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【童話】人形の夢

あるところに1点物の人形がいました。とてもかわいらしいすがたをしていましたが、人形は自分のすがたに満足していません。
「Aちゃんはおめめが大きくて、Bちゃんはお洋服がかわいい。Aちゃんみたいにならなくちゃ、Bちゃんみたいにならなくちゃ。」
人形はそう思っていました。とにかく自分にじしんがなくて、他のだれかになりたいと思っていました。かわいい他のだれかになれば、きっと買い手もつくはずです。

人形はBちゃんと同じお洋服を着ました。
でも買い手はつきませんでした。
Aちゃんのように目が大きく見えるようおけしょうしました。
でも買い手はつきませんでした。
人形は鏡を見ました。
AちゃんやBちゃんのようになりたくてまねっこしているはずなのに、鏡に写っているのはお洋服を変えて、少し目が大きくなっただけの自分のままでした。

人形は作り手の主人に「Aちゃんのような顔にしてほしい」とお願いしました。作り手は少し悲しそうな顔をした後、「あなたがそう望むなら」と顔を変えてくれました。
鏡を見るとAちゃんそっくりの自分がいます。少しAちゃんに近づけた気がしました。

人形は売り場に立ちました。
目の前を通った女の子が、人形を指さしてこう言いました。
「このお人形と似てるの持ってる!」
女の子のお母さんがこう言いました。
「似てるのがあるから別のにしましょう」

今日も買い手はつきませんでした。
人形は「もしわたしがわたしじゃなくて、かわいい別のだれかだったら」と泣きました。


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