海馬万句合第三回、各賞発表

海馬万句合第三回の各賞は、以下の句・方々に決定いたしました(敬称略)


〈海馬万句合第三回大賞〉

水族館 歴史はいつもかわいそう/スズキ皐月


〈コメント大賞〉

ラジオポトフ(今田健太郎・高澤聡美)



〈川合大祐賞〉

どらやきのかいわいなかだししちゅえいしょん/藤井皐



《 選評 》

〈海馬万句合第三回大賞〉、今回は悩みました。初回、第二回はこれだ!という句に自然に決まったのですが、今回はZoomの「しゃべり倒す会」をした後もずっと決まらないままでした。

その原因を考えながら選評を読み直していたのですが、どうも私自身、今回はムダな力が入り過ぎだったような気がします。すでに発表している選には後悔はありません。しかし選および評に私の余計な念がこもっている気がしましたので、第三回の大賞句は「今回の題にぴったりだ!」と思った句ではなく、そうした思い入れを外してくれた句を選ぶことにしました。

水族館 歴史はいつもかわいそう/スズキ皐月

この句は、題②「Straight No Chaser」で特選句にはなりませんでした。選評では、私は以下のような評をつけています。

「「歴史はいつもかわいそう」とは意外な表現ではあるが、内容的にはなるほどと膝を打つところがある。「歴史はくり返す」とあれほど言われてきたのに、そうした俯瞰的理解は今、そしてこれからの歴史の展開にまったく役に立つように見えない。確かに歴史は気の毒な立場にある(人類がほんとにバカですみません)。句は、こうした世界のみごとな把握に、なぜか「水族館」という帽子をかぶせている。この帽子が一字空けをはさんだ以降の部分にマッチしているのか、どうか。ふつうの考え方ではマッチしていれば好句、そうでなければ失敗。ただ、この「水族館」という帽子は似合っているのかどうかが不明のまま、ただふてぶてしく自分の場所を占めている。無理すればいかようにも意味から解釈をつけることは可能だが、どこかそうした努力をあらかじめ滑稽に思わせるところがこの句にはある。「水族館」は「歴史」を救いもしないし、断罪もしない。そのドライ(水族館だけど)な関係に、この句の好ましさがある。」

Zoomの会では、「水族館」の「族」の字に、「歴史」と関連した意味を読んではどうかという提案もあり、もちろんそれも可能です。ただ、やはりこの句にはそうした意味の読み込みを横すべりさせて、読者を開放してくれるところがあると思います。

〈飛躍〉をとり入れた作品は「現代川柳」と呼ばれる川柳の流れではもっとも〈ありがち〉ではあるのですが、この句はそれとも違った独特の明るさ、風通しのよさがある気がします。歴史が「かわいそう」なほどギスギスしている現状で、「水族館」とその後の一字空けが明るい光を落としてくれているような・・・。

まだまだこの句について語り尽くせているとは思いませんが、その「語り尽くせなさ」がこの句を今回の大賞とする一番の理由です。芸術作品は理解できないところが残るものがもっとも魅力的だ、といえば、ありふれた感想になってしまいますが、まあ、そんなところです。



〈コメント大賞〉

今回の〈コメント大賞〉は個人ではなく、今田健太郎さんと高澤聡美さんのコンビである「ラジオポトフ」に贈らせていただきます。

今田さんは「海馬万句合」全句に評をしていただきました(前回も!です)。note記事に評がまとめられていますが、Twitter(X)でもツイートされていました。

これも「読み」ですか? 15 (ラジオポトフ note より)https://note.com/radio_potofu/n/n29888f505dca

それもスゴイ!、ありがたい!のですが、今回は特に音声でイベントをとりあげていただいたことをもって、〈コメント大賞〉としたいと思います。

ラジオポトフ(spotifyより)
Ptf.356 《現代川柳の旅路》 海馬万句合第三回のお気に入り句
https://open.spotify.com/episode/2DvBrEfqE690zmNaLxbG5p?si=YdVuDwWdQea8GNxEm4YcbQ&nd=1

Ptf.360 《現代川柳の旅路》 海馬万句合第三回のお気に入り句・2https://open.spotify.com/episode/682rdLvq6VLMl46Lyzmwpx?si=4c2jU6VlSUW5kZzlbAHiLA&nd=1

Ptf.364 《現代川柳の旅路》 海馬万句合第三回 おれたちの句(41分)
https://open.spotify.com/episode/1pH5YFejfmvt8ID4QT65A3?si=qySNS05xSMyfUXq-ddVmzw&nd=1

川柳を書き、読むのは楽しいですが、川柳についてああだこうだと話すのも楽しいものです。「もっと川柳を語ろう!」ということで、まず、みなさん、ラジオポトフを聴いてください。そのうえで、それぞれ、いろいろな場で川柳について語っていきましょう!(気軽に聴ける川柳コンテンツがもっともっと増えればいいですね。)


〈川合大祐賞〉

〈川合大祐賞〉選評は、以下の記事をご参照ください。
「海馬万句合」第三回 題④「界」選評(川合大祐)
https://note.com/umiumasenryu/n/nc892db4bc391


次回以降、少しかたちを変えようかと考えています。例えば、題を指定しない雑詠をとり入れる、一つの題を2人で選評する「共選」にする、数句からなる連作を募集するなど・・・。いずれにせよ、あと2回はやる!とZoomの会で宣言してしまいましたので、またの機会もお付き合いいただけると嬉しいです!

ではこれにて、海馬万句合第三回はお開きとさせていただきます。ご投句いただいた方、作品・評を読んでいただいた方、みなさまに御礼を申し上げます。

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