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【前世の記憶】911同時多発テロで死んだ瞬間を語る息子

高層ビル

アメリカ・フロリダ州の郊外に住むモリーとリックは、幼なじみのカップルだ。子供を持てないだろうと言われていた夫婦にとって、息子ケイドは嬉しいサプライズだった。

ケイドはよく眠る静かな赤ちゃんだったが、何か言いたげに人の顔を覗き込むようような様子は、年配の人のように感じられた。ケイドは、ハイハイも歩くのもおしゃべりも早かった。2歳になるころには知的な言葉を使い、大人と話しているかのようだった。

3歳になると、どういうわけか死んだ時の記憶を語り始める。同時に、夜中に悪夢で目覚めるようにもなる。自由の女神が見える高層ビルのオフィスで働いていて、そこから転落すると泣き叫ぶのだ。粉々に骨折した自分の足についても描写した。

ケイドの描く絵には、2つの高層ビルに稲妻が走り、男性が転落している。モリーは、3歳児がNYや死について語るのはおかしいと感じていたが、同時にそれは911を連想させた。そう、あのアメリカ同時多発テロ事件である。

一瞬、息子はワールドトレードセンターに行ったことがあったかという考えが頭を横切るが、そんな経験はない。記憶もあるはずない。ケイドはNYにも行ったことなければ、家族に911の被害者もいないのだ。結局、単に息子のイマジネーションは鮮明なのだという考えに落ち着いた。

母親として、幼い息子が死について語ることを心配したが、ケイドは、僕たちは死なない、と言う。さらに、自分はママより年上だったけど、自分でママを選んで生まれてきたから死なない、と念を押すように言った。

飛行機

ケイドの高層ビルから転落する夢は、ドラマチックで壮絶な様子だった。しばらくすると、ケイドは飛行機に関心を寄せるようになる。興味があるというよりも執着と言った方がいいだろう。

最初は飛行機を見ると、まるで悪魔を見ているかのように固まっていた。飛行機が空を飛んでいるのを怖がっているというより、それがどこへ向かっているのかが気になるようだ。街中では車の外に出ようとせず、歩こうともしない。飛行機が街中を通過したことを確認するまでは。

7歳になってもケイドは、高層ビルを嫌がり、近くに寄るのも見上げるのも嫌がっていた。

「あの高くて光っているビルはツインタワーみたいで、いろんなことを思い出す。あそこには行きたくない。」

モリーは、これまで息子が個性的なのだと思おうとしたが、過去に何かとても悪いことが起こったに違いない、という考えを否定できない状況になっていた。

転落の瞬間

ケイドの悪夢はだんだん増えていき、より具体化していった。モリーは初めて息子から、高層ビルの下に転落したことを告げられた時のことを鮮明に覚えている。

何かがビルを突撃した後、爆発し、彼は転落した。地面に叩きつけられる自分自身を上から見ていたが、脳が飛び散り瓦礫に包まれた。

モリーは自分の母親と一緒に泣いた。この人物はあの時にワールドトレードセンターに居たのだと。

7歳のケイドは語った。

「飛行機はビルに突っ込んだ後、ビルにはまってた。転落した時、僕はまだ生きてたんだ。でも瓦礫に打ち当たって何も感じなくなった。その時死んだから。」

モリーは、1人の男性が過去にこのようなことを経験したというより、息子が経験したこととして捉え、悲しい気持ちでいた。この記憶をなくすにはどうしたらいいのか。母親としてどうやって対処したらいいのか分からない。

ケイドは名前を変えたいと言い出した。今の名前が好きではなく、自分の名前ではないと主張した。ケイドの前世の名前は、健在されている被害者家族の保護のため、あえて明かしていない。

前世の男性

モリーはケイドに起きていることをインターネットのフォーラムに投稿し、何らかの答えを得ようとした。するとある別の母親が、911の被害者でワールドレードセンターで働いていた1人の男性の情報を送ってくれた。それはケイドが描写する男性の人生、そして最後の瞬間とマッチしていた。

モリーはショックを受ける。周囲にそのことを告げ、その男性の死亡記事と写真を集めた。だが、被害者家族に連絡を取ることは考えなかった。911のことに触れることで家族の癒しを妨げたくないし、第一何と言えばよいのか。

「息子さんは死んでいません、彼は別人になって生まれ変わっています。」とでも?

自分がそんな連絡を受けたら、電話を切るだろう。

リサーチの結果、ケイドの描く男性がどんな人だったのか把握する。

夫婦は7年間のケイドの人生をなくしたように感じていた。育て方が分からない。近所には、自分の子供をケイドと遊ばせたがらない人もいる。

ケイドが自分の前世のことを友達に話すと、嘘つきと呼ばれ、他の生徒たちに影響を与えるため、先生にも好かれていなかった。胸が潰れる思いだった。両親は息子に子供らしい生活をさせたかった。

ケイドは感情面において専門家のサポートを受けはじめる。が、その過程において、NYを訪れ区切りをつけることが必要に思われた。

NYへの旅

3年後、ケイドは10歳になっていた。家族はNYへ行くことを決意する。モリーはこの旅でケイドが、前世の自分を手放し、子供らしさを取り戻すことを望んでいた。

ケイド自身も、「前世の自分を解放したい。この状態はあまりにも残忍だから。この旅は自分にとってすごく重要だから行く。飛行機が怖くても。」と言った。これまでの経験を克服して、ケイド自身になる時が来た、と飛行機の中で恐怖に耐える息子をモリーはしっかり抱きしめる。

この旅では、テレビ番組のプロデューサーが、前世の友達のベンと会えるよう手配してくれていた。両親は、ケイドが聞きたいことへの答えを得て、接点を見つけられるか知りたい、と期待をする。

ベンは、自分も子を持つ親として、両親の気持ちを理解していた。

ケイドにはたくさんの質問があった。ベンに会うとケイドは語り出す。

「あの日僕は、サテライトかテレビを修理することになっていた。ケーブルだったかもしれない。」

「そう。君はワールドトレードセンターでスタジオのカメラやビデオテープの機械を修理していた。職場に通ったのは覚えてる?」

とベンが聞いた。

「歩きか自転車で通ってた。車で通勤しなくていいように、職場からそう遠くない所に住んでたのを覚えてる。職場まで数ブロックだったはず。」

ケイドの答えに、その通りだとベンは答えた。

モリーがそうなの?と聞くと、ベンは、

「何か職場で問題があった時の駆け込み寺的な存在だった。彼は通勤しなくてよかったからね。」

と言う。

するとケイドが聞いた。

「僕が住んでいたアパートは強盗に入られなかった?」

ベンはショックで驚きを隠せなかった。

「そうだよ、君がその話をしてくれたのを覚えてる。」

モリーが、彼はその日職場で何をしていたのか聞くと、ベンは、本来彼は休みだったが、同僚が風邪で休んだために出勤していたのだと言う。

ケイドが聞く。

「あの日最初の飛行機がぶつかった時、僕は屋上にいる人たち皆と話していたの?」

ベンは「屋上にいる人たちと話してたのか?屋上にいることを覚えてるの? 我々もきっと君たちは屋上まで行ったと思ってたんだ。」

その後ドアがロックされたと言うと、ベンは、「Oh Wow!」と言って驚いた。限られた人しか知り得ないことだと。

ベンは、ケイドに会う前は正直この話は怪しいと思っていたが、彼が知り得ないことをたくさん知っていることで、不思議な何かがあることを確信できたと言う。もしかしたら死後の世界があるのかもしれない、と。

リックも前世については半信半疑だったが、2人の会話に接点があり、ベンが事実だと証明してくれたことで、この人生の後に何かがあるのかもと思えてきたと言う。この世を旅立つ時に分かるのだろうが。

ケイドは、自分の記憶が正しかったことが分かってスッキリしたし、ベンと会ってよかったと感じていた。

その後、家族は911メモリアルへと向かう。前世の自分の名前を見つけたケイドは嬉しそうに指差した。ケイドは慰霊碑の前世の自分の名前をスケッチブックに写し、一生大事にすると言う。

彼は前世の自分に別れを告げ、慰霊碑に顔を寄せた。どうやって前世の自分がいなくなったのか説明はできないけど、ただそれを感じられると言う。そして、記憶だけがなくなり、自分の名前はメモリアルサイトに残る。素晴らしいことだと思う、と語った。

「NYに来てから、飛行機も高層ビルも怖くなくなった。2つの恐怖が1日でだよ。すごく大きな達成感。僕の人生は変わる。」

満足そうに語るケイドの表情には、不安や恐怖は見られなかった。


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