見出し画像

城崎にて #7 地蔵湯と本

地蔵湯

城崎にある7つの外湯めぐりも遂に最後の地蔵湯となった。時間帯にも寄るのだろうが、地蔵湯は地元の方の利用が多いように感じた。こちらも内湯のみの外湯だが、浴槽はまあまあ大きい。確かに、大きな目玉はないが、広さがあるので、観光客による混雑などは少ないので、よいのだろう。この頃には、だいぶ火照っていたので、ここもあまり長居は出来なかった。

温泉から上がり、2階にある広めの休憩スペースで休憩する。自販機があったので、なんとなくコーヒー牛乳を買って飲んでみた。冷たくて甘い。
そういえば、この湯上がりのコーヒー牛乳というど定番の組み合わせをするのは、初めてだったかもしれない。大概、湯上がりに飲むとしても水かスポドリが多かった(そのほうが体には良いんだろうが)。
やはり、世間一般で良いとされている物は良いのだなと改めて思う。地蔵湯の建物から出た頃には、暗くなり始めていた。夕涼みを兼ねながら、夕飯をどうしようかとそぞろ歩きに興じた。

夕方の城崎

夕飯は、居酒屋で地ビール片手にグベ(ゲンゲ)の揚げ浸しをいただいた。これがなかなかうまかった。このお店は本当に良かった。

ほろ酔い気分で、再びそぞろ歩きに興じる。そういえば土産物屋をあまり見ていなかったなと思い、空いていた大きめの土産物屋を冷やかしてみる。
温泉まんじゅうや萩の月みたいなお菓子、誰が買うとも分からぬキーホルダーなど全国各地の温泉街・観光地にもありそうな品々を眺めていると通常、土産物屋にはまずないであろう物が目に入った。棚に本が置いてある。しかも、ガイドブックなどではなく小説で、しかも見たことのない小説だ。物珍しさに、思わず手に取る。

4種類ほどあって、1つは志賀直哉「城の崎にて」なのだが、A6版くらいのサイズで、注釈本との2冊組だ。他の2つは湊かなえと万城目学の小説で、装丁が面白い。最後の1つは絵本のようだ。この本たち、地元のNPOが刊行している本のようで城崎でしか販売していないらしい。

せっかくなので「城の崎にて」と万城目学「城崎裁判」の2冊を購入した。

早速、宿に戻り広縁で読み始める。
最初に「城の崎にて」に手を付ける。かの有名な短編小説であるが、大昔に読んだはずだが、あまり内容が思い出せなかったので、こんな話だったかなと思いながら読み進める。山手線の車両にぶつかったら死ぬのではないかなどと思っていると、短いのでわりとすぐに読み終わった。
「城の崎にて」のもう一つ組になっている注釈本も手に取る。志賀直哉の説明や志賀が滞在した頃の城崎の様子などが書かれており、なかなか面白い。

もう一つ万城目学「城崎裁判」は「城の崎にて」をベースにして、万城目学らしい世界観が広がっている短編小説だ。こちらも面白いなと思いながら読み進めているとあっという間に読み終わってしまった。一人、広縁で滞在先の温泉を舞台にした小説を読む。なかなか風情があることをしてしまった。窓から涼しい風が入ってきた。

2回目の城崎の朝を迎えた。

朝の城崎

時間的に、朝湯が外湯に入る最後の機会だったので、気に入った鴻の湯に出かけることにした。少し早めに出て、ぶらぶらと散策する。昨夜読んだ「城の崎にて」を思い出しながら「ここらへんが舞台かな」と思いながら歩くとなかなか楽しい。
鴻の湯の庭園風呂でゆっくりして、宿に戻った。

昨日に続き豪勢な朝食に驚きながらも、また綺麗に平らげてしまい、やや苦しい。人間、学ばぬものだ。ただ、3日間ゆっくり温泉に浸かったおかげか、心身ともに軽くなった感じがした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?