『私をはなさないで』を真夏日に読む

抑制された文体に反して、感情の奔流に巻き込まれていた。
ルースの不器用さには困惑しながら号泣した。キャシーとトミーが二人でいるべきことを理解しながら、引き裂く発言をしたのは、自傷行為に他ならない。キャシーとトミーを騙せても、自分自身は騙せない。本当はこんな自分になりたくないのに、大切な人を傷つけることによって自分自身を傷つけている。
ルースは最後にキャシーとトミーのために自分ができることをする。それはルース自身を救うための行為である。

人が人を愛することを直接言葉にしないときに溢れたものが、心を満たした。
キャシーが失くしたカセットテープを、俺が見つけたかったと、トミーは言った。それを渡したとき、キャシーがどんな顔をするだろうと想像していたと。感情は言語化する前からずっと、溢れ出していた。

トミーがキャシーを自分から遠ざけるために言った、ルースならわかってくれる、キャシーにはわからないという言葉に打ちのめされた。Never let me go はキャシーの祈りだった。魂の存在を疑う意味はない。

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