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#1 「建築応用学」建築的な思考方法が地方においては役に立つ

「#うなぎの10年」というマガジンをつくりました。このマガジンは、うなぎの寝床をはじめて10年、地域文化商社ができるまで、それが生まれる以前の思考と経験、そして、会社を立ち上げて以降の試行錯誤の10年を振り返ってみたいと思います。

#0 振り返るうなぎの10年
#1 「建築応用学」建築的な思考方法が地方においては役に立つ

前回は、僕白水の小学生から高校生までの簡単な振り返りを行いました。ここからは大学に入ってからのことを振り返ってみたいと思います。

大学では建築を勉強ました。建築的な思考というものは社会における実践で考えると、とても面白いし役に立つと考えています。僕は実務をやっていないけれど、建築という考え方が基礎になり社会人になれたなという感覚があります。(実務をやってないから、実際の建築に携わっている人はお手柔らかに見て欲しいけれど)僕が考える建築設計・デザインの思考プロセスを下記に簡単にまとめてみたいと思います。

1_広範囲の土地性
建築を考える時、まず広い範囲で土地を見ます。その土地がどういう市町村に位置しているのか、駅からどれくらいなのか?どういう生活圏なのか、どういう土地の特性をもっているのか?産業があるのか?商業地域なのか住居地なのか?など、少し広い意味での周辺ランドスケープと情報を見ます。

2_狭い範囲の土地との関係
さらに、実際建築物を立てようとする狭い範囲の近隣の建物や流れを見ます。その中に、これから建てる建物がどうあるべきなのか?を考えたりします。

3_誰がどういう要望でそこに建築物を立てようとしているのか?
次に、誰がどういう目的で建物を立てようとしているのか?これが実質的なクライアント、そして実施者ということになります。ここの要望をどう捉えるのか?これが建物の予算と仕様書のようなものですね。これがメインの仕事となるのが通常の建築の仕事ではあると思いますが、僕はその前段階の1と2がとても重要だと考えます。

4_コンセプトワーク
1-3の要望を汲みながら思考し、コンセプト(全体を通すための概念と基本的な計画)に落とし込んでいきます。

5_実際の建物と周辺環境のゾーニングとレイアウト
建物・敷地の中に入れて行くためのゾーニング(どの範囲にどういう機能を入れていき、それらがどういう関係性を持っているか?)と、平面計画などを思考します。

6_平面からの立面、断面、素材などの選定
平面の計画を立体に立ち上げていき、どういう素材を使うのか?どういう雰囲気の空間にするのか?デザインにしていくのかを思考していきます。

7_予算のまとめ
1-6を含めて、予算をまとめていきます。

8_法律の適合
法律に適合させていくことを思考します。

9_建物の工事とスケジュール管理
建築物は、実際建てて行くのは、工務店の若者から年配の方々で、様々な人たちが関わります。その人たちがわかるように図面やスケジュールを共有し、現場が動いていき、建物が出来上がっていきます。

僕は、実際に建築家でもないし、設計士でもありませんが、建築家の人の本とかを読んだりしながら、設計の授業などで、なんとなくこういうことをイメージはしながら設計の授業を考えたりしていました。そして、その思考訓練が、今会社をやっている自分にかなり生かされています。1-9を分類してみると下記になります。

a)「与件整理」:1-3は与件の事前準備
b)「課題解釈とコンセプト設計」:4-5は与件を基にした設計者・デザイナーの思考と解釈
c)「デザイン」:6はその解釈に色や形を与えていき、空間や居心地をつくっていく作業
d)「予算設計」:7は4-6が現実にちゃんと落ちるかどうかの現実的なお金の話
e)「法の適合」:8は法律的に違法でないかどうか?法に適合しているかのチェック
f)「実際の構築」:9はそれを実現していくプロセスの人への配慮。
※追記 g)「運用」:その建物の適切な運用

これは建築だけでなく、あらゆる仕事の場面で必要です。僕は建築という思考実験を学ぶことによってこの一連のプロセス思考を獲得していきました。僕も様々な業種の方々、経営者の人ともやりとりをすることも多いですが、この一連を思考している人はそう多くありません。コンセプト設計は得意だけれど、予算のことはわからないとか、実際物の構築はできるけど、与件の整理とかコンセプトは立案できないとか、今全体感に対する思考をする人よりも、各部門のプロフェッショナルが多いようにも思います。


○都市は分業のプロフェッショナル、地方は思考と行動ができるマルチプレイヤーが必要。
都市においては、人口も多いし、規模も大きくなるのでどの業種においても、分業した中でのプロフェッショナルが必要になります。しかし、地方において考えてみると、まず分業できる人材リソースが足りないことと、例えば何か頼みごとをされた時に、それが漠然としすぎていて「a)」にまとめたような与件がまとまっていないということがほとんです。まずは、3のクライアント・地域文化の担い手の人たちの話をじっくり聴きながら1-3までの与件を一緒に引き出して整理していくことが重要です。

そのプロセスはとても時間がかかりますが、地域で事業をする方々やクライアントの思考の整理にもなるので、とても重要だと考えています。そして、仮にそれがまとまったとしても、例えば食品のパッケージデザインをやりましょう!という話にまとまったとして、予算がないとか、どういうコンセプトでやるとか、誰に向けてやるのか?とか、法律的にこの表示は絶対に入れないといけないとか、その辺も寄り添って思考する人が、すぐに見つからない。結局地域というフィールドにおいては、a)-f)までをプロフェッショナルではないまでも、全体思考しながら見て行きふ風しながら実行していく必要が出てきます。

逆に地方においては、ある分野のプロフェッショナルでは、なかなか成立がしないところがあるなと、この10年関わっていて思います。

僕は建築的な全体思考が身についている人は、どこか一つのプロセスのみに依存するわけではなく、与件整理からコンセプトワーク、それを実際のデザインに落として行く過程、形と色を与えていくデザイン作業、また実施する工程とスケジュール管理、一体的に思考することができると考えます。

僕は、この建築的思考プロセスを他の分野に応用できると思っていて「建築応用学」なる学問が存在すればよいのでははないかと考えています。今大学で建築を学んで他分野で活躍する人は増えてきました。僕の知り合いでもたくさんいます。

福井の鯖江で活動するTSUGIの新山直広さんや、UMA design farmの原田祐馬さんなどは、その先駆的な事例だなと思います。地域を単一的なデザインなどで見るだけでなく、その与件の整理から実際の色形を決めていく領域、そして運営・発信、まで一体的に思考していることがプロジェクトを見ていてもわかります。

さー、みなさん基礎思考としての建築の概念をインストールしてみてはどうでしょうか?と建築という学問への勧誘のようになってしまいました。しかしながら、僕が建築を勉強していったことは、今の地域文化商社、地域で活動をしていくことに大きく寄与していると思っています。

さ、少し大学の時に学んだ建築という学問の話に寄ってしまいましたが、次は大学の時の話に少し戻りたいと思います。

つづく。

本質的な地域文化の継承を。