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小説『ヴァルキーザ』 27章
27. ノープ
氷雪海の海岸の旅路の果てに、冒険者たちは、その東端までたどり着いた。
一面灰色の朝の空のなかを海風が疾走り、その風に無数の雪のひらが舞い飛んでいる。
やがて砂浜が無くなりつつある海岸の陸側の岩場に隙間が見え、そのかげに小さな村が発見された。
見つかりにくいその村を目ざとく見つけたのは、ラフィアだった。
「あれが、たぶん、ノープの村だよ」
ラフィアは嬉しげだ。
村は廃墟ではなく、人の住んでいる気配があった。
寒さと、戦いと、そして海岸の一週間近い長旅で冒険者たちは疲労困憊していた。そこで冒険者たちは村へ入り、最初に目についた小屋の扉をたたいた。
「どなたかの?」
低い声で、おそらく老人らしい男が中から応答する。
「旅の者です。海岸の西端のビルバラからやって来ました」
アム=ガルンが伝える。
「 おお、そうですか」
老人は扉を開けた。
そして、物々しい装束の冒険者たちを見て、やや驚いた様子だったが、すぐに、
「お入りなさい」
と、一行を招き入れた。
小屋のなかには、もう一人、老婆がいた。
老翁の妻だろう。
老婆は優しく、か細い声で一行に挨拶し、声をかける。
「寒かったでしょう。さあ、火にあたって下さい」
暖炉に燃える火が明るく大きくなり、小屋に入った一団を暖める。
「ああ、久しぶりに火にあたったので、体が暖まりました。ありがとうございます」
グラファーンが老夫婦に礼を述べる。
「私の名はヤク。このノープの村に生まれ、長く住んでいる者です」
老翁は自己紹介し、さらに妻を紹介する。
「こちらはモア。私の妻です」
老婆が挨拶する。
ヤクとモアは、やはり夫婦だった。
グラファーンたちも自己紹介をし、二人の老人にお辞儀をする。
ヤクとモアの配慮により、一団はすぐにそこで寝るための用意をして眠りにつき、一泊して旅の疲れを癒すことができた。
そして次の日の朝おそく、ヤクとモアの二人に案内されてユニオン・シップの一団は、村の端まで行った。彼らはそこにあった地下に通じる階段を下り、瞬間移動用の魔法陣のある所まで行き、陣の中に次々と入っていった。
老夫婦の、「さよなら…」の挨拶の言葉を聞きながら、魔法陣のメディアス(魔法)の力で一団は空間跳躍した。
そして次の行き先・エスタルカームの近くにあるという、別の魔法陣へと瞬間移動した。
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