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小説『ヴァルキーザ』 28章(1)
28. エスタルカーム
魔法陣を出て、雪山の間を縫うように長く続く道を歩いてゆく。すると、やがて視界が開けて、目の前に広がる平原の上空に、天空に浮かぶ巨大な岩の島が現れた。
島は高さの低い菱形の四角錐を逆さにしたような形で、上部の平面にはいくつもの、建物らしきものが見える。それはあたかも、神が空に造った街のように見えた。
岩の飛空島は、音もなく静かに、高めの中空に止まって浮遊している。
「ああ、これが…」
ゼラはその島を見て声を上げる。
「天空人の街・エスタルカームでしょう」
アム=ガルンが頷く。
不意にまた、イオリィが頭を抱えてうつむいた。
エスタルカームを見て、何かを思い出しかけたそうだ。
グラファーンが、心配してイオリィに話しかけると、
「この景色、見たことがあるの…」
それだけ、彼女は言った。
一団がエスタルカームらしきその島に近づいていくと、島から、天空を高速で飛行する女性が一人現れて、グラファーンたちの前に舞い降りた。
「お待ちしていました、ユニオン・シップの皆さん。私はエスタス(天空人)のティーラと申します」
女性はそう自己紹介すると、
「これから皆さんをエスタルカームの街にご案内します」
と話し、全員に魔法をかけて瞬間移動させ、上空の飛空島エスタルカームへ連れて行った。
ティーラに率いられて、エスタルカームの街の入口のアーチをくぐったユニオン・シップは、街の中心部にある、島の司令所となっている高い塔状の建物へ案内された。
そこは、天空の島エスタルカームの指揮管制を行う場所だ。
グラファーンたちは、そこでエスタルカームの二人の指導者たちに出会った。
二人はそれぞれ、コーディリアスとミティアスと名を告げた。二人とも若い女性だ。
コーディリアスは、イオリィを見た途端、ひどく驚いた様子で彼女に呼びかけた。
「イアリース、イアリースなの?」
イオリィは、コーディリアスに腕で両肩をゆす振られているうちに、ついに思い出した。
自分がイアリースという名前だったことを。
そして、自分が天空人であることを。
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