冷凍食品の話。

 そろそろ引っ越しの準備でもと思い、内見をお願いした道すがら、そこそこ広めのキッチンが良いんですよねと担当の人に言った。人並みに料理はするので、と言ったら驚かれた。「私料理なんて全然しないですよ〜」と返され、いまいち話が広がらなそうだったのでやめた。
 料理をするのは趣味でも好きなのでも節約のためでもなく、なんか作りたいなーってときがあるからって程度。揚げ物してえなー夏野菜湯通ししてえなーみたいな欲求がたまにある。勿論、好きなものが好きなだけ食べられるのは作る上で大きな要因ではあるのだけど、材料を揃えるハードルを考えると外に食べに行った方が費用対効果は高いと思う。
 その程度の料理作る人なので、毎日作ったりはしないし、作り置きなんて考えもしないし、ご飯は炊くけどパックご飯を利用しがち。冷凍食品だってよく買う。
 冷凍食品と言っても今や色んな種類がある。炒飯や餃子、ラーメンやつけ麺、混ぜそばだってあるし、ほうれん草とかコーンとかネギとか野菜類、豚バラや挽き肉もある。今じゃ冷やし中華だって冷凍食品コーナーに鎮座している。すごい時代。
 東京五輪のとき、海外の選手が冷凍食品の餃子のクオリティに驚いたというニュースがあった。最近じゃ、餃子の自動販売機や無人餃子販売所なんてものもよく見かけるようになったが、基本はフライパンを用意して調理する必要がある。でも大手メーカーの冷凍食品ならレンジ調理にも対応し出してる。それであの美味さだ。もはや手作り餃子の価値なんて暴落してるんじゃないか。
 つい先日、沼津へ旅行した。目的地の一つが、中央亭という餃子専門店。メニューは餃子とライスと各種飲み物だけ。焼いたあとに茹でるという不思議なスタイル、特徴的な見た目の餃子で連日行列、開店一時間もすればその日の分の餃子は終わってしまうらしい。期待半分、不安半分だったが、実際食べてみるとまあ美味いこと美味いこと。もちもちとした食感で味は濃い目。ご飯が進む進む。さすがに一時間半前に並んだのは早すぎたのだが、それに見合う価値はあると思った。
 帰り道にふと思ったのは、もしあの餃子の見た目が見慣れた焼き餃子や水餃子だったら果たして僕は食べに行っていたのだろうか。味は変わらないとして。そう考えたら、たぶん行かないんだよな。つまり自分の中で、美味しそうよりもどんな味がするんだろうという興味が勝っている。結果、美味しかったと満足しても運が良かった程度のことでしかない。
 お店で食べるには味以外の付加価値が必要となれば、面倒臭さを極力省いた冷凍食品なんて需要しかないわけだ。いつか「冷凍食品並みに美味い」なんて言葉が出てくるかも、とは、流石に過言か。
 僕は今、レンジ調理出来る冷凍炒飯をわざわざフライパンで炒めて食べている。過去に何処までが料理したの範疇なのか考えた結果、皿を洗うという行為が発生すれば料理だと言えるとの結論が出た。つまりレンジ調理して器すら用意しなければ、僕の中では料理ではないということだ。それも含めて、フライパン調理の良いところは、好きな具材を追加してアレンジできることなんだよな。そして口に運んだときに毎回思うのは、何もしないが一番美味い。

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