九祭

二月の劈く金縛りを経て私は真夏へと生まれ変わりました。蝉霞の中をゆったりと泳ぐ私は、街ゆくサラリーマンやオフィスレイディの額を伝う汗に優しく触れながら、湿っぽい熱を留め、空気を籠らせていました。そのようにして過ごしていたはずなのですが、ふとした瞬間には既に25度の昼間が訪れており、私は姿を消していました。私がいなくなったはずなのに、私はこの街を、世界を観測し、認識できているということは、つまりどういうことなのでしょうか。私とは一体何者なのでしょうか。第二の太陽が私たちを悲惨な目に合わせたことを、この頃になるとよく思い返します。涼やかな虫の音を半分聴きながら、眠ることのない夜を溶かしていきましょう。

また会う日まで。アディオス。

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