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文学フリマ東京37出店のお知らせ お品書きと試し読み

 どうもこんにちは海月 灰です。
 11月11日土曜日の文学フリマ東京37に出展しまーす!
 今回はタイトル通り作品のお品書きと試し読みです。

出店場所:第2展示場Eホール あ-07,08
団体名 :HL秋葉原
作品  :小説『ハッピーエンドの終点を君へ』

お品書き

イラスト 白瀬さん

 作品のキャッチコピー
『人生は
  傷がなくては語れない』

心に傷を負った大人と子供のお話です。
 ジャンルとしてはヒューマンドラマ系になります。

試し読み
 全七話+あとがき
 内一話+二話 公開(26ページ分)
 三話以降のサブタイトルは一応隠しておきます。

ハッピーエンドの終点を君へ 海月 灰

目次 

 第一話『傷物Ⅰ』

 第二話『傷物Ⅱ』

 第三話『──』

 第四話『──』

 第五話『──』

 第六話『──』

 後日談『──』

 あとがき

第一話 『傷物Ⅰ』

 私は林原奈緒美。24歳の一般女性。
 高校2年生の時に男性教師からセクハラをされた。そのことがトラウマで男性恐怖症になり、一時期自分の部屋に引きこもっていた。
 おしりを触られた。胸を揉まれた。だけなら嫌な思い出になるくらいかもしれなかった。
 だけど私がされたのはそんな生ぬるいものではない、学校で水筒に薬を盛られ、犯されそうになったのだ。
 忘れたくても忘れられない。心の負った深い傷とはそういうものだ。
 正直こんな風にあのことを話せるくらいに立ち直れているのが自分でも信じられないが、当時いつも私の隣にいてくれた親友のおかげだろう。あの頃の私は毎日が灰色で、自殺することも考えたほど辛かった。
 どんどん沈んでいく海の中で、身体がぐちゃぐちゃに潰されていくような日々。そんな日々から、親友は私を救ってくれた。
 私を救ってくれた親友は高校卒業後に海外の大学に行ってそれ以降一度も会っていないし、連絡も来ていない。嵐のように現れ、嵐のように去っていった女だ。
 今はどこにいるのかもわからない。電話番号だけはかろうじて残っている。
 私から電話でもすべきだろうか。でも急に電話を掛けるのは変かな……などと思っていつもケータイをそっと閉じてしまう。
 それももう過去の話。高校卒業から6年が経った。20歳の時に母親の薦めで里親登録をした。理由は男性恐怖症を克服するためである。最初から青年や成人男性と接触を図るのではなく、小さい子どもから慣れていけというお達しだ。おかげで去年まで3年間、男の子と1つ屋根の下で暮らしていたわけだけれど。その甲斐あってか男の子と話すのには慣れた。まだ成人男性とかと話すのには抵抗があるけど。
 私は今は1人で住民の少ないアパートを借りて暮らしていて、こじんまりとしたカフェの厨房でバイトをしている。女性従業員が多くてなおかつ時給がいい。店長には事情を話していて、接客はやらなくていいと言われている。優しい世界だ。

「お疲れ様です」
 バイトを終えて店長に挨拶をして店をでる。時刻は22時過ぎ。
 紅葉した葉は地面に落ちて、冷たく乾いた風が肌をなでる。マフラーを巻いて、お気に入りの黒コートのポケットに手を入れる。はぁと吐いた息は白く、暗闇に溶けていく。
 12月、季節はすっかり冬模様だ。
 自販機で、カイロ代わりのホットコーヒーを買う。冬はこれに限る。
 駅前の街路樹にすっかりイルミネーションが施されている。心なしか人通りもいつもより少し多い気がする。12月も始まったばかりというのに、街は既にクリスマスムードだ。
 そんなのをおかまいなしに私は24時間営業のス―パーに入った。
 冬が始まったということで、今日の晩御飯は1人鍋にしようと思う。
 もつ鍋、チゲ鍋、白菜と豚肉のミルフィーユ鍋、すき焼きも良いな……。何にしよう。
 なんて心躍らせながらカートを押していると、1人鍋コーナーについた。
 まあ残っていたのは白菜と豚肉のミルフィーユ鍋だけだったのだけれど……。ではその他の鍋は明日以降のお楽しみにしておこう。私は鍋と3パック入りのササキのご飯をカゴに入れた。明日はバイトが休みだから明日の分のご飯も買っていこう。そう思いつつ、カワサキパンをてきとうにカゴに入れた。
 さて帰るかとセルフレジに並んだのだが、お金を払おうと会計ボタンを押したら画面がフリーズして店員呼び出しアラートがでた。そしてすぐに店員がかけつけてきた。対応が早いのはありがたいのだけれど、来たのは大学生くらいの男性店員だった。
 あの時のことが蘇る。怖い。
 店員が私の横で画面をいじっている。自分でもわかるくらい心臓の鼓動が早くなっていた。できることなら5メートルくらい距離を取りたいのだけれど、流石に失礼だと思って離れられない。このまま会話もなく終わってほしい。
 だが、こういう時は都合よくいってくれないものである。
「すみません。こちらエラーが収まらないので他の台の使用をお願いします」
「あっ……わ、わわ、わかりましたッ!」
 息が詰まりそうになる。
 緊張して声が裏返ってしまった……恥ずかしい。
 私はそそくさと他の台に行き、ぱっぱと会計を済ませスーパーを出た。
 最初から他の台を使っておけばよかった……。なんて思いつつ帰路を歩く。
 これが私の日常。ちょっと我慢すれば、他の人と変わらない毎日。だから、私は……大丈夫。大丈夫なんだ。そう自分に言い聞かせる。
 家が見えてきた。ゴミ捨て場にゴミ袋が2つ捨ててあるのが目に止まった。
 あぁ、明日ゴミの日だったな〜ってことを思い出した。前のゴミの日はゴミをまとめて袋を縛った所までは良かったけど、バイトに行くとき持っていくのを忘れてまだ家にあるのだった。明日は休みだし忘れないうちに出さないと。
 私は錆びれた階段を上がり、部屋に入る。
「ただいま」
 誰もいない家にただいまと言ってマフラーとコートを掛ける。
 買い物袋からササキのご飯を1パック取り出してレンジにぶち込む。ご飯を温めている間に私は部屋着に着替えた。髪を結びお待ちかねのミルフィーユ鍋を取り出して火をかけた。
 なにか忘れている気もするけれど、鍋が美味しそうにぐつぐつ言っているからなんでもいいや。鍋が美味しい季節、それが冬。

「ごちそうさまでした」
 おそまつさまでした。
 私はパックご飯のゴミと1人鍋のゴミをゴミ袋に捨てる。
「あっ、ゴミ捨てなきゃ」
 家に入る数秒前まではゴミを捨てないとなあと思っていたのに、1歩家に入ったらそのことを忘れていた。まあ、数秒前のことをド忘れするなんてよくあることだし、仕方ない。
 もう着替えちゃったしめんどくさいから明日早く起きて捨てればいいや。
 そして私はシャワーを浴びて寝た。

第二話 『傷物Ⅱ』

 朝5時、アラームをかけた時間よりも早く目が覚めた。
「さむっ……」
 流石、冬の朝は冷えるなあ。私は頭も布団の中に入れて縮こまる。布団の中は暖かい。
 このまま2度寝をかまそうと思ったが、ふとゴミ出しのことを思い出した。重い腰をあげてベットから降り、もこもこスリッパを履きカーテンを開ける。
 陽の光が全身を覆う……訳もなく。辺りはまだ真っ暗だった。冬場は朝6時を過ぎても暗いから、たまに起きた時間が朝か夕方かわからなくなるときがある。昼寝から起きたときとか特にそう。
 私は台所に行った。電気ケトルに水を入れてボタンを押す。お湯を沸かしている間に私はインスタントのコーンポタージュ粉を取り出しマグカップに入れる。買い物袋から昨日買ったパンを取り出した。どうやら昨日の私は焼きそばパンが食べたかったらしい。
 ポン! と音がした。流石あっという間にすぐに沸く電気ケトル。もうお湯が沸いたらしい。私はお湯をマグカップに注ぐ。
 私はこのお湯を注ぐ音が好きだ。そういえば水とお湯では注ぐ時の音が違うらしい。水は細い音でお湯は太い音だと電三郎先生がテレビで言っていた気がする。

「ごちそうさまでした」
 おそまつさまでした。
 さて、ゴミを捨てに行きますか。パンとインスタントポタージュのゴミを入れ袋を縛る。
 ゴミ捨てだけだし部屋着のままでいいか。私はパンパンのゴミ袋を2つ持って玄関のドアを開けた。そして1歩外に出る。
「……さっっっむ」
 私は部屋に戻った。流石に部屋着は寒すぎるのでコートを着てマフラーを巻いた。
 これでよし。私は再び外へでた。
 上半身は暖かいけど裸足でサンダルだからあんよが寒い。早くゴミを捨てて部屋に戻ろう。今日は休みだし掃除機かけてこたつ布団をだそう。そうしよう。
 休日の過ごし方を考えながら私はゴミ捨て場についた。
 そして、ネットをのけてゴミを投げ込もうとする自分の手を、止めた。

 ゴミ袋を枕にして、縮こまって寝ている女の子が居るのだ。

 昨日帰ってきた時には確実にいなかったのを覚えている。
 私は目をこすった。寝ぼけているのかも知れない。なんでゴミ捨て場で女の子が寝ているんだ。そんな訳ないだろう。どこのおとぎ噺だよ。寝起きの頭をフル回転させているが、事態が飲み込めない。何度も目をこすっても女の子は消えない。摩擦で目が痛くなってきた。どうやら夢ではないらしい……。
 いったん深呼吸をして落ち着こう。

 とりあえず……生きてるか確認しよう。さっきから動いてないし死んでたら警察呼ばなきゃだし。いや今も警察呼んだ方がいいのか?
 この時の私は冷静な判断ができていなかった。
 私は女の子の手首に手を添えた。すごく冷たい。あっでも脈はある。よかった、と、ひとまず安心した。このまま眠らせるのはよくないだろうと思い、女の子を起こす。
 声をかけながら体を揺らしてみる。すると女の子は唸り声をあげながら身体を起こした。
 黒くて腰まで伸びる髪の毛、そして靴下すら履かれていない足。モコモコしている白いパジャマ。両腕の裾に、黒く乾いた汚れが目立っている。小柄で、顔つきから見て多分この子は小学生くらいだと思う。一体、何があったのだろうか……。
 目を覚まして私を見た女の子は動揺を隠せないでいた。
「いや、来ないでッ!」
 何かから逃げて来たのだろうかと思うほどに、身体を縮め、怯えた声を出した。
「嫌ぁ……殺さないで……殺さないで……ごめんなさい、ごめんなさい」
 女の子は泣きながら何度もその言葉を繰り返した。
 その様子に、私は胸が締め付けられた。
『殺さないで』その言葉が、小学生くらいの女の子から出ていることに、言葉を失っていた。どれほどの恐怖を、この子は植え付けられたのだろうか。
 私は着ていたコートを脱いだ。
 それを見た女の子は、私が自分を殺そうとしていると思ったのかその場にあったゴミ袋を私に投げつけ、必死に『来ないで』と言って後ずさった。
 私は脱いだコートで女の子を包み、抱きしめた。
 必死に私を引き離そうとする女の子。
「大丈夫、大丈夫だよ。ここにあなたを殺そうとする人はいないよ。大丈夫だから、落ち着いて」
 女の子の頭をなでながら、何度も『大丈夫』を口にした。

 しばらくして、女の子は落ち着いた。
「もう、大丈夫です。コート、すごく暖かいです。ありがとう、ございます」
 その言葉に私は安堵し、腕を離した。
 ……寒い。この寒いなかコートを女の子から取るのは流石に気が引ける。私はマフラーだけで我慢することにした。
 私は自己紹介をして女の子に名前を尋ねた。
「志崎香帆、12歳です」
「どうして、こんな所で寝てたの?」
 単刀直入に聞いた。この状況で、聞かない方がおかしい。それに変に話を濁す理由もない。
「…………それは、その……すみません」
「お家の人は?」
「……」
 黙ってしまった。
「警察に連絡しようか?」
「待って!」
 強く私の手を掴む香帆ちゃん。警察に連絡されて困ることがあるのだろうか。
 下を向いて、深呼吸をする香帆ちゃん。
「一緒に、ついてきてもらえませんか? 警察に連絡するのは、その後で、お願いします」
 これは、ついて行った先に答えがあるということだろう。
 このまま見捨てる訳にもいかないため、ついていくことにした。
「裸足でしょ、何か履くもの取ってくるから待ってて」
 私は部屋に戻りスニーカーを一足下駄箱から取り出し、ついでにケータイを持って香帆ちゃんのもとに戻った。
 散らかったゴミ捨て場を綺麗にもどした後、香帆ちゃんに連れられて家から40分ほど歩いた場所にある家についた。表札には『志崎』と掛けられていた。どうやら香帆ちゃんの家らしい。普通の一軒家のようだ。だけど、門はしまっているのに庭の大窓が網戸ごと開いているのが外からでも見える。風に揺られるカーテンが不気味さを醸し出す。こんな寒い冬に窓を開けて寝る家があるだろうか。違和感。家の前に立って、不確かな憶測ばかりが脳裏をよぎる。もし、中で人が倒れていたら……。
 とりあえず家の人を呼んでみようと思い、インターホンに手を掛けた。だがそれを、香帆ちゃんがさえぎる。
「待って、ください。その……家の鍵、開いてると思うので、入ってください」
 中に何かがある。それはこの状況と香帆ちゃんの言動でなんとなく分かった。ただ中にある物はなんなのかは分からない。この状態で素直に言うことを聞いて、家の中に入るべきなのか。香帆ちゃんの両腕の裾の汚れに目が止まった。思考が鈍っているのか、だんだんと、コートの裾からチラチラと見える黒いそれが、乾いた血のように見えてくる。
「…………ねえ。先に、話してよ。何があったのかを。見る前に、聞いておきたいんだ」
 耐えきれずに聞いてしまった。
「その……………………」
 長い沈黙の末に、香帆ちゃんは口を開いた。

 〇 * 〇

 ここからは少し香帆ちゃんの話。とはいっても香帆ちゃんから聞いた話を元に、私が頭の中で想像したものだから実際とは少し異なっているかもしれない。
 ことの発端は昨日、時刻にして22時。
 香帆ちゃんはいつもこの時間に寝ているそうで、昨日もちょうど、就寝する準備をしていたそう。歯を磨き終えて、自室がある2階に上がろうとした時、リビングから母親と父親の”2人”の悲鳴が聞こえて来たという。何があったのか気になった香帆ちゃんはリビングの扉を開けた。そしてその先で目にしたものは、父親にまたがり何度も何度も父親の胸を刺すマスクを被った不審者の姿だった。その時母親は、目の前で起きていることに腰を抜かし、動けなくなっていたのだという。
 父親が完全に死んだのを確認した不審者は、香帆ちゃんと香帆ちゃんの母親を見て、次の標的に母親を選んだのだ。そしてずしずしと、重く、大きな足音を立てながら、母親に近づいた。
「嫌ッ……! やめて……来ないでッ……! 助けて、香帆ッ!」
 そして、ナイフを一振り、また一振りと、母親の胸を刺した。
 香帆ちゃんの目の前で、もがき苦しみながら母親は死んだという。
 その時の香帆ちゃんの頭の中は助けなきゃという考えで支配されていた。既に母親は息などしてなかっただろうが、助けてという母親の声に応えようとしたのだ。
 そして香帆ちゃんはキッチンから果物包丁を取り出した。
 だが、香帆ちゃんは包丁を手にもった途端、動けなくなってしまった。
 母親を助けなくちゃいけない。でも、どうやったら助けられるのか。何をすればいいか分からなかった。
 足音が聞こえる。1歩、また1歩とタイムリミットが迫る。そして不審者が香帆ちゃんの前に現れた。考えるよりも先に勝手に身体が動いていた。香帆ちゃんは包丁を思いっきり握りしめ、不審者に向かって突進した。両腕の袖の汚れはこの時の返り血によるものらしい。
 包丁は香帆ちゃんからみて右側のお腹に刺さり、不審者はその場に倒れ込んだ。
「か──────はッ────」
 香帆ちゃんは母親と父親の元に駆け寄った。
「お……ママ! パパ!」
 その時、香帆ちゃんは初めて人の死を目の当たりにしたのだ。生臭い血の匂い、肉の裂け目から漂うほのかな暖かさ、そしてその気持ち悪さに、胃の中の物が床に広がった。
 背後、刺されて倒れていたはずの不審者が立っていた。そして香帆ちゃんに向けてナイフを振りかざした。恐怖が香帆ちゃんを支配する。逃げなきゃとその一心で裸足で家を駆け出した。そしてそこからただひたすらに走り続け、アパートのゴミ捨て場で疲れ果てたのだった。

 〇 * 〇

 そして現在。
 私は庭の大窓から部屋の中を確認した。
「……っ」
 息を呑む。想像よりもむごたらしい殺人現場が、そこにはあった。
 3人が死んでいる。香帆ちゃんの両親に、マスクを被りうつ伏せで倒れている不審者。
 こんなの、12歳の子供が経験していいもんじゃないだろ。
 これを経験した後に、あそこまで冷静になれる香帆ちゃん、どんだけ心が強いんだよ。
 ズボンを強く握りしめ、湧き上がる様々な感情をぐっと堪える。
 6時20分、警察に通報した。
 電話のまま状況を説明した。
 それからすぐに刑事や鑑識などが来て、ことが大きくなっていった。

「どうも、千葉県警の田中です」
 灰色のコートを着た30歳くらいで眼鏡を掛けた男性刑事が話しかけてきた。
 田中と名乗った刑事さんの後ろには白いコートを着た1つ結びの女性刑事がいた。
 安心すべき相手だと分かっていても、私は思わず足が後ろに動く。
「……大丈夫ですか?」
「あっいえ、その、私、男性恐怖症で」
「それは失礼」
 田中さんは頭を軽く下げて後ろを向いた。後ろにいた女性刑事の肩にポンと手を置きそのまま鑑識さん達に話かけに行った。
「ここからは私が。車の方でお話をお伺いしてもよろしいでしょうか」
 そうして刑事さんに連れられ私と香帆ちゃんは刑事さんの車に乗せられた。てっきりパトカーの方に乗せられるのかと思ったけど普通に売ってそうなシルバーの車だ。移動している時に気づいたが、近所の人たちが集まり人だかりができていた。人だかりに気づいた香帆ちゃんは私の手をぐっと掴んでいた。
「改めまして、園田李依です。事件について、詳しくお話ください」
 香帆ちゃん、私という順で事件について知っていることを園田さんに話した。

「ありがとうございました。事件についてはくれぐれも、他言無用でお願いします。それと後日また、署の方にお呼びしてお話を伺うことがございますのでご了承ください」
「あの、園田さん。私って逮捕されるんですか」
 香帆ちゃんが重々しい表情で園田さんに尋ねた。
「私多分、あのマスクを被った人を、殺しました。どうなっちゃうんですか」
 園田さんは一瞬表情を曇らせたが、真っすぐと香帆ちゃんを見た。
「香帆さんは12歳とのことなので、少年法が適用されます。が、現場の状態と、お話頂いた事件当時の状況から見るに、正当防衛として処理されると思われます。しばらくは児童相談所の保護施設に送致され、親族、もしくは”里親”への委託が行われるはずです」
 園田さんの話を聞いていて、里親という言葉が耳に止まった。
 …………──────。
 いやいや、何を考えているんだ私は。
「両親以外に、連絡の取れる家族がいない場合ってどうなるんですか」
「私も、その手の専門家という訳ではないので間違っている場合もあるかも知れませんが、もし連絡の取れる親族がいないというのであれば、児童自立支援施設という場所に入所だったと思います。連絡が取れる親族の方はいますか?」
「い……ない、です」
 涙を必死に堪える香帆ちゃんだったが、ボロボロと大粒の涙があふれだした。
 鼻水をすすりながら、両腕で涙を拭う香帆ちゃん。
 ずっと、我慢してたんだろう。辛いのも、不安な気持ちも、全部押し殺して。
 酷い話だ。
 この子は、このままならきっと、施設で暮らすことになる。
 知り合いも家族もいない、どういう人がいるかも分からない場所に、いきなり入れられて、その人たちとの共同生活を強いられる。
 でもそれは、私には関係ない。
 私はただ、事件に巻き込まれただけ。香帆ちゃんに会って、事件現場を目撃しただけなんだ。これ以上深く関わる必要なんてない。
 ──────だけど。
「ねえ香帆ちゃん。もし、よかったらさ……」
 私は知っている。人生のどん底を。それがどれほど絶望的かを。どれだけ苦しいかを。どれほどまでに孤独かを。その中で、隣にいてくれる人の大切さを。知っているから。
 かつて私がそうしてもらったように。私も。
「私と一緒に暮らさない?」
 この子の支えになりたいんだ。

第三話『──』
これ以降は是非文学フリマでお手に取りご確認ください。

第二展示場Eホール あ-07,08で待ってます。
では当日にお会いしましょう!
海月灰でした~ばいばい

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