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恋の分解

 名前に恋を入れられそうだったらしい。たまたまそうならなかっただけ。もし恋なんて入っていたら、中身が伴わず、大変なことになる所だった。
 だが、こんな私も、一応、恋をした事がある。色々と感慨深い恋だった。今となっては、どうして赤の他人にそこまで入れ込むのか分からなくない。私の推しへの入れ込みはまた恋とは別次元であるし。

 恋はするものでない、落ちるものである。私も例外なく、恋に落ちた。小学校の時、四年生だっただろうか。いつの間にやら落ちていた。当時、仲の良かった女友達にやんややんや首を突っ込まれ、お付き合いすることになった。その時の友人の恋は叶わなかった。私だけ叶った。
 所詮小学生のカップル。田舎である、相手の家でデートのような何かをするのみだった。子供らしくテレビゲームで遊んで、動画を漁ってぐらい。今の小学生や中学生がどうなのかは分からないが、少なくとも、その時の私は、ソウイウコトをするのが酷く恐ろしかったから、そこは何もしなかった。いや、気持ち悪いと感じていたのかも。そういう目で見られるのも、あまり好きではなかった…… うん、正直に言おう。普通にそういう目が嫌いだった。女として見られるのが嫌だったのか、彼の男が出るのが嫌だったのか。鶏が先か、卵が先か。今となっては謎である。

 付き合いは、中学で一時、消滅したものの、また、再開した。地域の夏祭りで、またあっちが告白したのだ。多分。ぼちぼちの関係を続け、高校受験もお互い、何とか乗り越えた。高校一年で、県外に遊びに行ったりもした。
 そして振った。私の中で、いつの間にやら恋の炎は跡形もなく消え、高校で現実に振り回されていた。彼と私の進学先は違ったか、彼は私の忙しさを全く理解出来なかった。私立の自称特進は、公立の普通のクラスと、雲泥の差のものを求められていた。
 毎日、課外授業で忙しすぎて、LINEに返信するのもいちいち面倒だった。次のデートとか考えられない、明日の授業、誰から当たるか、英単のテストの勉強をしないと。それだけでいっぱいいっぱいだった。だから、兄の受験を言い訳に、LINEで振った。今思えば最低である。当時もやべぇな私とは思っていた。出汁にされた兄、可哀想。でも、消えてしまったものは仕方ないのだからと、LINEを消した。恋という落とし穴からいつの間にか這い上がっていたのだ。

 炎のような恋だった。燃え上がり、派手に火花を散らし、やがて炭になる。今じゃ、その炭も何処かに無くしてしまった。その炭と、炭の全盛期を思い出すばかりだ。
 田舎は、遊びに行くところは少ない。だから、ごく稀に彼と会うことがあった。ショッピングセンターや駅前で、遠目から凝視され、一人爆笑し、共に居た友人に正気を疑われたのは何度あったか。まだ燻っているのかもしれないと思った。酷く、早急な振り方で、しかも県外デートのすぐ後。申し訳ないとは思っているが、後悔は無い。

 恋という漢字には、心という文字が入っている。この漢字の編は、れんがだったか、なんだったか。しかし、今の私にも、高校一年生の私にも、彼に心は無い、ただ、濃ゆい思い出があるだけ。彼はどうだろう。もう、私は大学二年である。彼も、進学しているのならそれぐらいだろう。高校卒業後に就職したなら、社会人二年目。彼の壮絶な恋の最期から四年は経っている。私のように、冷静に分解して笑い話にでもしてくれればいい。もし、万が一、億が一、まだ炎を上げて燃やしているのなら、勘弁して欲しい。

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