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自分と向き合うな

自己像を正しく捉えることが生きやすさに繋がるっぽいよ〜みたいなよく聞くやつ、どこで見聞きしたのかもう思い出せないけど人生のわりと早い段階から意識の内に刷り込まれてて、いつの間にか自分の中で疑う余地すらない絶対的事実みたいになってた。生きやすく生きたい一心で私はとにかく毎日己を省みて批判して、そうすることでいつか自己像の理想と現実にギャップがなくなって身の丈にあったつましい幸福を手に入れられるんだと信じ込んでた。ほとんど放し飼いみたいにされた自意識は無際限に膨れ上がるし、頭の中は24時間寝ても覚めても自分自分自分。朝起きて一番に考えるのも自分のことなら、眠りに落ちる直前まで考えてるのも自分のこと。そういえば自分が出てこない夢を見た記憶がない。見てるのかもだけど、忘れてるんだと思う。自分の出てこない話を格納しておくための脳のメモリがない。もうとにかく自分のこと考えるので忙しすぎて、他の何かに目を向ける余裕なんてなかったかもしれない。毎分毎秒休むことなく「あー自分って…」「自分がもっとこうなら…」「あの時の自分…」「これからの自分…」みたいなことばっか考えながら生きてきた。

そんでまあそれだけやって「身の丈にあったつましい幸福」まではどれくらい近づけたのか?ここって大体何合目くらい?たゆまぬ自己分析を積み重ねてできるだけ歪みのない自己像を捉えられるようになったつもりなんですけど、まだ遠い?うーん、そっかそっか。じゃあもっと頑張るね。………………………………(60年後)とくに何も得ず、死。

みたいなことになりかねないんで、もうやめます。毎日やらなきゃって思い込んで実践してきたことを今度はやらないように変化させなきゃいけないから大変だけどさ。加えて私はかなりだらしない方の人間だから「◯◯します」「◯◯しません」って類の宣言を全然守れないんだけどさ。でもこんな毎日毎日自分のことばっか考えて反省だけ繰り返してるような女なんて、はっきり言ってなんにも可愛くないから。誰かの優しい手に撫でられながら「誰からも愛されない!!」って喚いてるみたいなもん。自分に取り憑かれすぎて今他人にどこ触られてるのかすら分かんなくなっちゃってる。怖いし可哀想だしピースじゃない。

それでも自分自分自分が出てきそうになったら犬のことを考える。生き物は飼えないから、イマジナリー飼い犬のこと。好きな人のことでもいい。好きな人の寝顔。まだ見たことない表情。知らない人のことでもいいよね。今この瞬間、日本にいる人のうち何人がくしゃみをしたのか。何人が懐かしいアルバムを引っ張り出してきて思い出に浸ってるのか。何人が食べきれなかったチーズナンを悲しい気持ちで見つめているのか。なんでもいいよ。自分のことじゃなきゃ全部ハッピーにできるんだから、私は。

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