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小説『ヴァルキーザ』 24章(3)

グラファーンたち冒険者が三階に上がると、そこは岩をくり抜いた巨大なドーム型の空洞だった。
その広い空間を少しずつ、足元に気をつけながら歩いてゆくと、前方の暗がりの中から巨大なシルエットが浮かび上がる。

グラファーンたちが身構えると、天井から、ぱっと数条の光が降り注いだ。魔法の照明の光だ。
光は、岩の床を広範囲に照らしている。

スターリスが果敢に声を上げ、三階の、その巨大なあるじに問いかけた。

「あなたが、守護聖獣か」

「いかにも。人は私を、そのように呼んでいる」

ビーストは共通語で答えた。

スターリスが、また問いかける。
「あなたは、私たちのことを知っているか」

「私はメディアス(魔法)をたしなんでいるので、答えはイエスだ」

獣の声は落ち着いている。敵意は無いようだ。

「では、あなたは悪魔なのだろうか」

「無論、そうではない」
聖獣は答え、自らキメラと名乗った。

グラファーンが前に出て問うた。
「あなたに、エルサンドラについて質問することを許されるでしょうか」

「よかろう。話しなさい」

「エルサンドラの本拠地について話を伺いたいのですが、許されるでしょうか」

「許そう。それは『時の城』と呼ばれている」
そして、守護聖獣は語った。

「それは、北の果ての大地の底にあり、アルス(地球)に接して浮遊している。城の中には、城主である悪魔エルサンドラに封印された女性がいる。彼女の運命の人は、あなたと同じ名の者である」

「ありがとうございました」

グラファーンは引き下がって礼をし、キメラに別れの挨拶をして、その場を立ち去った。

守護聖獣は後脚で床を蹴り、瞬間移動の魔法を唱え、空間跳躍すると、砦を出て、遠い時空へ飛び去っていった。

グラファーンたちが砦の入口と反対の方向にある出口へ向かう階段を下っていった後、あるじなき迷宮の中で何が起きたかは分からないが、砦の外へ出たグラファーンたちが遠くから振り返ると、砦全体が炎に包まれているように見えた。

グラファーンたちは、身の縮むような思いで、ビルバラへ急いだ。





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