遺伝(ノーベル賞特別企画)-CRISPR/Cas9-No.2

そもそものCRISPR/Casシステムを少し掘り下げて行きたいと思う。

引用文献:新海暁男 CRISPR-Casシステムの構造と機能 生物物理 2014;54(5):247-252 

●Adaptation フェーズについて

このフェーズは、外部から侵入してきたDNAの1部分を切り出し、新たなスペーサー配列としてCRISPR領域に挿入するフェーズである。

スペーサー

図1 CRISPR-cas領域

CRISPR領域は、スペーサー配列を挟んでリピート配列(図1では黒色の領域)が繰り返されている。

リピート配列は、パリンドローム(回文)様配列を含む塩基配列である。

回文配列

図2 パリンドローム(回文)配列の例(出典:wikipedia 回文配列)

パリンドローム配列とは、図2のように、片方の一本鎖における特定の方向(例えば5'から3')での塩基配列の読み取りが、もう片方の相補鎖における同じ方向(5'から3')での読み取りと一致する配列のことである。

画像3

図3 CRISPR-Cas領域の例

この図のパリンドローム様配列の記載では、100%の回文ではないが、端を除けば回文となっていることがわかる。

これはワトソン-クリック塩基対形成を思い出すことができば簡単である。A-TとG-Cの結びつきである。

さて、CRISPERに新たなスペーサーとして組み込まれる配列が存在する。

この配列はプロトスペーサーと呼ばれている。

プロトスペーサー

図4 プロトスペーサーの例

図4ではファージのDNAを例にあげている。

システムにはいくつかのTypeがあるが、Type-Ⅰ、-Ⅱシステムではプロトスペーサーの5’末端あるいは3’末端にPAMと呼ばれる2~3塩基対があり、それが、プロトスペーサーの目印になっている。

ファージやプラスミドが侵入してくると、Cas1タンパク質がPAM配列を認識して、その上流の数十塩基を切り取り、リピート配列とともに自身のCRISPR領域の上流側(5’末端側)に挿入する。

新スペーサー

図5 CRISPRに新スペーサーが挿入された例

Type-Ⅰ、-Ⅱ、-Ⅲシステムに共通してCas1およびCas2がこのフェーズに関与していることが示されている。

Cas1はβ-ストランドドメインとα-ヘリックスドメインを持ち、マンガンイオンを1つ含むタンパク質で、DNAを塩基配列によらず非特異的に切断する。

Cas2は1本鎖RNAの中のウリジン塩基を多く含む領域を特異的に切断するタンパク質で、多くのRNA結合タンパク質が形成しているフェレドキシン様フォールドを持ち、2量体を形成している。

他にも関与している可能性のあるタンパク質がある

Type-Ⅱでは、

Csn2はダイアモンド様のリング状に形成された4量体タンパク質で、2本鎖DNAの末端に結合する活性を持っている。

Cas4は5つの2量体がリング状に繋がった10量体の鉄硫黄タンパク質で、2本鎖DNAをほどく活性や1本鎖DNAを分解する活性を持っている。

ここまでがAdaptationフェーズであり、CRISPR領域に新たなスペーサー配列として挿入することで、外部から侵入してきた異物を’記憶’するシステムであり、CRISPR-Casシステムが獲得免疫と呼ばれる所以となっている。

CRISPR-Cas9は狙った配列付近を切り取ることができるということに現在は主眼が置かれているが、そもそもCRISPR-Casシステムは獲得免疫における、’獲得’の方法として理解するべきである。

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