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【前世の記憶】息子は神父の生まれ変わり?

アメリカ・ワシントン州シアトル。アリエルとトレーバー夫婦にはジュードという4歳の息子がいる。生後すぐからなかなか泣き止まず、上の2人との違いを感じていた。夜中の決まった時間になると泣き出し、父トレバーが法律学校に通っていた時は特に困難な時を過ごした。

あらゆる方法を試すが、身体的な苦痛があるようには見えない。他の赤ちゃんなら何らかの方法でなだめることができるのに、ジュードの場合は何をしても効き目はなかった。

夜中に家族の皆を起こしてしまうため、両親と一緒に寝るようになり、ジュードは朝まで1人で寝たことは一度もない。

ジュードは普通より早く言葉を話し始めよく喋った。しかし彼が話す内容は両親にとって奇想天外なものだった。

「一緒に神の国へ行こう」

「良い天使は虹色だけど、白い羽はついたままなの」

ジュードの睡眠障害は次第にひどくなり、夜中にベッドを這い回り、うめき声を上げた後に全力で泣き叫んだ。

両親は小児科に連れて行き、睡眠障害で昼間の生活に影響が出ていることを相談すると、夜驚症だろうと言われる。医療的な解決の糸口を期待していたアリエルは失望する。ジュードの夜驚症は上2人の子供の気力さえも奪うものだった。

成長するにつれ詳しく説明できるようになったジュードは、ひどい悪夢を見ていることと、死んでしまう気がして怖いことを訴えようになる。

こんな小さな子がなぜ死を恐れるのだろうか。

物事は奇妙な方向に進んでいく。ジュードが2歳半の頃、ベッドに寝転がっていると天井を見上げて微笑んでいた。何を見ているのか聞くと彼は天井を指差し、天使を見ているのだと言う。天使たちが自分に微笑んでいるのだと。

特に宗教を持たずに育ったアリエルには衝撃なことだった。夫婦とも幼少期に教会に行く家庭では育っていないし、子供たちに天使の話もしたことがない。

ジュードは常に天使について話していた。天国で天使だったというジュードは、天使でいるのは楽ではないと言う。

「生き残れるのは立派な天使だけなんだ」

ジュードは天国での名前も覚えていた。

ある日公園にいると、ジュードは天を指差し、ポータルがすぐそこにあるという。

「見えないの?空に暗くなってる部分があるでしょ。」

ジュードはそのポータルを抜けて母親のお腹へ入ったと言う。ポータルは天国へつながっていて、そこを抜けて天国から地球に来られるのだと言うのだ。

宮殿や教会などの正面玄関のことを指すポータルという言葉は、当時3歳の彼にとっては大きな言葉である。天国とのつながりと息子のその思考にアリエルは戸惑った。

ジュードの強烈な夜驚症に対しても、両親は何をしてあげることもできない。上の子2人はこんなことはなかったため、ジュードに何か問題があるのかと悩んだ。

3歳のジュードは、絵を描くようになり、自分の姿を描くのを手伝ってほしいと繰り返し頼むようになる。そしてその描いた少年を虹色に塗って欲しいと、塗り方を細かに説明した。

描かれた少年はジュード自身なのだが、体は虹色で、虹色のマントを羽織っている。ジュードは虹色の戦士だと表現した。

色を塗っている時はその意味が分からなかったアリエルだが、可愛い色合い以上の意味があることを後に知ることになる。

ジュードは天使や他の宗教的なことについてさらに頻繁に語り出した。

教会なら何か答えを得られるかもしれないと思ったアリエルは、ジュードを教会に連れて行く。

ジュードは教会内を歩き回った後に、神父のローブに指で一直線を描くと、夢中になったように触り始めた。

「やめなさい、これは神父さんのものよ」

アリエルがそう注意すると今度は、死角になって見えなかった大きな聖書を見つけ出し駆け寄る。

「これは神様の聖書だよ。とっても大事なものなんだ。絶対触ってはいけないんだ。」

ジュードは今まで一度も聖書を見たことがない。両親も教会にも行かなければ聖書も読まない。無神論者とは言わないが、宗教的でないことは明らかである。息子は以前から神について語っていたものの、彼がどれほど宗教的なことを話していたのか気づいた瞬間だった。

やがてジュードが語る内容も変化していく。就寝前になると、飛行機墜落について語り出した。興奮しながら執拗にその話をし、それが毎日続いた。水に浮かんだ死体についても描写し、乗客を救えなかったと言っては動揺した。

飛行機事故の詳細は聞いているだけでも辛いものである。この飛行機事故の思想もどこからきたものか分からなかった。家庭で特に飛行機について話すことはない。ましてや飛行機の墜落については一度も言及したことはない。

「すごくたくさんの死体がある。とてもたくさんの死体が。彼らを救いたい。ダディ、救うのを手伝って。彼らが死んじゃうよ、ダディ。」

両親の心も痛んだ。なぜ幼い我が子がまだ理解できないような、経験したこともないことを口にし、異常に興奮するほどの感情的になれるのか。まるで乗客たちがそこにいるかように。

その様は毎晩、体験を繰り返しているかのように続いた。

両親も息子を助けたいと思うものの、それが彼の責任ではなかったのだと言える確信がない。それほどの罪悪感を持つ子供は、他の子では見たことがなかった。

ジュードは戦争などの、大人が泣くようなことに対して泣いた。鬱積した感情があからさまだった。

この世に生存していないものを信じたくはないが、説明のしようがない。そして息子はそれを信じている。我が子が頑なに信じていることを信じないなんてできない、とトレバーは言う。

そして輪廻転生についても知識をつけ理解を深めることは的確だと思う、前世があるとしたら現世はその人の続きなのだろう、と理解を示していた。

アリエルは生まれ変わりの話も聞いたことがあり、その可能性はあると思っていたものの、心から信じられるわけではなく、現実的にあり得るのか疑問だった。息子はニュースなどテレビで見たのかもしれないと、自分なりに納得しようとした。しかし彼の説明はあまりにも明確でその苦悩も大きかった。

どこかでの記憶に違いないと思う以外に他のオプションはなかった。もしかしたら前世からの記憶なのか。夜驚症は夢で前世の記憶を辿っているせいかもしれない。

前世のジュードがどんな人物だったのか知るために、アリエルはまずは飛行機事故から調べはじめる。第二次世界大戦から最近のものまで調べたが、ジュードの話にマッチするものはなかった。

そして長年忘れていたことを思い出す。1990年代にとても鮮明な飛行機事故の夢を見たことを。汗と涙で夜中に飛び起きたほどだった。

調べると1996年にJFK空港から離陸直後に水上墜落し、乗客230名全員が死亡したトランス・ワールド航空800便墜落事故に行き着く。

墜落現場に最初に駆けつけた中の一人は神父で、ジュードの天国の名前と同じだった。彼は墜落現場に行き、スピリチュアルカウンセラーのように遺族に3週間ほど寄り添っていた。

全てが一致する。アリエルは神父とジュードの人生の共通点を探した。ジュードがなぜ宗教的なことや聖書についてなどいろいろ知っているのか。前世は神父だったのか。そうであればその記憶を持ち続けているので理に叶う。

その神父は同性愛者の権利活動家だった。実際の写真もあるが、彼は虹色の旗のすぐ隣でパレード行進をしている。

ニューヨーク市消防局の神父だった彼は、火事、レスキュー、病院とさまざまなで励ましと祈りを捧げ、消防士とその家族にカウンセリングを行い、寝る間も惜しんで働いた。また、ホームレス、アルコール依存症、エイズ患者、病人、負傷者、社会から疎外された人々に奉仕することでもよく知られていた。

彼は亡くなるまで毎年、トランス・ワールド航空800便墜落事故の追憶式に参加していた。そしてジュードが生まれる10年前に亡くなっている。全てのパズルが一つになり、アリエルは安堵した。

ジュードは実際に神父だったのだろうかと思い始めたアリエルは、情報をジュードと共有することにする。この決断が間違っていないことを信じて。

ジュードが飛行機事故と関係がないことが理解できれば、罪悪感が解放されるかもしれない。

神父の話はジュードが話す多くのこととマッチする。4歳児に話すには深刻な話題だが、息子は言葉を覚えるや否やその深刻なことを伝えようとしてきた。

アリエルはジュードにその神父の写真を見せるために船に連れて行くことにした。解決方法が見つかるはずという期待とともに。神父の写真を見たら、自分の責任じゃないと理解できて、罪悪感が消えるかもしれない。

「これからある写真を見せるわ。その写真の人に心当たりがあったら教えてね。彼は神父だったの。この写真をどう思う?」

とアリエルが聞くとジュードは

「うん、それ僕だよ。」

と答えた。

アリエルは自分の耳を疑った。

「これは彼が若かった時の写真よ。こんなローブを着てたの覚えてる?」

「ローブ?それ僕だよ。」

ジュードはまるで「なんで知ってるの?」とでも言いたげに目をまん丸くして答える。

「もうあなたは罪悪感を感じる必要はないのよ。あなたは何も悪いことをしてない。ただみんなを助けようとしてただけ。分かる?」

「うん」

アリエルはジュードが描いた神父の絵を、水に流して送ろうと言った。悪い記憶を良い記憶に変えるために。

ジュードは「神のご加護を」と言った。そして神父の絵を水に流す。

過去の記憶を流し去り、無限待ち受けている未来にフォーカスしてほしいという願いを込めて。

アリエルは、前世について深く話し、水に流す儀式をすることが、これまでの苦悩に終止符を打つと信じた。

4歳児らしい毎日を送ってほしい。両親の願いはそれだけだった。

「今日は楽しかった。僕はママとダディが大好き。神様が僕にあったマミーを選んでくれたの。」

あれ以来、ジュードの夜驚症はしだいに治ってきている。

ジュードの前世が神父だったと科学的に証明できる術はない。ただ、ジュードはこの神父の話からたくさん学ぶことがあるはずだ。

一連のことからアリエルも様々なことを学んだ。今では完全に輪廻転生を信じるという。

「目に見えることよりももっとたくさんのことが世の中には存在している。それは思っていたより、とても複雑なもの。」


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