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小説『ヴァルキーザ』 25章(2)


グラファーンたちが、今までの自らの冒険の事と、これからの冒険の予定とを話したのを静かに聴いた後、ガイエンきょうは語った。

「私もかつて、『時の城』に乗り込み、悪魔エルサンドラから城の奪還を試みたことがある」

グラファーンは驚いた。
「えっ! あなたも時の城に行かれたのですか」

「そう。まだ私が現役の冒険者だった頃の話だ。私はその当時、君たちのように、仲間とともに、冒険の装備をして、時の城に乗り込んだのだ」

ゲンシンが給仕した緑茶を飲みながら、ガイエン卿は話す。

ユニオン・シップ団の皆も、ゲンシンに促されて、出された緑茶をすすっている。

「…その時の仲間たちの名は、イムルシフ、マーガス、ウルシャプラ、セルティース。だから、私を含め5人で乗り込んでいったのだ」

「なんと…」
グラファーンは言葉をもらす。

「イムルシフは、イリスタリアの建国を助けた妖精ですね?」
アム=ガルンも驚き、尋ねる。

「そう。彼女は優秀な魔法メディアスの使い手だった」

「マーガスは、あのタイモス王家の始祖ですね」
スターリスも興奮を抑えきれない。

しかり、騎士殿。マーガス国の国名はそのまま、彼の名に由来している。彼は年老いているが、優れた戦士だ」

「ウルシャプラという名は、古王国アルナディアの五賢聖ごけんせいの中に見られますが…」
ゼラも問い返す。

「その通り、レディ。彼は卓越した白魔法セレニスの術者だった」

「じゃあ、セルティースというのは、どんな人なんですか」
ラフィアが質問する。

するとそのとき、イオリィが声を上げた。
「セルティース!」

「なんだ、イオリィ。知り合いか?」
と、エルハンスト。

「どこかで聞いたことがあるわ…よく分からないけど」
イオリィは思い出そうとして、顔をしかめていた。

「…だめだわ、思い出せない」

そこにグラファーンが割り込んで、ガイエン卿に尋ねた。
「あの、それで、ロード・ガイエン、その時の冒険は、それからどうなったのですか?」

「当時の冒険の結果は失敗だった。エルサンドラとの戦いの前に『時の城』の中でセルティースが行方不明になった。その後に敵の強襲を受け、ウルシャプラが殺された。マーガスは逃げのびられたが、私はその時、逃げるのに間に合わなかった。ここに今、こうしていられるのは、あの時、イムルシフが必死で私を魔法によって城外に瞬間移動テレポートしてくれたおかげだ。残されたイムルシフがどうなったか、私にも分からない」

「 そんな…」
ラフィアが息をのむ。

「イムルシフも、セルティースも、きっと城内でエルサンドラに殺され、もはや生きてはいまい…」

「恐ろしいことですね」
アム=ガルンは震え、声を吐いた。

「私に、もう少し力があれば、イムルシフを守ってやれたのに、なんと恥ずかしいことだ」
ロード・ガイエンは息をついた。

「他の仲間たちもみな、同じ気持ちだったろう」

ユニオン・シップの皆はこのとき、ガイエン卿たちの無念を晴らせるのは自分たちだけだと悟った。そしてこれから必ず、悪魔エルサンドラの野望をついえさせることをガイエンの前で確認した。

ガイエンは喜び、ユニオン・シップ団のために、自らの先の冒険の記憶に基づいて作成した資料を提供してくれた。

それは、時の城と呼ばれている、エルサンドラの拠点である「ゼーレス」の内部構造の図面や、その防衛軍に関する詳細なリスト、その他いくつかのデータを記したものだった。

これらの有益な情報は、後で、グラファーンたちがゼーレスを攻略する際に役に立つことになった。

グラファーンたちはまた、ビルバラを含めウルス・バーン大陸の多くの冒険者たちや一般市民が、エルサンドラの横暴に対して立ち上がり、「時の城」に向かって突き進んでいるという知らせを受け取った。



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