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なぜ水中で呼吸をするのが難しいのか

陸上では、酸素があることが当たり前です。地上のどこにいでも、私たちの肺を満たすのに十分な酸素が無制限で手に入ります。海はそれとは全く異なる世界であり、海中の酸素は数分で消えてしまい戻ってくるのに数十年かかる希少な資源になっています。体積当たりの水準で比較すると、水は空気よりもはるかに少ない酸素しか含まれていません。海水における高濃度の酸素レベルは、12mg/L程度と言われています。一方、空気には約250mg/Lの酸素が含まれています。これが意味するのは、魚は水から酸素をより効率的に取り込む必要がある、もしくははるかに大量に呼吸しなければならないということです。幸いなことに、魚は私たち人間のように空気を肺に取り込んでから戻すといった呼吸をしておらず、代わりに泳いでエラから水を組み上げることで継続的に水を流しています。これにより、魚は低酸素濃度の世界で生き残り、繁栄をしているのです。

海洋では、水の酸素含有量は大きく変動する可能性があり、主に水温が作用しています。直感に反しますが、低い水温は気体の溶存飽和濃度を高くします。通常、私たちはお湯の方が飽和濃度が高いと考え、砂糖を冷たい紅茶ではなく熱い紅茶で溶かしています。ただし、水への気体の溶解をコントロールする化学的性質は固体とは異なっており、南極周辺の冷たい海水は通常、赤道近くの温かい海水よりもはるかに酸素が豊富なのです。 0°Cの海水と30°Cの海水の溶存酸素飽和濃度の差は約54%もあります。ただし、飽和濃度は、理想的な条件下での水の溶存酸素量を示しており、実際に測定された濃度を示すものではありません。実際の酸素濃度は、プランクトンや魚などの海洋生物による酸素の生成と消費、および空気から水中への酸素の拡散によってコントロールされています。

通常、酸素濃度は、水と空気が混ざり合う表面近くで高くなります。海洋が非常に穏やかで、水がほとんど混ざり合わない海域では、海底近くの酸素濃度は0 mg / Lまたは限りなくその数値に近くなる可能性があります。これは、バクテリアがすべての酸素を消費してしまい、かつ海底の水が海表面近くの水と混ざり合わないためです。また、他にも極端なケースですが、酸素濃度が非常に低くなる場合があります。例えば、前回のブログで説明したように藻類ブルームが発生したときや、魚の密度が非常に高く水の動きが少ない生け簀で魚を生育する際に発生することがあります。

水とは対照的に、空気中の酸素レベルは比較的均一であり、温度のせいで大幅に変化することはありません。空気中の酸素濃度は高度によって変化します。標高3000メートルでは、空気の酸素濃度は海面よりも約30%低くなります。数日はかかってしまいますが、人間がより高い高度での低酸素レベルにも適応するように、魚は海洋環境の酸素濃度の変化に適応する能力も備えています。

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※アメリカのチェサピーク湾に生息する様々な生物の最低限必要な酸素レベル(出展:ウィキペディア)

魚は一般的に、健康状態に害を及ぼさないために5mg / Lの最低限の酸素濃度を必要とします。一部の魚種はこの濃度未満でも生き残ることができますが、一般的には高濃度の方がより良いでしょう。自然界の海では、魚が低酸素濃度の水域に遭遇した場合、彼らはその海域を避けるために泳ぎ去ります。しかし、生け簀内では魚は環境を変える自由がないため、魚に十分な酸素がある状態にするのは養殖事業者にとって重要なポイントです。貝も生育のために酸素を必要としますが、貝類の多くは活発に動き回ることができません。ムール貝、アサリ、カキは、殻を閉じることで低酸素状態でも一時的に生き残ることができますが、新鮮な酸素を豊富に含んだ水がそれらのそばにずっと流れてこない場合、最終的には死んでしまいます。光合成によって酸素を生成する海藻類でさえ、特に日光がない夜間の呼吸には酸素を使用します。すべての養殖事業者は、農場近くの酸素レベルに注意を払い、それが魚類や貝類、海藻類にどのように影響するかを理解する必要があるでしょう。

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