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それならそれでユートピア6(謎のタンクトップ男)

新東名が出来たときにつくられた浜松サービスエリアは広くて清潔感があった。
そんな綺麗な場所から追いやられ、汚いものを隠すかのように一般のお客さんから見えないような場所に作られた喫煙所で、ナチョスとサトシはたばこを吸いながら一息ついていた。

コーラ号の中でもたばこは吸えるのだが、地面に足をつけてすうたばこもまた格別だと2人はワケのわからないことをほざき、たばこを吸わない雄二は聞いているのか聞いていないのかわからない表情で2人の脇に座りぼーっとしていた。

3人が喫煙所で佇んでいると長髪でサングラスに口髭を蓄え、タイトな皮のハーフパンツになぜか網々で透けたタンクトップを着た、ただならぬビジュアルの男がこちらに向かってやってきた。
近くで見てみると意外に歳をとっているようにも見えるし若くも見える北斗の拳の世界から飛び出してきたようなその男は、3人に向かって
「あの赤い車って君らのやつやんな?」
と言った。
「そうです」
雄二が答えると、その男は
「自分らめっちゃかっこええな。あんな車で高速走ってるってヤバない?さっき高速走ってて追い抜かれたときから気になってたんや」
というと3人を見渡した。
「君の車?」
と3人の中で一番派手な見た目のナチョスに言った。
「ちゃいます、この人です。厳密にいうとこの人のお父さんですわ」
「君んちの車か。あれはヤバいで」
「あ、ありがとうございます。お兄さんは何乗ってるの?」
「おれはバイクや」
「あー、なんかそんな雰囲気ですねって、、え?半ズボンでバイク?」
サトシが調子良く口を挟んだ。
「まーな。暑いからな」
「何に乗ってるんですか?やっぱりハーレーですか?」
「いや、250や。Kawasakiのやつな」

イージーライダーよろしく車高が低くてハンドルが縦に長いハーレーに乗ってて欲しかった3人は、250ccのバイクだとわかってなんだかちょっと場が気まずくなったが、その男は気にするでもなく
「ほんで、君らはどこに行くの?」
と聞いてきた。

「ボクら新宮に行くんですわ」
「オープンカーで?マジか?新宮でまた遠いな。何しに行くの?旅行?」
「いや、なんというか・・・」
サトシが口ごもっているとナチョスが
「ちょっと宝探しですわ」
と口を挟んだ。

「何なん、宝探しって?徳川埋蔵金か?」
「埋蔵金があるんですか?」
「知らん」
「ドテーっ」
サトシは大げさにずっこける動きをした。

サトシの大げさな動きを無視した雄二が
「お兄さんはどちらまで?」
と聞くと
「オレは地元の奈良に帰るんや」
「東京からバイクで?」
「そうやで」
「そっちのほうが大変じゃないですか!」
「奈良のどこでっか?ワシも奈良でっせ」
「オレは十津川のほうや。そっちはどこ?」
「奈良市ですわ。ちょっと遠いっすね」
「そうやな。おれ、十津川でタンクトップ専門店をやっとるから、近くに来たら寄ってみてな。タンクマンって店や」

タンクトップ専門店?
網々のタンクトップはおそらく自分の店の商品なのだろう。
そこに触れると話が長くなると確信した3人は敢えてその点は触れずにいた。

「ま、気をつけてな」
バイク男は少し笑って去っていった。
ナチョスは同じ空気を感じたのか見えなくなるまで手を振っていた。

「ナチョスといいタンクマンといい奈良には変なやつが多いっすね」
とサトシがボソッと言うと、雄二が
「いや、変なやつが2人奈良にいて、たまたま浜松で遭遇しただけだろ」
と言った。

確かに奈良は柄シャツとアロハを重ね着している奴とスケスケのタンクトップの奴の街ではない。
まともな人が大半だ。
たまたま2人がおかしいだけなのだ。
そして、おかしな2人が偶然遭遇しただけなのだ。

「あんな人、追い抜いたっけ?」
サトシが言うと、雄二は
「多分、お前ら2人が車の中で玉置浩二の『田園』を熱唱をしていたときだろ」
と言った。

歌に夢中で何も気づいてなかったようだった。

「タンクマン、渋いっすね」
ナチョスは同じ匂いのする奈良県民に同調していた。

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