウロ一緒に行こう。もう苦しまなくていいよ。すぐに終わる。」と言ったんだ。でも明るい存在が、着いて行っちゃダメだって言うの。「僕たちは戦うんだ。とても長い戦いになるけど僕たちは勝つ。そして君は生きる。」だから僕は明るい存在について行くことに決めたんだ。僕は刀を持って癌と戦う。だって戦士だから。

そう言ってパウロは刀を取り、背中に刺した。眠る時も刀を背中に刺したままだった。

医者たちは皆、パウロが日本の侍ということを知っていた。化学療法でパウロが病院に行くと、

「こんにちは、戦士。今日は化学療法ですか?」

と医者たちが言い、

「そうだ。今日は刀を持って癌と戦いに来た。だから化学療法を出してくれ。」

とパウロが答えた。

リズは息子を誇りに思った。

両親が癌細胞を描いて見せるとパウロは、その横に刀を持った侍を描き、癌細胞と闘っている様子を描いた。

「こうやって僕は刀で病気をやっつけてるんだよ」とパウロが見せる。

その時点でリズは、前世の侍が力を貸してくれているのだと確信した。

しかしある日、パウロの容態が非常に悪く、ICUに移ることを知らされる。理由を聞くと、死ぬ可能性があると。

リズは、パウロが死んでしまうかもしれないと怯えた。しかし、4年半の人生を日本の侍として生きてきたことが助けになると信じた。

ICUでは持ち堪えたものの、今度は肝臓が全く機能しなくなる。肺にはたくさんの水が溜まり、菌が繁殖し、彼の体は無反応だった。

パウロは昏睡状態で、目を開けることはできなかった。医者からは、あとは時間の問題で、パウロが死んでしまうことを告げられる。リズはこの時初めて、息子を失うのだと思った。

ウィリアムも泣き始めた。父親として常に希望を持ってきたが、あまりにも多くの子どもが死んでいくのも見てきた。

しかしその5日後、パウロは突然目を覚ますと、言った。

「パパ、泣かないで。子供は天使で、天使は神様と話すでしょ。神様に僕は死なないって言われたの。大きくなって孫息子ができた時に死ぬんだって。」

ウィリアムが神様と話したのか聞くと、パウロはただ笑みを浮かべて再び眠り始めた。

その10分後、彼の体は反応し始める。医者が来て、ウィリアムに大きなハグをすると言った。

「もう心配しないで。彼は乗り越えますよ。」

幸せ以上の何かを体で感じた気がした。奇跡以外の何物でもない。

リズは今でもその奇跡は、パウロの侍の前世によって救われたと信じている。

前世の記憶を信じようとしなかったウィリアムだが、今では、パウロの前世は日本の侍だったのだと確信している。日本の文化を知りすぎていることについても、説明がつかない。

癌が寛解して数年後、リズは癌の再発はないと確信する。信念や強さの証明となった克服体験は、家族を強く成長させた。

パウロはあらゆる側面で変化した。彼が抱えていた怒りはなくなり、穏やかな少年になっていた。

しかしひとつだけ、前世からの恐れを抱えている。それは暗がりへの恐怖だ。両親は、パウロが癌に打ち勝ったように、暗がりへの恐怖に打ち勝つ方法を探したいと思っていた。

パウロは13歳になっていた。

「僕は前世では侍で将軍だった。日本では幸せな生活を送っていたんだ。ある日戦場に行って自分の部隊が全滅するまでは。そこでどこから来たのか、突然黒い煙に覆われて死んだんだ。それが暗がりへの恐怖に関係してると思う。前世では暗闇で死んだけど、癌で死んだ記憶はない。だから暗がりの恐怖よりも癌を打ち負かせる可能性の方が高いと感じた。今度は暗がりに対する恐怖を取り払いたい。」

パウロは日本の武術である剣道に触れ、恐怖の克服を試みることにする。家族はマイアミにある道場を訪れた。

「前世の先生が侍になるための訓練をしてくれたおかげで、現世では癌に打ち勝った。この先生が恐怖を克服する方法を教えてくれることを期待している。」

先生にどうやって癌に打ち勝ったのかと聞かれるとパウロは、

「戦ったんです。僕は生きる、ここで諦めない!と自分に宣言したんです。」と答えた。

それを聞いた先生は、それと同じ手法を暗がりを打倒するために使わなきゃいけない、と言う。

長い道のりになるが、必ず克服できる、と先生が言うと、パウルは自身ありげに、はい、と答えた。

「日本では、伝統は心なりと言う。刀を学びたいならその心から学ぶことだ。」

さらに実際の剣道を用いて、

「常に前に進むこと、決して後ろに下がらない、これは人生においても同じだ。恐怖を相手と考えるんだ。絶対に譲らないという気持ちで。」

とも教わった。

剣道に初めて触れたパウロは、

「これはすごい。大人になった時、幸せな自分になっているのが分かる。本物の刀じゃないかもしれないけど、心にある精神的な刀で戦うんだ。」

と感想を述べた。

先生からは、まずは両親と違うベットで1時間寝てみるというふうに、小さなステップから試すことを勧められる。

「今夜はまず小さなステップから試してみる。僕は勝つ。癌を克服した時みたいに。」

リズには、パウロが嬉しそうで、確信を持っているのが伝わってきた。息子が克服するという確信を持つ、それは両親にとって全てだった。

パウロは剣道を習いはじめ、暗がりへの恐怖の克服し始めた。


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