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それならそれでユートピア1(追跡)

「なんで追っかけてくるんだよ!?」
「ぼくらが逃げたからじゃないっすか?」
「いや、そういうことじゃなくて」
「知らない街で遠くからあいつだーってこっちに向かってきたら、なんだかわからないけど普通逃げるでしょ?」
「とりあえず、おれこっち行くからお前そっち行って。あとで宿で落ち合おう」

十字路をサトシは左に、雄二は右に走っていく。
2手に分かれた追手。

夜になると盛り上がるであろう、まだ人影もまばらな所謂夜の繁華街を裕二は上手く走って泊まっていたホテルに逃げ戻った。
サトシもシャッター街になった商店街のまばらな買い物客を避けつつ何度か角を曲がると疲れ果て、藁をもすがる思いで昼間からやっている古びた居酒屋『鶴岡』に逃げ込んだ。
とりあえず店に入ったら誰かが助けてくれるかもしれない、そんな思いで引き戸を開けて肩で息をしながら店の中に入ると、そこそこ混在した店内の大半の客はコの字カウンターで酒を飲みながら、テレビで流れている競馬中継に夢中でこちらに気がついてはいなかった。

大将はちょっと驚いた様子でこっちを見ながら、
「お、お一人?」
と聞いた。
サトシは
「えっと、そ、そうなんですけど」
と言いながら扉の隙間から外を見ると、追いかけてきた二人が店の外でこちらを見ながらブツブツ言っているのが見えた。
やっぱり店の中までは追いかけて来ないのかと心の中でつぶやきながら
改めて息を整えながら
「えーっと、まぁ一人なんですけど」
と言うと、大将は少し心配しながら
「なんか、えらいハァハァ言うてるけど大丈夫?」
と聞いた。
サトシは
「大丈夫です」
と答え入り口から少し離れた2人がけのテーブル席に座り、周りを見渡した。

勢いよく入店した際にこちらを見ていた数人のお客さんも何事もなかったように普通に飲み続けている。
カウンターに座って瓶ビールを注文して雄二に『大丈夫ですか?』とLINEをした。逃げて隠れているかもしれない雄二に電話をするのは危険かもしれないと思ったからだった。
すると雄二からすぐに電話がかかってきて追手を巻いてホテルに逃げ込んだことを知り、雄二は自分が居酒屋に逃げこんだことを伝えた。
「ひとまず店には入ってこなそうだからしばらくはこの店にいますわ。雄二さんもホテルでじっとしていたほうがいいっすよ」
「そうだな」
「ちなみに、ホテルの場所ってバレました?」
「いや、バレてないと思うわ。その前に巻いたから。普段走ってて良かったわ」
「初めての街で走り回って土地勘ありますねぇ。しかし、あいつら誰なんでしょう?なんで追いかけて来たんでしょうかね?」
「マジ、わからんわ」
サトシは大将の視線を感じ、また連絡する旨を伝え電話を切った。

心配なのは昨日から何度電話しても繋がらないナチョスのことだった。
「あいつ、なんであんなおばさんに着いて行くかね?」
一息ついてそう呟やきビールを飲み干しすと、先ほどまでの緊張が少しほぐれて自分の喉が渇いていたことに気がついた。
「一体なんなんだよ。つか誰なんだよ、あいつら。これからどうすっか?店の人に相談するか?ひとまずここにいる分には安全か」

トイレに立つ振りをして外を見ると追いかけて来た2人の姿はいなくなっていた。


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