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小説『ヴァルキーザ』 25章(3)

ロード・ガイエンに別れを告げて屋敷を出ると、グラファーンたちは、先の旅路である氷雪海ひょうせつかいの海岸へ行く前に、このビルバラの町の中を少し歩き回ることにした。

町の隅で一人の老人と出会い、話をする。
彼は、ビルバラの人々から「賢者けんじゃラナ」と呼ばれている人物だ。

彼はグラファーンに打ち明ける。
「 わしは、エルサンドラにすべての悪を帰すことには慎重なのじゃ…その訳は、町のさらに奥にいるタキリスに聞くといい」

そこで、グラファーンたちがタキリスという人物に会いに行くと、彼はなんと、人間と同じ大きさの銀色の竜だった。

タキリスは善の心を持っていた。

彼は話す。
「時の城にいるエルサンドラの隠れひそんでいる本当の居所を見つけるのは難しいかもしれませんが、それを成しげられた時はきっと、呪われた時間の魔法から、世界は、たしかに解き放たれるかもしれません…」

グラファーンが尋ねる。
「タキリス、それは、どういう意味なのですか」

タキリスは答える。

「うまくあなた方にお答えすることはできません。私にも確証がないのです。ゼーレスまで行った経験がありませんので。ただ、力が支配し、権力をめぐる闘争に明け暮れているこの世界のさなかで、その究極に至った者だけが見るであろう未知の領域があると私は思ってます。多分、ゼーレスに着けば、何か明らかになるでしょう…」

タキリスの謎めいたほのめかしにユニオン・シップの団員たちが当惑していると、善竜は申し訳なさそうに言い足した。

「物事には、表の面もあれば、裏の面もあります。あるものを見るにあたって、多くの人が言い立てること、「常識」として信じ込んでいる言説は、本当にそのものの真実を言い当てていると断定できるのでしょうか? また、人は自らの常識に拠って正しいと思い行なった事が不調和な結果をもたらしたとき、他者の視点から見て正しくない行動を敢行して、他の者たちから非難された場合、どう責任を果たせるでしょうか?」

グラファーンは、その問いかけに対する答えがわからなかった。そして、今後考えてみます、とだけ言ってタキリスにうなずいてみせた。

タキリスと別れたのち、グラファーンたちは町の宿屋で一泊し、ビルバラを出て、氷雪海の海岸沿いを歩く、北方への旅路についた。




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